帝国美少女グランプリ……参加はしないよ。

 

 明日は帝国美少女グランプリ。


 いやぁ……人が多いなぁ。

 剣技大会の比じゃないよこれ……


 この時期は学校が無い。そりゃそうか。危険だからね。


 二日に掛けて行われる訳だけれど、初等部門と中等部門は初日に終わる。高等部門と一般部門は二日目。


 大会優秀者は賞金が凄くて大通りのパレードに参加出来るという…他の大会との扱いの差が凄い。

 なんたって裏スポンサーがヒルデガルド・ルイヴィヒさんだからね。


 そのお蔭か、帝国美少女グランプリは帝国三大祭りの一つとされている。

 私は隣国の王女だったけれど、何故か美少女グランプリは聞いた事が無かった。恐らく、情報規制があったと思われる。王国貴族女子の元クラスメイト達…教えてくれたら私も外に出たのに……今更か。


「この時期がやって来たね……興味無かったから退屈だった思い出しか無いよ」

「誘拐やら犯罪もあるから、小さい頃はあまり出歩かなったなぁ」

「凄いねぇ…アスティちゃんは明日、仕事だよね?」


 今、私の家にフラムちゃん、ミーレイちゃん、チロルちゃんが来ている。どうせ外に出られないのであれば、私の家に避難すれば良いという理論を展開され二つ返事で了解した。

 お泊まりセットを持参してみんなウキウキしている。私もウキウキしているよ。


 フラムちゃん、まだ朝だよ。そわそわしないで。

 ミーレイちゃん、スキンシップが過剰だよ。

 チロルちゃん、無理して二人に合わせなくて良いからね。


 因みにお花屋さんは閉まっている。

 この人だし、会場に花を届けたら仕事は終わるからね。

 大体帝都の半分以上のお店は閉まっているのは仕方無い。


 飲食店や宿屋など、稼ぎ時な職業は忙しそうだけれどパンケーキのお店パンパンは閉まっている。

 店員さん達は全員、会場で大会の様子を観るから。


 もちろん会場には入りきらない人が来ている訳だけれど、映像の魔導具という古代の魔導具を使用して帝都内の色々な場所で観られるようになっている。

 もちろん観覧にはチケットが必要で、会場で生の様子を観られるS、Aランクチケット。

 映像の魔導具で大会を観られる『らいぶびゅーいんぐ』と呼ばれるB、Cランクチケット。


 値段は、Sランクが…まぁ…光金貨が飛ぶ結構なお値段。Aランクは白金貨が飛ぶ結構なお値段。Bランクは銀貨が飛ぶお値段。Cランクは銅貨が飛ぶお値段。

 ……高えよと言いたい。この前の捏造演劇なんて銅貨一枚だぞ……


 実は私達、大会の観覧が出来る。

 チケットを持っている訳じゃない。

 映像の魔導具を持っているんだ。

 リアちゃんが貸してくれた。


 私は初日だけ仕事だから、二日目と人が落ち着くまでの三日目、四日目は家でみんなと過ごす。

 お泊まり会だね。楽しみ。


 帝都はもちろんの事、転移ゲートで繋がっている街は宿が一杯。

 帝都の周辺にテントが乱立している始末……大丈夫なのかな?

 そこら辺は騎士団と帝国貴族の私兵達が頑張ってくれる筈。

 特事班は初日以外は自由だ。民間の強みだね。


 女子同士でお喋りしていると、あっという間に時間が過ぎる。

 楽しいな。みんなで一緒に住みたいね。

 ……何? みんなその手があったかみたいな顔しているけれど、この家あと屋根裏ぐらいしか空いていないよ。

 みんなは住めないからね。


 それぞれ家あるじゃん。

 合鍵は渡さないよ。

 あくまでここは店長の家だからね。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 次の日、私だけ中央区へ向かう。

 みんなは私の部屋で映像の魔導具を観て過ごす。……休みたくなってきたけれど、クビになりたくないから我慢。

 場所は帝国祭典ホール。

 騎士団本部の奥…城の近くにある。この前下見に来たから入るのは二回目。


 早朝に移動しているので、溢れるほどの人は居ない。居ないけれど、「坊主ー…金貸してくれー」

 酔っ払いとか居るから迷惑。

 無視が一番。


 私の仕事は本会場での警備チームに配属。

 初等部門の女子達の安全確保がメイン。同世代が望ましいという事で、私とダグラス君が選ばれている。

 スキンヘッドのおっさ…レジンさんも居るから安心。


「よぉアスティ…頑張ろうぜぇ…」


 ダグラス君、眠そうだな。

 きっと可愛い女の子達の警備だから、興奮して眠れなかったんだろうね。

 そわそわしているけれど、今からそんなだと身が持たないよ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 控え室の近くで待機。


 次々と参加者がやって来る。

 見た事のある女子…西学校の予選突破女子だね。

 名前は知らない。

 まぁ…正直…フラムちゃんやミーレイちゃんの方が可愛い。そんな事を言ってはいけないけれど…素直な感想を。ごめんなさい。


「アスティ、貴族の参加者出迎えに行って来るわー」

「了解。私は見回り行ってくる」


 私は騎士じゃないから貴族女子の相手をしなくて良い。

 気が楽だなぁ…


 帝国貴族女子は誰が出るんだろう。

 ヘルちゃんは出ないのかな? 教えてくれなかったなぁ…恥ずかしがりやさんだから。


 控え室は貴族用や王族、皇族用とあるから、変な人が居ないか見て回る。

 ベテラン騎士さんには、すれ違い様にアスティは出ないのか? と、聞かれるけれど、出る気は無いよ。

 フーツー王国の貴族女子には顔でバレるからね。

 そうなったらアウト。夜逃げアスティの出来上がり。


 ん? ……なんだろう。


 なんだろう……この、胸騒ぎ。


 王族用控え室から、何か…変な感覚。


 ここは…資料を見ると、アース王国の控え室……


 ドクンッ――

「くっ……な…に…」


 うゎ…気持ち悪い……頭の中をかき混ぜられるような……

 右目が痛い……

 あぁ……駄目だ……救護室へ行かなきゃ……


 この感覚……間違い無い……


「……ふふっ」


 気持ち悪いけれど…痛いけれど…思わず笑ってしまう。



 黒騎士が居る。

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