レイン王国へ

 

 バラスに別れを告げて、星乗りでラジャーナの方向へ戻る。

 荒野を抜けながら、そして魔物を倒しながら他の世界について考えてみた。


 世界によって、色々違う。人の強さも、魔物の強さも、魔力の濃度や空気…世界のランクがあるのかな。だとしたら…裏の世界は一番強いんだと思う。予想では。


 夢…か。

 私の夢は、もう変わっている。

 もちろん、最強種を倒す事はやめない。最強種は、夢から目標になった。


 帝都に戻る予定の三年くらいの内には挑戦してみよう。

 ラジャーナの奥の奥に居るらしいし。



 荒野の入り口…皇女の侍女さんと別れた場所に到着。

 そこから少し進んだら街道にぶつかり、街道に沿ってラジャーナと反対の方向へ進む。


 ちらほらと街道を進む馬車を眺めながら、遥か遠くに見える町を目指す。

 …いやー、楽だな。星乗り。馬車達よ、楽してすまぬな。


 …なんか、私を見上げているな…下から見たら白い物体が飛んでいるように見えるのかな。でも私を見ているから空飛ぶ乗り物に乗った少女的なアレだな。折角だから手を振っておこう。ばいばーい。



 …町が近付いてきた。

 でも町は寄らない。まだ帝国領土だから。

 領土という言葉通り…法律上は地面に足を付かなければ帝国に入った事にはならない。という訳でこの町はスルー。ばいばーい。


 町を越えて、しばらく進めばレイン王国。目印に国境の大きな川がある。名前はノースレイン川で川幅は一キロを超える。

 この時期は雨が多いらしい。川が増水して危険…って本に書いてあったから見るのが楽しみ。

 荒れ狂う自然の猛威って見ていて楽しいもんね。



 景色を眺めていると、川が見えてきた。

 おー…大きい。まぁ誰しも抱く感想だけれど、増水して濁った水が溺れたら助からないよーと言っているみたいだ。


 みんなどうやって川を渡っているのかな。

 なるほど…川岸に小屋があって、『渡し船休業中』と書かれた看板を発見した。

『グリフォン便は東』と書かれた看板も発見。

 …グリフォン見たいな。その内見れそう。


 周りには何も無いし、川を渡ってしまおう。

 増水して濁った川…色々な物か流れている。

 木材、何かのゴミ、ゴブリン、誰かの服、イカダに乗った少女、ゴブリン、馬車の部品、倒木…

「…すけてー」

 川の流れは結構な速さだなぁ。

 所々で渦を巻いて、色々な物がクルクルと進路を変えられている。ここを舟で渡ろうなんて馬鹿だよなぁ。

「た…けてぇー!」

 うん、馬鹿だよなぁ。

 あの女の子は何してんの?


「そこのあなたー! 助けて下さーい!」


 …目の前で死なれると、恨まれそうだから助けるけれど、なんか面倒そうな人だな。とりあえずロープを垂らしてみると、ガシッと掴まった。……星は一人乗りだから、ロープのまま向こう岸まで行くか。


「えっ、このまま行くんですかー! 引き上げて下さーい!」


 …なんか図々しいな。

 ……何か話し掛けて来るけれど、向こう岸までの縁なのでスルー。



 そしてあっさり向こう岸に着いたので、ロープを下げて地面に下ろす。……ちょっと、ロープから手を離してよ。


「早く乗せて下さいよー!」


 ……さらばだ。ロープを切り離して上昇。

 ここの魔物はゴブリンとワニくらいだから…まぁ死なない。それに川岸に町があるから安心だろう。


「待って下さーい!」


 待たねえよー。レイン王国の法律には疎いんだ。余計な事はしたくない。

 とりあえず直ぐ近くの町はスルーして、三十キロ先の町を目指そう。



「……てく…さーい!」

 おいおい、あの子脚速いなぁ…星乗りに付いて来れるのか。

 もう町が見えて来たぞ…

 ……とりあえず町に入りたいし、降りるか。

 降りると、女の子はスピードアップ。直ぐに私の前にやって来た。


「助けて下さいましてありがとーございます!」

「…はい、お元気で」


 私は逃げ出した。しかし、回り込まれてしまった。

 長い赤髪に帽子を被った赤い目の女の子。歳は同じくらいで、白と赤の変わった服を着ている。笑うと八重歯が…牙? 鬼人族? 帽子を取ったら角があるのかな。

 とりあえず進行方向に立つのをやめて欲しい。


「あの白い乗り物なんですかー?」

「まぁ…ちょっと」


「お名前教えて下さーい」

「……」


 名前、か。

 まだアスティ、レティは使えない。第一皇女派が何処まで活動出来るのか解らないし、何かと理由を付けられて帰らざるおえない状況にさせられるのも嫌だ。

 新しい偽名…

 いや、むしろ本名で良いんじゃないかな。

 もし有名になっても解る人には生存確認にもなるし…


「私、エーリンです!」

「…アレスティア」


 普通のアレスティアとして、生きてみよう。

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