私はか弱いんだよ

 

「ねぇねぇアレスティアは何処を目指しているんですかー?」

「…観光」


 結局というか、予想通り女の子…エーリンは付いて来た。


 特に問題なく町に入る。帝都は入る時にお金取るのに、ここは取らないんだな。治安が良いのかな。

 宿を探そう。


「何かお手伝いさせて下さーい」

「いや、大丈夫」


「じゃあお礼をさせて下さーい」

「……とりあえずご飯でも食べようか」


「はいー!」


 進行方向に立たれると邪魔だから、話を聞いてみよう。なんで川に流されていたか気になるし。


 エーリンと近くにある魚料理のお店に入る。

 お昼のピークが終わった後で、空いていたから四人掛けのテーブルに座った。…ちょっと、隣に座らないでよ。まぁ良いか。

 とりあえず無難に魚定食を頼んだ。


「エーリンは、どうして流されていたの?」

「占いで…流れに身を任せろと出たので、流されてみましたー」


「…そう。それ川の流れじゃないと思うよ」

「やっぱりそうでしたかー。自分を占うものじゃないですねー、えへへ」


「占い出来るの?」

「はいー。私はー……占いが出来る家系なんですよー、良かったら占いましょうか?」


 是非ともお願いしたい。占いってしてもらった事無いし。

 変な間があったけれど、素性なんて私も隠しているから気にしない。

 あっ、魚定食来ちゃった。

 先ずは食べよっか。


「エーリンは、何処から来たの?」

「えー、エルドラドって…解ります?」


「……エルメシアの奥だよね。もしかして、そこから流されて来たの?」

「はいー。お蔭でイカダ作りが上手になりました!」


 君はお馬鹿ちゃんなんだな。

 クーちゃんがエルメシアから半年だから…川に流されて移動スピードが速いとしても二ヶ月は流されている筈……自作のイカダで海まで行くつもりだったのか? それはそれで楽しそうだ。船の旅…考えておこう。


「じゃあこれから国に帰るの?」

「まだ帰りませんよー。行き着く所まで行かないとー」


「ゴールは何処さ」

「…さぁ? ゴールだと思ったらゴールですねー」


 話を聞くと、半ば意地になって流された挙げ句、あの増水した川に行き着いたのか……

 死の淵を体験して、もう心が折れかけていた所に私が飛んできた…という訳だね。


「ゴールに行き着けるように頑張ってね」

「はいー。頑張りますー。あっ、占いしますねー」


 魚定食を食べ終わり、占いをしてもらう。

 懐から透明な球…水晶球を出して魔力を通している。そして、水晶球を通して私を覗くように眺めた。


「……ん? 階段が二つ…天へと昇る輝かしい階段と、地の底へ続く闇の階段。……でも、辿り着く場所は同じ? なんだ…こんな歪なの見た事無い」

「…ありがとう。凄いね、当たっているよ」


「……アレスティアは、一度死んでいるんですか?」

「うん。そうだよ」


「だから曖昧なんですね…魔界に行った事があるんです?」

「魔界? 無いよ」


「……そうですか」


 その後は少し雑談をして、お店から出る。

 さて、宿を探そう。


「じゃあ、元気でね」

「はいー」


 エーリンに別れを告げて、町の中心部へ向かう。

 適当な宿を見付けたら、転移ゲートでパンパンに帰ろうかな。


 …あっ、雑貨屋さん。レイン王国の工芸品とか見ておかないと。

 雨具が多いなー。レイン王国って名前の通り雨が多いから、充実している。お土産に買って行こうかな。


「沢山買いますねー」

「お土産にね」


「この浮き輪があれば海に行けそうですねー」

「ワニに食べられるよ」


 まぁ、小さい町だから直ぐにエーリンに遭遇するよね。

 ニコニコしながら雨具を見ている…その牙に噛まれたら痛そうだなー。


「アレスティア、私…大変な事に気が付いたんですよー」

「予想は付くけれど、なに?」


「お金が無いんですよー」

「うん、だと思った。それで?」


「私を雇いませんかー?」

「…雇うと言ってもやる事無いよ」


「なんでもしますよー。お礼も返せていませんし」


 うーん…本当にやる事無いんだよな。

 話し相手くらいだよ。

 ずっと一緒という訳では無いから、一時的な旅なら良いけれど…エーリンと旅って不安しか無い。


 でもここで断ったらエーリンは路頭に迷うか、また川に流されるか……


「……ちゃんと言う事聞くなら良いよ」

「はいー! ありがとーございます!」


 仕方無い。少し視えたけれど、悪者じゃないから良しとしよう。でもエーリンは鬼人族の中でも特に力が強い赤鬼族…この見た目でパワータイプなのか。


「部屋は別々だから」

「えー!」


 えー! じゃないよ。エーリンが寝相悪かったら、朝起きて骨折れているとか嫌じゃん。

 ちょっと…嬉しいのは解るけれど手を繋がないでよ。手がミシミシ言ってんだからさ。


 ポキッ。

 あっ、手が折れた。ハイヒール。


「エーリン、私はか弱いんだ。触るの禁止」

「そんなー! 酷いー!」


「まず手を折った事を謝れ。話はそこからだ」

「えへへ。つい」


 ついってなんだよ。知っているか? 性格の悪い美少女には、その半端な謝罪は効かないんだよ。つまり私にその笑顔は通じない。


「エーリン…事故が起きる前に…力の加減を完璧にして欲しい」

「私…優しい…ですよー」


「人間の子供は、私より脆い。子供を傷付けた罪を背負えるか?」

「……背負えません」


「……宿で練習、するよ」

「……はいー……」


 力の加減や、常識の違いを教える…これは親の仕事だろうに……もしエルドラドへ行く事があったら、文句を言ってやろう。


 エーリンが誰かを傷付けて後悔する前に、出会えて良かった。


 さぁ、練習練習!

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