もっと早く言ってりゃ良かった
さて、そろそろ帰るかな。
明るい方が襲撃に遭いにくいし。
身辺整理を早く終わらせないと。
「じゃあ、そろそろ私は帰ります」
「さっき言ったわよね、帰れると思わないでって」
「私なら余裕で帰れますよ。まぁ、安心して下さい。私は明日、帝国を出ますから」
「……どういう事?」
「暗殺者に追われる生活は嫌なんですよ。周りに迷惑を掛けるくらいなら帝国を出ます。良かったですね、私を追い出せて」
「……」
なんだよ黙って、そこまで考えてなかったのかよ。
力や後ろ楯で捩じ伏せる事は簡単だけれど、それは違うと思うし。
まぁ帝国を出る良い切っ掛けになったかな。
色々学ぶ事が出来たし。
っと決まれば皇女に構っている時間が無い。
「因みにこの眼鏡、録画機能があるんですよ。ではもう会わない事を願って、お元気でー。星乗り」
白い星を出し、大きくさせて乗り込む。
ここが外で良かったよ。
ポカーンとするみんなの顔を拝みながら、スーッと上空へ上がり、最初の目的地は……騎士団に行くか。
星を陰にして、パパッと動きやすい格好に着替えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
騎士団に到着。
特事班の詰所前に降り立ち、中に入る。
中にはミリアさん、ロバートさん、クーちゃん、フーさんも居る。丁度良かった。
「どうもー」
「あら、アスティちゃん。お城へ行っていたんじゃないの?」
「はい、その事なんですが…第一皇女に喧嘩を売ってしまったので、明日帝国を出ようと思います! 今までお世話になりました!」
「「「は?」」」
ビシッと敬礼。
いつでも辞められるように用意していた退職届けをミリアさんに渡した。旧地味眼鏡も返却。
「えっ、いや、ちょっと…何があったの?」
「可愛い私に嫉妬したみたいなんですよー。そのせいで暗殺者に追われる生活になりそうなので。急で申し訳ありません」
ざっくり概要を説明。本当にすみません。
もっとやりたい事もあったのに…中途半端になってしまった…
クーちゃんおいでおいで、ギューさせてー。
いや、フーさんは来なくて良いよ。絶対尻触るでしょ。
「レティ、私も行くです」
「クーちゃん…」
「クー、駄目よ。レティちゃんが困るわ」
「嫌です」
「クー、あなたが所在不明になったらエルメシアと帝国が国際問題に発展する。その原因がレティちゃんだったら、指名手配されて二度と帝国には帰って来れないわ」
「……レティ、行っちゃ駄目です」
クーちゃん、ごめんね。
落ち着いたら戻って来るから……
そういえばクーちゃんとフーさんの立場を聞くの忘れていたな。エルメシアの貴族かな?
「……アスティちゃん、今退職は難しいかも。休職でも良い?」
「あっ、はい。何かあるんですか?」
「いや、もう少しで発表されるんだけれど……とにかく、休職ね。その方が良いわ、うん」
「アスティ、どの国へ行くんだ?」
「うーん、考え中ですね。ラジャーナの転移ゲートと繋がっている国になりそうですが」
近隣の国は何故かラジャーナ行きの転移ゲートがある。フーツー王国もそうだったし。
初代皇帝がそうしたみたいだけれど、理由は解らない。
あっ、お友達に会いたくなったらラジャーナで会えば良いのか。
通信魔導具がある訳だし…
「クーちゃん、ラジャーナでなら会えると思うから。落ち着いたら連絡するね」
「レティ、本当です?」
「うん、ずっと会えない訳じゃないよ」
少し気が楽になったな。
ミリアさんに、リックと騎士団長さんに伝言を頼んだ。
あと学校には退学届けをお願いした。
じゃあ次は、パンパンかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パンパンへは星に乗ると目立つから、駆け足で到着。
裏口から入って、ムルムーを発見。抱き付いて拘束する。
「ムルムー、準備が出来たら帝国を出るね」
「姫さま…正体がバレたんですか?」
「姫さま言うな。魔眼持ちの第一皇女に、私は魔眼持ちって言ったの。結果は解るでしょ?」
「第一皇女派からの襲撃ですか…本当に、急ですね」
「パンパンで待ってて。三年くらいしたら戻って来るから…あっ、ラジャーナでなら会えるよ」
「第一皇女が二十歳になれば、結婚…もしくは皇位継承の準備に入る、か……はぁ……了解です。私は、足手まといなのが本当に悔しいですよ。いつでも待っています…必ず帰って来て下さいね」
「ありがとう。大好きだよ」
ムルムーは分かってくれたな。私が言い出したら聞かない事も知っているし。ありがとう。
問題は……背後で不機嫌な表情を隠さないリアちゃんか……
ヘルちゃんはもうお城に行ったのかな? すれ違いになっちゃったな……準備が終わったらパンパンで怒られよう。
「リアちゃん、準備を終えたら帝国を出ます。お世話になりました」
「……やだ」
やだって言われても……
ラジャーナで会えるから、ね。
リアちゃんが何かを出した……なんだこれ? 扉?
「ここのアスきゅん部屋に繋がる転移ゲート。ここなら安心して眠れるから…週七で帰って来てね」
「……いやいや、なんていう物を渡そうとしているんですか……」
本当に困る。これは高価過ぎるよ……
……受け取らないと第一皇女を殺すと言われたから、仕方なく受け取ったよ。
リアちゃん…過保護過ぎるよ。それだけ私を気に入ってくれたんだと思えば嬉しいけれど。
そもそも私の部屋ってあったんだね…知らなかったよ。
「アース王国にあるビッケって町に、アラステアちゃんがよく出没するから、会ってみると良いよ」
「ビッケ…ヤバめな情報ありがとうございます。あっ、これ録画したお茶会です」
「ありがとう…ふふふ」
リアちゃんも大人気ないからなぁ…そこが可愛いんだけれど……変な事しないでね。
まぁ…やるだろうな。色々と…私の事大好きだもんね。わざと私の魅了に掛かるくらいだもの。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パンパンにはまた寄るから、軽く挨拶を済ませて家に向かう。
襲撃の気配はまだ無いから、今がチャンスかな。
「店長、お話があります」
「あら……今、店片付けるわね」
店長は何かを察したみたいでお店を片付けて、準備中の看板を立て掛けた。
そして、お店の奥で向かい合って座る。
「ちょっと皇族と揉めたので、しばらく帝国を離れようと思います。もしかしたら…もう…帰れないかもしれません…」
「そう…分かった。お部屋は、ずっと空けておくから…いつでも帰ってらっしゃい」
「…聞かない…んですか…」
なんだろう…急に寂しくなった。
心が沈むと、誰かの優しさを実感出来る。
優しすぎるよ…店長。
「言いたくなったら、言いなさい」
「分かりました…店長には、聞いてもらいたい。あっ、お茶淹れますね」
私の事を話したら、こうやってお茶を飲みながら話してくれないかもしれない……一番お世話になった人だから、怖いな。
さっきから通信魔導具がプルプルしている…ヘルちゃん、もう少し待ってね。
「あまり時間が無いので、詳しい話はパンパンの店長さんにお願いします。先ず最初に…私は、魔眼持ちです。皇族…第一皇女は、魔眼を持つ私を暗殺するでしょう」
「…だから眼帯をしていたの?」
「はい。でも、第一皇女は私の正体を知らないので、まだ暗殺の手は緩いと踏んでいます」
「正体は…魔眼よりも大事なのね」
「そうです。皇位継承を狙う第一皇女派は、私の事をどんな手を使ってでも殺しに掛かる。店長に聞いてもらいたいのは、私の事で……私は……その、私は……」
あぁ……駄目だ。言うのが怖い……この関係が壊れる…そう、思うだけで…涙が止まらないや……
泣いて俯く私を、店長は抱き締めてくれる。暖かい…
「アスティちゃん、あなたが何者だろうと…何も変わらないわ。ここはあなたの家。私達はもう、家族なのよ」
「てんちょぅ……私…私の名前は……アレスティア…フーツー…ミリスタンと言います……隠していて…すみません…」
ピクリと、店長の腕が動いた。
怖い。何を言われるんだろう……
「凄く、嬉しいわ」
「……店長」
「自慢の家族が、最高の王女様だなんて…こんなに嬉しい事はないわ。ありがとう、本当にありがとう」
「いや、あの…お礼を言うのは、私の方です。店長が居なかったら…路頭に迷っていました」
なんだよ…泣いちゃって…もっと早く言ってりゃ良かった。
その後は…二人で泣いた。
この恩は、少しずつ返していこう。
一気に返して、繋がりが消えるのは嫌だから。
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