お久しぶりです

 

「レティちゃんは何処の所属?」

「あっ、何処だろう…なんかミズキ様の所に行くように言われました!」


「ん? ミズキ様? 誰に言われたの?」

「怖そうな人です!」


 怖そうな人は何処にでも居る共通語。ブリッタさんに、上司の名前は覚えるように…めっ。とお叱りを受けたけれど、そんなご褒美を私に与えないでおくれ。


「まぁ良いわ。場所は解る?」

「解りません!」


「駄目よ。お城の事を調べておかないと…お客様が来て答えられなかったら大変なんだから。まだ私は時間があるから、付いてらっしゃい」

「はい! ありがとうございます!」


 あっ、つい抱き付いてしまった。

 はぁ…良い匂い。香水じゃないな…ぼでーくりーむに似た匂い…

 あれ? メイド服の生地が全然違う…ブリッタさんのメイド服…肌触りが最高だ。思わずスリスリしてしまう。


「ちょ、ちょっと…くすぐったいわよ」

「あっ、すみません! ブリッタさんが良い匂いで肌触り最高だったのでつい!」


「もう、外でやっちゃ駄目よ。でもレティちゃん、凄く良い匂い…何の香水使っているの?」

「私は花油です」


「花油って何?」

「私が作っているお花のエキスです。良かったらこの花油使って下さい!」


「えっ、あっ、ありがとう…」


 試作のブルークイーン花油。

 …この水色の髪に馴染ませたい。今すぐ馴染ませたい……静まれ! 私の欲望!


「使い方は、こうやって手に数滴垂らして温めて……すみません髪をほどいて下さい!」

「えっ、うん」


 スルーっ。あっ、ついやってしまった!

 水色の髪に馴染ませると、ふわりと新鮮な花の香りが漂う。落ち着いたエレガントな香り…ブリッタさんによく似合う。


「凄く良い香り…凄い気に入ったわ!」


「わぁ…良い、良いですねぇ! ブルークイーンの花油は凄く人を選ぶんですが、見事ブリッタさんに馴染みました! 合う人を探していたんですよ! あぁー作って良かったぁー」


 うんうん。良いね良いね。

 ブリッタさんの髪を束ねると、綺麗な艶…色気が増した。

 …ん? どうしたのかな? 顔が引きつっているけれど…


「これ…本当に…ブルークイーン…なの?」

「はい。それがどうかしました?」


「これ作るのに…何本使ったの?」

「百本から先は数えていませんよ?」


「いや、百…これ…幾らするのよ…」


 あぁ、原価ゼロだから忘れていたよ。値段はお察しだね。


「あげますんで、気にしないで下さい。優しくしてくれる方には、御返しをしないと気が済まない性分でして…じゃあ行きましょうか」

「いや、あの、大事に…するね」


 可愛いー。ブリッタさんは、十七歳で彼氏は無しか…

 初対面の怪しい地味女にも優しくしてくれるから、凄い好感の持てる人…何故彼氏が居ないのか不思議だけれど、女社会だと難しいかもね。


 更衣施設から出て、小さい扉からお城の中に入る。

 流石は上層メイド、衛兵の顔パス。私も乗じて潜入成功!


「ここの従業員通路はよく迷子になるから気を付けてね」

「はい! 気を付けます!」


 従業員通路だから、少し狭い。

 私もよくこういう通路を使って登校していたよ。

 入り組んだ通路を進んで、金網の扉の小部屋に入ると、ウィーンという音を立てて上昇。お洒落なエレベーターだな。


 エレベーターはゆっくり上がり、チーンという音と共に金網が開いた。


「ここが中層よ。ミズキ様は…今日はお部屋で書物を読む日ね」

「ほー、この予定表はミズキ様専用ですか?」


 エレベーターの近くにミズキの予定表を確認…上手く管理されてんなぁ…ミズキはどう思っているんだろう。


 エレベーター部屋から出て、扉の並ぶ場所にやって来た。

 ここは客間や中層の会議室があるフロア。

 その一室にミズキは居るらしい。


 ブリッタさんが奥の角部屋をノックした。

 すると、「はーい」という聞き覚えのある声。


「ミズキ様、少しよろしいですか?」

 ガチャリと扉が開き、ひょっこりと顔が出てきた…


「あっ、ブリッタさん…どうしたんです? ん?」


 ミズキが顔を出して、ブリッタさんを見た後に首を傾げて私を見た。

 気付くかなー。

「この者が、ミズキ様の元へ行くようにと…」

「聞いてないですけど……んー? あなた…どこかで…」


「お久し振りです。ミズキさん」


 スチャッと一瞬だけ地味モードをオフ。するとミズキが硬直…みるみる顔が青ざめていく。やっほー。


「う…わ…なん…で…」

「えっ…レティちゃん?」

「折角なんで、ブリッタさんもお部屋に入りましょうか。ミズキさん、良いですよね?」


 ――ガッ!

 ミズキが扉を閉めようとしたけれど、既に足を挟んでいたのさ。はっはっはー! お見通しだよ!


 そこからグイグイ中に入って、ブリッタさんも手を掴んで連行。

 後退るミズキを見据えながら、扉を閉めて鍵をカチャリと掛ける。そして、最近覚えた封印魔法で扉を封印。

 ブリッタさんは状況が掴めずオロオロしている…まぁ勇者がビビる存在なんて中々居ないもんねー。


「ア…ア…あ、あなた…なんで…」

「ん? あぁ…枷がありましたね」


 深淵の瞳でミズキに掛けていた私の枷を取る。

 これで名前呼べるぞー。


「ア…アレスティア…王女」

「えっ…王女…」


「遊びに来ちゃいましたー!」


 地味眼鏡を取り、腰に手を当てて横ピースを右目に決める。

 どやぁ!

 私のメイド服姿は!


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