夢の中で……

 

 疲れたから簡易テントを貼って、ちょっくら寝よう。


 悪夢を見るというけれど、逆に楽しみだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 壊れた家、崩れた教会、瓦礫が散乱する道……


 町だった場所…


「うぅ…誰も…居ない……」


 喋っているのは、私じゃない……


 これは…夢?

 なんだろう…ハッキリと夢って解るなんて珍しい。

 誰かの記憶を見ているような…そんな感覚、


 …魔物か何かに襲われた町なのかな?

 歩く視点は私よりも低い…子供か。


 瓦礫に足を取られながら、真っ直ぐに向かう先…

 ……ここは、家というよりは…小さい学校。

 原型は保っているけれど、崩れた建物。

 看板があるけれど、読めない。違う国かな?


「みんなぁー! どこぉー!」


 ……大きな声で誰かを呼んでいる。

 喋る言葉が解るのは…何故だろう。この子の意識に入っているからかな?


 …誰も返事は無い。

 人の気配が無い町、か。


「ぇうぅ……また……独りぼっちだ……」


 また…親を呼ばない事をみると、親が居ない事を理解している。

 じゃあここは…孤児院かな。



 誰も居ない町。

 少しだけ徘徊するけれど、怖くなって孤児院へ戻るの繰り返し。

 どれだけの時間が経っただろう。


 ご飯は保存していた干し肉を食べて繋いでいる。

 でも、残り少ない。


「……おいしくない」


 美味しくないのは、干し肉が不味いからか、独りぼっちのご飯だからか。

 ……どうして私はこんな夢を見ているのだろうな……


「……」


 小さい子供には、他の街に行く力は無い。

 ずっと、誰かを待って…孤独に耐える。

 私とは違う…完全な孤独。

 私だったら…耐えられないと思う。

 この子は、凄い…泣きながらも孤独に耐えている。

 何がこの子をここまで強くしているんだろう。



「……誰か…来た」


 しばらく経った時、人の気配がして孤児院から顔を出す。

 遠くから歩いてくる人影。


 この子は警戒しながら見ている。

 誰かが来て嬉しいけれど、自分以外の人を見たかっただけかな。


 やって来たその人はこちらに近付いてくる……


 あぁ……



「……ねぇ、君は…一人なの?」


「……ぅん」


「私は、ルルという流れ者だ。名前を、教えてくれないか?」


 銀色の髪を靡かせた、とてもとても綺麗な女性。

 旅人の格好をして、黒く吸い込まれそうな槍を持っていた。

 覗き込む瞳は…綺麗な銀色。


 心を鷲掴みにされるような…懐かしいような…


「…キリ…エライザ」


「キリエライザか、良い名前だな。キリエと呼んでも…良いかな?」

「……ぅん」


「キリエ……良かったら…私と共に来ないか?」

「……」


 いきなりそんな事を言われたら、私なら付いていかない。

 でも…キリエは断ったら、このまま一人ぼっちだ。


「……一人は…寂しいだろう?」

「……寂しい」


 このまま死ぬくらいなら、見ず知らずの人に付いて行った方が生き延びられる。

 選択肢なんて…無いよなぁ…


 ルルが手を差し出し、キリエが恐る恐るその手を取る。


 少しだけ微笑む笑顔が、私の心に深く刺さった。


「少しの間だが…共に旅をしよう」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ん……夢…か」


 夜中に目が覚めた。


 禍々しい木を見上げてみると、少しだけ黒く光った気がした。



 あの現実感……夢というより……


 私の御先祖様の記憶か……


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