武器屋へ。

 

「……痛くない。良かった」


 目が覚めてしまった。

 もう少し見たかったけれど……もう時間切れかな。

 また来よう。


 周囲は明るい。

 朝日が出たばかりの景色。


 突っ走れば夕方までには余裕でラジャーナに着く筈。

 準備を整え、出発。


 一度草原の方を見ると、遠くに白い影。

 大きく手を振るとプイッと後ろを向いて去っていった。

 見守ってくれたのかな?

 今度手土産でも持って行こう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ラジャーナに到着。

 予想よりも早く、昼に着いた。


「こんにちはー」

「あっ、アスティ君。みんな心配していたよ」


「ありがとうございます。この通りピンピンしていますよ!」


 右目は黒い木の下で寝たお蔭か完全回復。

 何処も痛い所は無い。

 むしろ調子が良い。昨日よりも一段階強くなっている実感があるくらい。

 衛兵さんとの軽い会話を終え、呼び込みをしている冒険者達の間をすり抜けて転移ゲートへ。



 帝都に帰還。

 五体満足で帰れて良かった。

 大通りを歩いて、パンパンには行かず路地裏へ。

 少し歩いた先に『グンザレスのお店』を発見。

 以前竜剣を直して貰った所。

 まぁその後は何回かメンテナンスで来ているので、すっかり顔馴染み。


 お邪魔しまーす。


「おう、アスティか。剣の修理か?」

「いえ…実は…折っちゃいました」


 真ん中からポッキリ折れた竜剣を渡すと、グンザレスさんが首を横に振った。


「こりゃ駄目だな。直せない」

「やっぱり、そうですか……ナイフに加工って出来ますか?」


「あぁ…この長さなら二本出来る。……何をこんなに無茶したんだ?」

「白銀獅子に挑戦しまして……」


 鋭い眼光に気圧されながら、バラスの事を話していく。

 SSランクじゃなくて、災害級だった事。

 勝てなかったけれど、友になり剣を譲り受けた事。


「……見せてくれ」

「はい」


 収納から白い剣…白銀獅子の剣を取り出してグンザレスさんに見せる。

 グンザレスさんが息を呑んだ。

 そして、一筋の涙が流れる。

 この剣を知っているのかな?


「っと悪いな。おっさんの涙なんか見しちまって。この剣…親父が打った剣なんだ」

「そう…でしたか。色々な想いが詰まった剣なんですね」


 バラスの弟さんの素材と伝えた。

 伝えると、複雑な表情だった。

 一々魔物の家族の事を考えていたらやってられないもんね。


「染みったれた話は終わりだ。アスティ用に作り変えてやる」

「ありがとうございます。これ、Sランクの魔石です」


 魔石を渡した所で、前に自殺の名所ツアーで手に入れたSSランクの魔石を思い出したから次いでに渡しておく。

 貰いすぎと言われたけれど、最高の剣にしてくれるなら安いもの。


 グンザレスさんがお店の入口へ行き、準備中の看板を立て掛ける。調整に集中したいとの事。


「来週に来てくれ。それまでコイツを使え」


 渡された剣は、女性用の剣。

 ……凄く軽い。

 素材はなんでしょう?


「サンダーホークの爪だ」


 ランクSの素材。

 そんなの軽々しく渡さないで下さい。

 欲しくなっちゃうから。


「やるよ。親父の剣を見せてくれた礼だ。これのお蔭で俺の技術も上がる…安いくらいだ」

「ありがとうございます!」


 やった!

 良い剣ゲット!



 グンザレスさんにお礼を告げて店を出ると、オレンジ髪の見慣れない女子を発見。私よりも少し上の歳かな。普段なら気にも止めないけれど、纏う雰囲気が強者のそれだった。


 一瞬目が合い、すれ違う。


「ねぇ」

「……」


 話し掛けられた気がするけれど、とりあえず無視。

 好戦的な感じの人って苦手だからなぁ…


「ねぇ、私が話し掛けてあげたのに無視とは良い度胸ね」

「……ねぇだけで立ち止まる人がいるんですか?」


 追い掛けて来やがった。

 なんだよ。


「ふんっ、ここから出てくるなんて少しは腕が立つみたいだけれど……ふーん」


 ジロジロ見られて鼻で笑われた。

 男子だと思っているなら、貧弱そうとでも思ったのか。

 女子だと思っているなら、貧乳とでも思ったのか……


 前者は良いが、後者は許さんぞ。


 鼻で笑った後は、そのままグンザレスさんのお店へ入っていった。

 準備中の看板見えなかったのかな?

 ルールは守ろうぜー。


 まぁ良いか。


 大通りへ向かおうとすると、何やらお店から叫び声が聞こえた。


 …魔力感知では…あの女子が何やらワチャワチャしている。


 私の予想が確かならば……


 ――バンッ!


「あなた! 私と勝負しなさい!」


 やっぱり。


 白銀獅子の剣を見たんだろうね。

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