お姉様とやらに会いに行こう

 

 お姉様に会う日時について、ヘルちゃんから連絡が来た。木の日の午後…つまり学校が終わったら来いとの事。

 因みに通信魔導具は週変わりで持つ事に落ち着いた。今週はヘルちゃん。来週はクーちゃん。


 そして今は、特事班の裏にある私用の訓練場で女性騎士さんの相手をしている。ここなら野次馬が来ないから伸び伸び出来る。


 皆さん忙しいので一度に全員は難しい。だから一時間毎に女性騎士さん達が代わる代わるやって来る仕様。

 私自身も訓練になるので、結構楽しい。



「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。先ずは一戦交えましょう」


 女性騎士さんは真面目な人が多い。男性騎士のように下心を持たず、純粋な向上心を向けてくるから私もしっかり教える事が出来る。教えるのは、今のところ十人。一週間で一巡する感じかな。


 真っ直ぐな振り下ろし。

 木剣の腹で滑らすように受け、一歩踏み込む。

 剣を受け流しながら柄を肩に突き刺さした。


「くっ…速い…」

「次の行動を潰す事も、戦略の一つですよ」


「えっ…あれ? 腕が…」


 急所を付いて肩の機能を潰す。これなら力が弱くても渡り合えるからね。

 ヒールで肩を治して、今突いた場所の解説をしながらそれぞれに合った闘い方を模索していく。


「これは皆さんに言っている事ですが、帝国流剣術の基本型は女性に合いません。このせいで伸び悩む方が多いんです」

「確かに…ヘビースラッシュとか試合で使えないし…」


「身体の使い方が違いますからね。それに人によって筋肉の付き方も全然違うし、戦闘スタイルも違う……という事で! これを使おうと思います!」


 ババーンと出した手帳。

 表紙には『訓練ノート』と書かれ、クマさんウサギさん猫さん等々描かれた可愛い手帳。因みにパンパンの店員さん達に作って貰った。


「か…可愛い…」

「この手帳に訓練内容、気付いた事、質問等々を書いてください。文字にして読み返せば上達も違いますし、私もそれぞれに合った訓練に出来ます。一緒に頑張りましょう」


「なんか…凄くやる気か出てきた!」


 そうだろうそうだろう。可愛い手帳ってテンション上がるよね。

 年下に教わるのが嫌な人も居るから、女性騎士全員が私の訓練を受ける訳じゃないけれど、これを見たら増えそうだな……



「ありがとうございました!」

「はい、ありがとうございました。改善点を書いておきましたので、時間がある時に見直しておいて下さい」


「レティちゃんって教えるの上手だね」

「ありがとうございます。視るのが得意なので」


「宜しくね、レティ先生。それでさ…あの人って…彼氏?」


 騎士さんが指差す先…近くのベンチに座って資料を読んでいる美男子クーちゃん。


「あぁ…言い寄って来る新人騎士さんが多いので、一緒に居てもらっているんですよ」

「なるほど…大変ね……あら?」



 おっ、ダグラス君がやって来てクーちゃんに絡んでいる。

 勝負を挑もうとしているのかな? 駄目だよ、瞬殺されるよ。

 騎士さんがニヤニヤしながら、私の脇腹を肘でウリウリしてくる。訓練が終わったら、こうやってみんな砕けた感じになるのが楽しい。


 ダグラス君とクーちゃんが向かい合って、私をチラチラ見ている。あっ、開始の合図ね。


「はじめー」


「うぉりゃぁああ!」


 ダグラス君がクーちゃんに斬り掛かる。

 でも途中で木剣が止まった…風の壁か。

 クーちゃんが人差し指を向けて…風の弾を射出。


「――ぐはぁ!」


 当然命中…

 ダグラス君が放物線を描いて飛んでいく。

 さよならー。


「無詠唱で魔法とか…彼…強いのね」

「はい、ほんと助かっていますよ」


 受付ばかりだったから、こうやって先生をやるのは楽しいな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 木の日。

 学校では噂が落ち着いた。落ち着いたというか、銀髪男子の出現率が上がった事の方が話題なので、地味男の話題は隅の隅へ追いやられたという具合か。


「なぁアレス…妹って居るのか?」

「居るよ」


「……お兄様とお呼びしても?」

「気持ち悪いからやめて」


「妹って彼氏居るの?」

「この前出来たよ」


「やっぱそうだよなぁ…あれだけ可愛いかったら彼氏なんて直ぐ出来るかー」


 丁度クーちゃんが彼氏になるって言ったから、彼氏が居ると言えるな。お兄様とか言われたら鳥肌ヤバいからね。

 そうそう、天使ちゃんには彼氏が居ると広めておくれ。

 無駄なイベントは避けたいのだよ。


 講義が終わり、男子が三人やって来た。なんだい?


「なぁ、今度一緒にナンパに行かねえか?」

「悪いね。怒られるから行けないよ」


 ナンパかぁ…そういえばクーちゃんの出会いはナンパだったなぁ……

 すまんね男子諸君。レーナちゃんが聞き耳を立てているんだ。男子とお出掛けなんてしたら、パンパンの店員さん達が後ろを尾行してきそうなんだ。その前に私は女子だから色々難しい…察してくれ。


 少し粘っていたけれど、背後から覗くレーナちゃんを見て去っていった。


「レーナちゃん、今日はヘルちゃんとお姉様とやらに会いに行くから」

「聞いていますよー。店長から署名を貰っているのでどうぞ」


 署名? あぁ…お姉様と険悪になったり、何か不都合があったら名前を使って良いって事ね。署名はその証明……一応リックの署名もあるけれど、リアちゃんの署名は最終手段にしよう。


 先週と同じく、眼鏡を取って前髪うぃっぐを装備。フラムちゃんとミーレイちゃんに手を振って、レーナちゃんと学校を出る。


 学校を出ると、黒塗りの馬車が待っていた。

 野次馬凄いな。めっちゃ目立つ。


 大層なお出迎えだねぇ。

 非公式と聞いていたけれど…私を取り込むつもりか?

 馬車の前には侍女と思わしき人。

 私を見る目は、落ち着いた雰囲気だけれど私には手に取るように解る。見定めるような、見下すような……コーデリアの侍女と同じ目をしている。

 …ふふっ、なるほど。


「お出迎えに上がりました。乗って下さい」


 良いよ良いよ。

 そっちがその気なら、私もその気になろうじゃあないか。


「じゃあレーナちゃん、また明日ねー」

「はいー。お土産話を楽しみにしてますねー」


 侍女さんの先導で、馬車に乗り込む。

 侍女さんが対面に座り、向かい合う形。

 とりあえず窓から見えるレーナちゃんに手を振っておいた。


 気負いしない私を見て、侍女さんの眉がピクリと動く。


「緊張しているかと思いましたよ」

「この程度で緊張していたら、今頃死んでいますからねぇ」


 私をビビらせようってんなら、裸のガチムチオッサン軍団でも連れてくるべきだったね。

 眼帯を付けてから、男モードを解除。眼鏡はどうしよっかな。一応録画したいから持っておこう。


「その眼鏡…高度な魔導具ですね」

「えぇ…これには助かっていますよ。物騒な世の中ですからねぇ」


 侍女さんの服に仕込んでいる暗器を指差して、嫌味を言いながら笑い掛けたら、眉を潜めて嫌な表情を隠そうとしない。


 いやー、お茶会楽しみだなぁ。

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