戦わずして景品ゲット?

 

「入れ」

「えっ…はい」


 グンザレスさんが扉を開けて男性をお店の中に招き入れた。私達は奥でアクセサリーのデザインを描きながら、付与の効果を話し合っている。クーちゃんのお蔭で凄いものが出来そうだ。


「まだ見つからねえのか?」

「はい…難しいものです。はははっ…」


「じゃあこれは賞品になりそうか?」


 渇いた笑いを浮かべる男性の前に、グンザレスさんが雷牙王の剣を見せる。男性が渇いた表情のまま、食い入るように剣を見詰めた。


「そ、それは…」

「SSランク…雷牙王の剣」


「――なっ! 雷牙王!?」


 おー、知っているのか。

 死んだ魚の目から、夢見る子供のような輝きに変わった…

 あの表情の変化なら、充分賞品になりそう。


「買うか?」

「もちろんです! あの、幾らでしょうか?」


「金じゃあ渡せねえな。この素材を納品した奴は、この剣が気に入らないって言うような奴だ。相応の対価を頼むぜ」


 グンザレスさんが遠回しに嫌みを言ってきたな。か弱い女子が使うには重たいんだよ。残りの素材あげるから我慢してよ。

 男性は悩んでいるなー。確かにお金で払われるとがっかりするし。


「…分かりました。相応の物をご用意致します。その方の好み等を教えて戴けると…」


 可愛いものー。可愛いものが良いー。グンザレスさーん。可愛いものー。


「……可愛い物だ」

「……了解しました。もし良かったら納品した方に会わせて戴く事は出来ますか? お礼を申し上げたい」


「まだお前らの物じゃあない。礼を言うなら相応の物を用意したらだな」

「直ぐにお持ちします!」


 あっ、走って出て行っちゃった。

 えっ、待っていなきゃいけないじゃん。

 仕方ない、アクセサリーを作りながら待つか。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「お待たせしました!」


 三十分で帰ってきた。早いね。

 持っているのは…本? 冊子か。


 なるほど。大会景品が載っている冊子ね。


「この中から選べってか?」

「はい! まだ変更可能なので、この中から二つ選んでと言ってもらえませんか?」


「分かった。ちょっとこの子に見せて良いか?」

「あっ、はい。内容を秘密にしてもらえれば…」


 わーい。二つだからヘルちゃん一個ずつ選ぼー。

 男性とグンザレスさんが話している間に冊子を眺める。


 優勝の景品は仮で家と土地、帝国の出来る範囲で望む物。…爵位や人材も希望出来るのか…結構幅広いね。

 二位はSランク素材の武器と通信魔導具と賞金。

 三位は魔導防具と賞金…中級魔法までを防ぐ魔導盾と魔導鎧など。

 四位は魔導具と賞金…グリフォンの靴っていう空中を少し歩ける靴と、素早さ上昇の疾風のマント。

 五位も魔導具と賞金…保存の魔法が付与されたティーセットや食器……デザインはまぁまぁ…五位にしては微妙だな。

 六位…傷を治す霊薬や薬セットと賞金。

 七位…最新式生活魔導具セット……最新式洗濯魔導具、最新式冷蔵魔導具、最新式オーブン、最新式掃除魔導具……これ良いな。

 八位…魔導服…ダサッ。

 それ以下は賞金か。


 まぁ本戦に出るだけで、それ以上の功績や栄誉が得られるから、景品以上の価値はある。


 ヘルちゃんは、十五歳以下の部門を見ている。


「これが良い…後一つあれば三人で使えるんだけれど…」

「抱き枕セット…クマさんとウサギさん…可愛い」


 えっ、私も抱き枕が良い。猫さんも追加してくれたら…クマさんはヘルちゃん、クーちゃんがウサギさん、私が猫さんになる…


「グンザレスさん、この抱き枕セットに猫さんを追加して欲しいです」

「ん? これな。この抱き枕セットに猫さんを追加してくれ」


「えっ、いや、まぁ可能ですが……この子達が決めて良いんです?」

「あぁ、この子達が欲しい物にしてくれって言われているからな」


 男性が私達を見て首を傾げ、ヘルちゃんを見た瞬間ビクッとなった。やっと気付いたね。


「こ、これは皇女殿下…」

「あっ、気にしないで。お友達と遊びに来ているだけだから」


 ヘルちゃんがお友達って言うと、私とクーちゃんが貴族の子供に思われるな。まぁ良いか。探られるよりは。

 抱き枕セットだけじゃ釣り合わないから、あと二つ選んで良いって言われた。

 後は私が決めて良いってさ。どうしよ。


「じゃあ最新式生活魔導具セットと、通信魔導具をよろしくお願いします」

「了解しました。お届けはどうしますか?」


「ここでお願いします。収納魔導具があるので」


 よしよし、闘わずして景品ゲットだ。

 これなら…来年も納品すればまた闘わずして景品ゲット出来る……


「では引き渡しの際に、雷牙王の剣を受け取らせて戴きます」

「おう、解った」


 ニコニコ契約終了。お互いに利益のある話だったよ。男性はご機嫌で帰っていった。


「グンザレスさん、来年も納品しましょう! 闘わずして景品ゲット出来るんですよ!」

「あぁ、まぁアスティが良いなら良いぞ」


 ヘルちゃんとクーちゃんを連れてラジャーナへ行けば、色々素材には困らない。

 ……ん? どうしたの? 二人とも。


「ねぇアスティ…通信魔導具は、誰が持つの?」

「二つで一組だったです」


「……いや、迷子になった時に便利かなって……」

「じゃあ彼氏の私が持つです」

「いやいや、彼女の私が持つべきよ」


 ……ちょっと、喧嘩しないで。

 あっ、通信魔導具があればいつでもお喋り出来るのか。

 もう行っちゃったしなぁ……そもそも売っているの見た事無いし…リアちゃんに聞いてみるか。


 ヘルちゃんとクーちゃんが睨み合っている……でも手を繋いで睨み合っている……なんだ仲良しか。

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