さぁ、真実を…広めるのだ!
今日は午後からベランジェールの訓練。
「じゃあベラちゃん、心を静める訓練からね」
「うん、なんかあなたにベラちゃんって言われると変な感じね」
「じゃあベラ、目を閉じて」
「うん、ベラの方がしっくりくるわ」
詰所の裏にあるベンチに並んで座り、訓練している。
端から見たらベンチに座って雑談しているように見えるから、訓練に見えない。だからダグラス君がよく邪魔しに来る。
邪魔しに来ても心を静め続けないといけないからね。
自然に溶けるように意識を静めれば、誰かが近付いて来ても解る。
「……」
「レティ…誰か来ている?」
「居るけれど、無視しても良い人だから目を開けないで心を静め続けて」
「分かった」
「……」
「そういえば、第二皇子がレティに会いに来たらしいじゃない? どうなったの?」
「第二皇子? そんな人来ていないよ。会いに来る人は沢山居るから覚えていないし」
「……」
「そうなんだ。あっ、ねぇねぇあの演劇観た?」
「観たけれど、聞いていた内容と違うから萎えたかなー」
「聞いていた内容? 地元の?」
「そうだよ。なんか第二皇子って王女が刺されてから一言も喋っていないらしいよー」
証人1私、証人2ムルムー。さぁ、ベラよ! 捏造演劇だという事を貴族友達に広めたまえ!
「……」
「えー、それ本当ならショック。愛し合っていたのに…」
「いやいや、愛し合っていなかったらしいよ。殺された日に初めて会って、手紙のやり取りすらしていなかったらしいのに、何処に愛し合う要素があるの?」
「――それは違う!」
第二皇子さん、何処が違うんだよ。
私はベラを通じて貴族の女子に物語は捏造だと伝えたいだけなんだ。邪魔をしないでおくれ。
あっ、ベラが目を開けちゃったじゃないか…もう…
「こっ、これはリーセント殿下…」
「あぁ…いい…非公式な場だ…気にするな」
「ベラそれでね、王女の最後の言葉を聞いたのは専属侍女だけなんだー。だから、最後は完全に作り話だよ」
「ちょっ、ちょっと…本人居るから」
「本人? 私、目が悪いから解らない」
「……」
皇子って直ぐ怒るな。思春期だから仕方無いか。
心を静めよー。
「で? 何の用事ですか?」
「それは…誰から聞いた…」
「ヒルデガルドさんです」
「そうか…パンケーキ屋に居るのは兄か?」
「そうですね」
しかめ面の皇子が近付き、私に花束を差し出してきた。
とりあえず差し出されている花束を見詰めて、受け取らずに待つ。なんの花束だい?
「その目は、病気と聞いた。見舞いだ」
「そのお気持ちだけで充分ですよ。これは受け取れません」
「何故だ? 花が好きだと聞いたぞ」
「ええ、お花は好きです。ですが、これはあなたが選んだ花ではないので」
「……そう思った理由を教えてくれ」
「花言葉が綺麗な文章になっているからです。気を付けた方が良いですよ。私のように面倒な女は、心が籠っていない物を見分ける術に長けています」
王女時代に培った特殊能力。上辺だけのプレゼントには見向きもしませんよ。ドンッと来たよ社交辞令! どれだけ高いお花を使った花束でも、心の籠った一輪の花には敵わないのさ。
きっとお得意先の花屋に頼んだんだろうな。
因みに『お前が欲しい。絶対に俺が幸せにしてやる』という意味。お花屋さんはいつものノリで作ったんだろうけれどさ…鳥肌がね…凄いんだ。
この前ダグラス君が持ってきた花束は『お前を地獄で待っている』…センスが凄い。
「…出直してくる」
「ええ、ブルークイーンよりも珍しいお花なら喜んであげますよ」
「…分かった」
皇子は去っていった。
ふっ、今回も完全勝利。
何の勝負をしているかと聞かれたら特になんとなくなんだけれど…結局あの第二皇子も被害者なんだよなぁ。
望まない結婚を押し付けられ、裏では勇者に傷付けられそうになり、初対面の王女に助けられて捏造演劇のモデルにされる。
どんな気持ちなんだろう?
ねぇねぇ、王女を身代わりにしてどんな気持ち? うん、殴られそうだな。
「ねぇ…ど、どういう事? やっぱり皇子が会いに来ているんじゃない」
「まだ名乗られていないから、ただの名無しさんと会話しただけだよ。何言っているのさ」
ベラ、ため息付くなよ。
ため息を付きたいのは私の方さ。
もし私がアレスティア王女だよーなんて言ったら、私、皇子、アース王女の魔のトライアングルが出来上がる。まぁそれはそれで面白そうだけれど、果てしなく面倒なのは目に見えているんだ。察してくれ。
ところでアース王女とミズキは国に帰ったのかな?
今度来る時のお土産を頼むの忘れていたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の痛みは引いた。
学校では、前髪を着けずに済んだ。
良かった。
眼鏡の地味な奴が前髪キメキメだったら、何だこの痛い奴って思うからね。
学校の話題はもちろん帝国美少女グランプリ。
私はゴロゴロしながら映像の魔導具で観たよ。
それを話すクラスメイトは居ないけれどね!
私は二組。フラムちゃんは四組。ミーレイちゃんは一組。
私は二組でボッチ。たまにティーダ君が話し掛けてくれる以外は会話無し。
何故かと言われたら、私がフラムちゃんとミーレイちゃんと仲良しだから嫉妬に狂った男子から嫌われ、この地味眼鏡で女子から興味を持たれていないからさ!
眼鏡を外しても良いのだけれど、『あっ、パンパンの人!』って言われそうなんだよなぁ…
女子の話題に出るんだよ…パンパンに居る銀髪男子の事。
ここに居るぞー!
眼鏡を外して、態度がガラッと変わる人とか仲良くしたくないし…
女子達は私の事を石コロを見るような目で見てくるからね。
でも一回やってみたい…でも服装でバレるか……あっ、着替えはあるな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
講義が終わり、着替えて真アレスに変身。
女子達にガン見されながら廊下を進む。
さて、四組…フラムちゃん居るかなー。
あっ、お友達とお弁当を食べてらっしゃる。
良いなぁ…私も混ざりたい。
じー。
少し教室がざわざわしてきた。
私は女子の中では有名人だからね。
フラムちゃんもざわめきに気付いてみんなの視線を辿る。
目が合った。やっほー……ありゃ、目が点になってらっしゃる。
……お邪魔しました。
お友達と仲良くご飯食べてね。
四組から離れて一組へ。
ミーレイちゃんは……居るけれど、お友達とお弁当を食べている。
友達と仲良くお弁当を食べている人に話し掛けるって…難易度高い。
うーん……邪魔しちゃ悪いか……あっ、ミーレイちゃんこんにちは。
ざわざわし始めたから……帰ろう。
私もお弁当を一緒に食べてくれるお友達…欲しいな…
講義が終わればお昼が近い。お弁当は食べられるけれど…一緒に食べてくれる人が居ないからそのまま帰るだけ。
チロルちゃんは魔法学校だし……いつものパターンだとパンパンで食べるか、屋台でお昼を買ってラジャーナで景色を眺めながらボッチ飯。
……ラジャーナに行こう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
やって来ましたラジャーナ。
今日は魔眼の性能を試そう。
早速オーガが居る地帯へ。
……オーガ一体発見。
宛もなく歩いている。
なんだろう…ボッチオーガとか親近感。
近寄ってオーガの近くに立つ。
ここだよー。
オーガが私の気配に気付き、獲物を見付けたという目を向けながら駆けてきた。
すまぬな、オーガ。
指をオーガの顔に向ける。
「深淵魔法・アビスフレイム」
――ゴォオォオ!
黒い火の玉がオーガの顔に直撃。
そのまま火の玉が通り過ぎた後には…
首から上の無いオーガの出来上がり。
うん、良い感じ。
ソルレーザーの方が使いやすいけれど、光属性が効かない魔物も多いから練習しないと。
深淵魔法で今のところ使えるのは…炎、氷、闇。
もっと慣れる事が出来れば違う属性も使える…重力、雷、大地…などなど…
使い勝手が悪いけれど、もっと使いこなしたい。
だって…格好良いから。
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