楽しいお茶会

 

 ガタゴトと、馬車に揺られる。

 色々魔導具が発展しているのに、どうして未だに移動手段が馬車なんだろう。と、リアちゃんに聞いた事があったな…

『アラステアちゃんが馬車好きなのよ』…という微妙な答えを戴いた。という事は、アラステア様は密かに人の住む場所に来ている?

 もしかしたらすれ違っていたりするのだろうか。


 そんな事を考えているのは、馬車の中がただただ退屈なだけであって…もちろん会話はあるけれど、この侍女さんに興味を持てない。


「平民が殿下と対面出来るだけで、至上の喜び」

「そーですねー」


「殿下の仰る事は絶対」

「へーそうなんですねー」


 崇拝系侍女って何言っても無駄なんだよなー。

 だから適当に流すしかない。

 でも適当過ぎるとまた最初からやり直しだから、肯定してあげなきゃいけないんだよ。こういう人って同じ話するの好きだから……私は逆だから解り合えない。


 窓から騎士さんが見えると敬礼してくる。皇族の馬車だからね。ここは敢えて顔を出して手を振っておく。騎士さん達のえー…っていう顔が楽しくて仕方ない。


 っと考えている間に城が目の前に。

 正面から入らず、ぐるりと馬車用の入口へ。

 馬車が停車し、侍女さんに連れられて城の中へ入っていく。

 ヘルちゃんは先に来ているのかなー?

 それか時間をずらされて私だけ対面とか?

 そうなったら私が楽しいお茶会にしてあげるよ。


 城の通路を進み、階段を上がる。

 ありゃ、あそこに中庭があるよ。そこじゃないのかい?


 階段を上がり、階段を上がり、通路を進みたどり着いた場所は薔薇園…なるほど、ここは第一皇女の庭園か。


「こちらへどうぞ」


 良いんだけれどさぁ、私は私服で良いのかい?

 侍女さんは後ろを向いているし、誰も居ない。

 シュシュッと収納を駆使した早着替え。時間は一秒以下のスピードだから、多分大丈夫。


 侍女さんが違和感に気付き、後ろを振り返った。

 どや。

 私の白いドレスを見て一瞬の硬直。ふんっ、とまた前を向き歩き出した……もっと反応しておくれー。


 薔薇の道を進み、開けた場所にお姉様らしき人が座っていた。

 ふむ、金髪青目の美人…ヘルちゃんに似ているからお姉様で間違い無いかな。

 お姉様以外には、メイドとメイドと…物陰から見ている暗部三人と、貴族の女子らしき人が三人。ヘルちゃんは居ない完全アウェイ。


 これは立場が底辺の私から挨拶しないといけないのかね。

 注目されているから、私が挨拶するのね。

 非公式の場というのは真っ赤な嘘か。

 ならば私も相応の対応をしようじゃあないか!


 両手を握り…顔の前に持っていく。

 そして上目遣い発動!

 行くぜ!


「お招きいただきましてぇーありがとーございますぅ。アスティと申しますぅー。みなさんにぃーお会いできてぇー嬉しいですぅー」


 ぶりっ子アスティちゃん見参!

 見よこのクネクネ!

 きゃー緊張するぅーを表現したこの演技力をご覧あれ!

 おっ、メイドさんが顔を背けてプルプルしている! はっはっは! 見たか!


 貴族女子達はポカーンと私を見つめ、お姉様は微笑みながら見据えている。

 ほれっ、挨拶したからそっちもしなされ。


「…ご挨拶どうも。ヴァランティーヌ・ニートー・グライトよ。座って」


 微笑みは絶やさず、私を見据える青い瞳は笑っていない。

 ほうほう。なるほどね。


 貴族女子も挨拶してきたけれど、これが終わればもう会わないだろうから覚えなくて良いか。

 これが世の中にある圧迫面接という奴か。

 身分の高い者が並んで注目してくる。

 無駄話をしないから、勝手に気不味い雰囲気にさせられるあれだ。


「さて、あなたの事を少し調べさせて貰ったわ。一年前に帝都にやって来て、鉄拳の元で下宿しながら騎士団特事官に所属した。現在は特事官をしながら、西学校に通っている。間違い無い?」


 鉄拳って店長かな?


「はいぃーそうですぅー」

「……それで、あなたに質問。帝都に来る前は何をしていたの? ルーデのお友達だから身元はハッキリとさせたいのよ」


「えぇー、他国で引きこもりですぅ」


「あなた、ハッキリ答えなさいよ」

「そうよ、その気持ち悪い喋り方もやめなさい」


 おっ、貴族女子は簡単に掛かったな。

 気持ち悪いってなんだよ。昨日練習したんだぞ。


「はっはー、こわーい。圧力を掛けて人の過去を聞き出そうとするなんて、何が目的なんですかぁ?」

「あなた! 無礼よ!」


「リュク」

「あっ…申し訳ありません…」


 貴族女子が感情的になっているな。皇女の信者か…平民は言われた通りにしろって事かね。


 まぁ本当は、私の心を弱らせようって魂胆か。

 解る。解るよ。私もミズキにやった事があるからね。

 動揺させて、心の隙に入り込む……

 なんだろうなぁ……

 上手く隠しているようだけれど、私には解るよ。


 似たようなものを持っているんだから。


「悪いわね。過去を秘密にしているなんて知らなかったから。でも…教えて貰わないと帰れるとは思わないで、ね」


「ふふっ、そうですか。それは残念です。期待していたんですがねぇ…良い関係を築けるかもって」


「ふふふ…良い関係なんて、あなた次第よ」

「そうですね。そうそう、言っておきますが…私にそのは効きませんよ」


「――っ! あなた…」


 皇女が過剰に反応した事に、貴族女子は疑問に思っている様子。知っているのは、暗器に触れている侍女さんか。

 さっきからピシピシ顔に当たっているんだよ…皇女から魅了の力がさ…

 魔眼持ち…そのお蔭で色々解ってしまったよ。


「ん? あぁ…すみませんねぇ。秘密にしているなんて知らなかったもので」

「……」


 ヘルちゃん、ごめんよ。

 私、この人嫌い。



「殿下、楽しいお茶会になりそうですね」



 この人を見ていると、母親を思い出してしまうんだ。


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