もっと、やりたい事もあったのになぁ

 

 一般的に楽しいお茶会とは。

 綺麗に着飾った皇族貴族女子達が、キャッキャウフフしながら流行りやブランドの情報交換をして、女子力を磨き合う会を差す。


 そして、私の言う楽しいお茶会とは。

 一人の平民女子に敵意全開の皇族と貴族達が、権力と圧力と嫌味と口撃を駆使して支配しようとする会を意味する。


 予想の範囲内だし、私の正体さえ言わなければ良い。

 もし私の正体を言った所で、皇女は口外出来ない。アレスティア王女の方が第一皇女よりも支持率が段違いで上だし、魔眼もあると知ったら私の方が遥かに格上。

 つまり、私は次期皇帝も実現可能なのだ。

 面倒だからやらないけれど。


「私は上流階級の遠回しな言い回しが嫌いです。なので、お互いの目的をハッキリとさせましょう」

「…ふふ、そうね。ただ言うだけじゃあ詰まらないから、当て合いをしましょう」


「良いですよ。殿下の目的は、第二皇女の解放ですよね?」

「あら、簡単だったかしら。そう思った理由も教えて貰えない?」


「えっ、良いんですか? 第二皇女に掛けた魔眼の…」

「ストップ! もう良いわ」


 なんだよ。教えてって言ったから言おうとしたのに。

 私に会いたいと言った理由の一つに…皇女がヘルちゃんに掛けていた魔眼の力が、解除された事に疑問を持ったから。


 ヘルちゃん…わがまま姫なんて言われていたけれど、その原因は皇女の魔眼だ。出会った時のわがままヘルちゃんと、今の優しいヘルちゃんは違いすぎる。

 恐らく皇位継承候補から外して、第二皇女派を取り込む事だね。


 それを解っていたリアちゃんは、ヘルちゃんを助けたかったんだと思う。私に魔眼の力を解除させて、ヘルちゃんを第一皇女から遠ざける為にパンパンで働かせたっていうのが真相かな。



「ふふっ、では私の目的を当ててみてはどうでしょう」


 当てたら凄いね。

 最強種に挑みたいっていう目的。

 帝国の事に興味は無いし。


「あなたの目的は、ルーデを利用してリーセントに近付く事よね?」

「違いますね」


「あら、あなたがリーセントに付き纏っているという情報が入っているのよ」

「名乗りもしない男に好意なんて一欠片も無いですね。あの男にはヘンリエッテちゃんが居ますし」


「…知り合いなの?」

「ええ、勇者ミズキをボコボコにした時に知り合いまして。犬猿の仲です」


 ……何さ。嘘は言っていないよ。

 嘘を判定する魔導具が設置されているのは知っているし。

 反応しないから本当だぞ。

 貴族女子達は私の情報が少ないから話に入れず、皇女は私の斜め上な回答に話の切り返しが上手くいっていない。


「勇者を…ボコボコに?」

「はい、この前の美少女グランプリでボコボコにしました。心身共に。気になります? まっ、教えませんけれどね」


 教えませんよー。

 少しでもマウント取りたいだけだから、私強いアピールはやめないよ。


「嘘ばっかり」「これだから平民は」


 おっ、やっと貴族女子が喋ったな。

 二人は口撃する為に喋るけれど、もう一人はずっと喋らないで私を見ている。興味深そうにしているところを見ると、割りと中立なのかな。


「じゃあ試してみます? 私はここに座ったまま、ここに居る全員を十秒以内に殺せます。もちろんそこに隠れている暗部の三名も合わせてですよ」


 暗部さんがピクリと反応した。恐らく身のこなしから…侍女さんが暗部のリーダーかな。


「……嘘は言っていないみたいね。益々何者か気になるわ」


「薄々感じているんじゃないです? 正体は解らずとも、私の存在を」


 帝国皇族に口伝されているはずだよ。

 魔眼を覚醒させた存在について。

 魔眼は特別。

 極稀に平民の中でも覚醒する者も居る…覚醒したら手厚い待遇を受け、貴族になった者も居る程に帝国にとって重要な存在だ。


 私の場合…先祖返りをして、魔眼を覚醒させた。それに加えて御先祖様の力を使える存在…『全てを継ぎし者』


「あなたも…そうだというの?」

「同列では無いですがね。ところで、普通に話を進めていますが……ここに居る全員…この事を口外したら命はありませんけれど良いんです?」


「…まぁ、そうね。私の派閥が殺そうとするわね。でも…それは言えないと思うわよ」

「そうですよねー。第一皇女と対等以上の平民が居るなんて、口が裂けても言えないですもんねー」


 貴族女子達が話に付いていけてないぞ。皇女よ説明してやれ。待っててやるから。

 ……


 その間に私は考えなければいけない。

 今日、私は帰り道に襲撃に遭うだろうな。魔眼持ちと解ったから、私の存在を消そうとする筈だ。

 今の世代で魔眼持ちは第一皇女だけで良いからね。


 どう転んでも暗殺者は来る…

 例え皇女と仲良くなっても、だ。

 あの侍女さんが指揮をしているからね。


 そうなると…私の行動は一つ、か。


 ……はぁ。


 もっと、やりたい事もあったのになぁ…

 まだ途中の事も多い……誰かに引き継ぎを頼むか……


 まっ、帝国を出る覚悟なんて最初から持っていたから良いけれど、お友達になってくれた人達に…何て言えば良いんだろう…


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