良いですとも!
「君を見て…身体が勝手に動いてしまったんだ」
「そうですか。では…」
「あっ、待ってくれ!」
この男…第二皇子の横を通り過ぎる……腕を掴まれそうになったのでスッと躱した。私の見切りを甘くみては困るよ。
今度はトンッ、とステップを踏んで回り込んできた。
「……身体が勝手に動いたという事は、特に用事は無いという事ですよね。あちらの方々が待っているようなので、そちらに行ってはどうですか?」
ところで、なんでここに居るんだろうね。
……あっ、ここってパンパンの近くか。
リアちゃんに嵌められたヘルちゃんの様子を見に来たんだね。
そしたらさっさと行けばよろし。
「…一人で来たから待たせている訳ではない。もし良かったら…あの店で話をしたいのだが…」
ヘイ彼女お茶しない! って事? なんだ、ナンパか……
名乗りもしない相手とお茶はしないよ。
断るには……
「私は名も知らぬ相手に付いていくような軽い女に見えますか? 迷惑です」
必殺・氷の眼差し! …特殊効果は無いただの睨み付け。
よし! 怯んだ隙に逃げ出そう!
タタタッと路地裏へ。
二回角を曲がって建物の出っ張りに手を掛けてジャンプ!
建物の屋根に降り立ち、シュタタッと屋根を伝ってパンパンの裏口へ着地。
ふっ…どうよこの逃げ足。
とりあえず裏口からパンパンに入る。
皇子が周辺を探していたら見付かるからね。
……まぁ、暇だし着替えてカウンターに立つか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執事服に着替えて、前髪うぃっぐを装備。
パンパンのカウンターへ。
……いつもより見られるな。
前髪があると無いじゃ違うのか…とりあえず店員さん達に手を振っておく。
地味眼鏡を掛けたヘルちゃんがツンッとしている。地味可愛いね。
レーナちゃん、こっち見すぎだよ。お客さん来たよ。
「いらっしゃいませー。ご案内しまーす」
おっ、第二皇子さん。見知らぬ女子と来店。
ナンパ成功おめでとう。
まぁ男一人で入れない結界が張られているから仕方ないんだけれどね。いや仕方なくない…アース王女と来いよ。
お客さんはキャーキャー言っている。私の時はシーンだから、やっぱり有名人は違う。
あの捏造演劇でああぁぁぁ! って言っていた人のモデルだもんね。
ヘルちゃんが皇子に気付いて、トコトコとカウンターの隅に座る。
どうしたの?
「身内が来ると恥ずかしいのよ」
「そんなヘルちゃんも可愛いね」
「……ばか」
デレたな。
ヘルちゃんだけではなく、私が居る時は他の店員さんもカウンターで休憩を取る。みんな嬉しそうだし私もお話出来るから嬉しい。
皇子が店員さん達の顔を眺めている。
……目が合ったな。
よっ、さっき振り。
……まだこっち見ている。
そりゃ…さっき迷惑って言われた女子に似ている男子が居たら見るか。
皇子が立ち上がってこちらにやってきた。
ここは関係者以外入れないぞー。
「聞きたい事がある」
「何でしょうか?」
「兄妹に、眼帯を着けた者は居るか?」
「プライベートに関わる事はお答え出来ません」
「…」
なるほど。
レティスタイルを妹だと思ったんだね。
「俺の質問に答えられないのか?」
「はい、名も知らぬ相手に教えると思いますか?」
なんで名乗らないんだろう。
名乗らなくても解っているとでも思っているのかね。
「……リーセントだ」
「はい、アレスと申します」
今はアレス。
さっきの私は妹のレティ。
という事にしておこう…なんとなく。
「……これで答えられるだろう?」
「名前を知ったからといって答える義理はあるのですか?」
「……」
あっ、イライラしている。
別に答えても良いんだけれど、関係者以外入れない場所にズカズカ入って名乗らずに俺様風を吹かせるのはちょっと……
ヘルちゃん…笑いを堪えるのに必死じゃん。口が半開きだよ。
「ふふっ、意地悪でしたね。答えたら席に戻って貰えますか? ここは関係者以外入れない場所ですので」
「……あぁ、分かった」
「居ますよ」
「……名前は」
「それは本人に聞いて下さい。居るか居ないかを質問されただけですので」
「……お前」
どうせ後で素性を調べるんだろうね。素性を調べても大した情報は無いけれど。
結局ヒルデガルドさんに行き着いて手出しが出来なくなる訳だし。
ほれっ、自分の席に戻れ。しっし。
よしよし、戻っていった。
ヘルちゃん…笑い過ぎだよ。
「くっ…凄いわね…お兄様相手にあそこまで言える人は中々居ないわよ」
「さっきあの男にナンパされてさ。休日を壊された仕返しだよ」
「あら、そうなの? 珍しいわねぇ、お兄様から誘うなんて」
「まっ、私が可愛いからね」
……いや納得しないで。冗談だよ。
「ねぇ、アスティ…」
「なぁに?」
「来週末さ…予定…空いて…いるかな。あの…お家…行って良い?」
「――良いですとも!」
あっ、やべっ、ヘルちゃんが可愛いくて興奮して叫んでしまった。注目されている……
失礼しましたー。なんでも無いですよー。
「……ばか」
今日はやけに素直。何かあったのかな。
家に帰っていないから寂しいのかな。
来週末に聞いてみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
週明け。
朝、特事班の詰所に向かう。
「おはようございまーす」
「おはようーあれ? 目どうしたの?」
「ちょっと目の病気に掛かりまして、しばらくこのままです」
「良い治療院紹介しようか?」
「大丈夫ですよ。ヒルデガルドさんに視て貰いましたから」
「えっ…あの人でも治せない病気なの?」
心配掛けまいとリアちゃんの名前を出したら逆に心配されてしまった。前髪って以外と毛の流れが気になるから、眼帯スタイルで活動。つまりはレティの状態で特事班に居る訳で……
「おは…レティちゃん! その目どうしたの!?」
「目の病気に掛かりまして、しばらくこのままです」
「レティちゃん! 目大丈夫!?」
「目の病気に掛かりまして、しばらくこのままです」
……
「レレレレティさん! その目は!」
「あぁ…大丈夫ですから」
……まぁこのやり取りの繰り返し。繰り返し。私の台詞はテンプレートと化している。
騎士さん達は凄い心配そうにしているから、同じ事を何度も聞かれても嫌な顔をする事が出来ない。
噂を聞き付けた騎士さんやダグラス君が特事班に集結するという事態に陥り、呆れたミリアさんが騎士さん達を追い払う場面を何度も見た。
「ミリアさん、ご迷惑をお掛けしてすみません…」
「レティちゃんのせいじゃないわよ。アホな騎士共が悪いんだから」
騎士さん達の襲来が落ち着いた。
私の机で一息付いていると、再び来客。
「失礼する。あっ…ミリアさん、ここにレティという者が居ると聞いたのですが…」
「あぁ、坊っちゃん久しぶりね。居るわよ。でも何の用事?」
「坊っちゃんはやめて下さい…少し話をしたくて…」
えー…また第二皇子かよ。
ちゃっかり調べて来ているし。
「レティちゃーん。坊っちゃんがお話したいんだってー」
「嫌でーす」
「りょーかーい。坊っちゃん、嫌われているわねぇ。出直して来なさい」
「えっ……」
えっ、断って良いの?
やったぜ!
流石ミリアさん!
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