痛いを超す痛いは、結局痛い。

 

「――ぁぁぁ! っと……なんだったんだ……」


 夜に目が覚めた。

 虫の声や魔物の声が遠くから聞こえる。

 この木の周りに虫は居ない。素晴らしい場所だ。


 って落ち着いている場合じゃない。

 あの槍…私を認識していた。

 有り得ない。私は記憶を見ていただけだから……


 私が見ていた事を知っていた?

 いやいやいやいや……全ての点と点を事前に知っていないと出来ない。未来視よりも遥かに凄い力が無いと……

 ……考えても無駄か。

 恐らくあの槍は、神の類いだ。

 じゃなきゃ説明出来ない。


 ……プレゼントって何をプレゼントされたんだろう。


 ……よく解らない。

 キリエのように魔法なのかな。


 まぁ…その内解るか……ん?


「――痛っ!」


 ちょっ! まじか!

 痛い痛い痛い痛い!

 目が痛い!

 痛いを超す痛い!

 それは結局痛いという事!

 雑念も痛い!

 くそぉ!


「ぬふおぉぉぉぉ! 痛いぃぃ!」


 あっ、意識飛ぶ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 これは……またキリエの記憶か。

 もう少しこう…マイルドに移行しないもんかねぇ…


「キリエ、私はもう行かなければならない」

「……うん。分かってる……どうしても…駄目なんだね」


「あぁ…規則は守らないといけないんだ。また…会いに来るから…」



 お別れの時か。

 キリエの悲しみが伝わってくる。

 そりゃ…そうだよなぁ…


 規則か……キリエを連れていけない規則がある?

 そんなの……いや、確かリアちゃんが言っていたな。

 持って行って良いものは……物は良いけれど者は駄目。

 つまり…そういう事か。

 ルルは違う世界に行く。


 流れ者…か。



 ルルはキリエを抱き締めて…

「愛している」

 そう言って、何か円盤のような魔導具を取り出し消えて行った。


 ルルも、泣いていたな。

 多分ルルは大きなものを背負っている。

 それこそ、違う世界を転々としなければいけない程の……

 …考えても仕方無いか。


「お母さん…ありがとう」


 キリエの想いが伝わって来る……

 一緒に過ごした思い出。

 一緒に寝て、一緒にご飯を食べて、一緒に世界を回る。


 ルルはキリエのやりたい事を全力で応援してくれた。

 間違った事は怒ってくれて、沢山笑って、辛い時は一緒に泣いてくれた。


 血が繋がっていなくても、親の愛を感じられた。



 不思議なものだ。

 親の愛をこんな形で知れたなんてね。


 私も、ルルの娘になりたいな……



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ルルと別れてから、キリエは強い魔物を倒す仕事を始めた。

 自分と同じような子供が、少しでも減るように…


 世界を回って災害級の魔物を討伐していくキリエは、その界隈で有名になる。

 そして、沢山の国が欲しがる人材になっていく。


 近付く者は沢山居たけれど、キリエは一人を貫く。

 一人の方が楽だから…と、言って。



「最近、教会が増えてきたなぁ」


 教会…中に入ると……んー?

 この女神像って…アラステア様?

 という事は……歴史の古い国に行けばキリエの情報が得られるかも? 帝国は千年以上続いているから、それよりも長い国……アース王国か。それか別の大陸かな。



 しばらく経つと、何処に行っても権力者の依頼が付き纏うようになり、キリエの精神は疲弊していた。


 有名になり過ぎると、大変だな。



「……ん? 何これ」


 ある時…目の前に歪みがあった。

 景色が歪むような、空間の歪み。

 地面の小石を放ってみると、歪みの中に消えて行った。


「……」


 もしかして、これに入るの?

 死ぬかも知れないのに……


「……お母さんを、探しに行こうかな」


 歪みに入っても、ルルに会える保証は無い。

 また会いに来るって言っていたから、待てば良い。いつになるか解らないけれど。


「よし、行くか」


 …この歪みに入る事が、分岐点なんだろうな。



 キリエが歪みに飛び込む。

 少し気持ち悪い感覚に襲われ、ふと気付くと…景色が変わっていた。


 森の中。

 見た事が無い植物…それに…


 とても大きな樹。

 樹齢何年だろう…一万年くらいありそうな高さと太さ。


≪ようこそ、ルビアへ。異世界の聖女よ≫

「えっ? 何? この樹?」


≪私は、世界樹。この世界を守っている者≫

「世界樹…私、キリエです」


 樹が喋った。

 という事は魔物の類い?

 よく解らないけれど、ルビアっていう世界に来ちゃったんだな。


 にしても世界樹ってエロい声してんな。


≪世界に危機が訪れようとしている。力を貸して欲しい≫

「…えっ、急に言われても……」


 何か本で読んだ事がある展開だな。

 異世界から召喚されて、世界を救って的な。


 うん、キリエって凄く主人公だな。



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