あれがアースの王女か。

 

 なんとか…歩いているけれど…ちょっと…まずいなぁ…

 気持ち悪くて…痛い。

 誰か…居ないかな……あっ、スキンヘッドのおっさん……


「アスティ? どうした?」

「レジン…さん…救護室…まで…お願い…しま…」

「――アスティ!」


 そこで私の意識は途切れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ここは、救護室?


 あー…やっぱり気絶していたか。

 黒騎士に見付からなくて良かったかな。


 ……さっきの感覚はなんだったんだろう。黒騎士に共鳴したのかな?

 殺される前に見た未来の映像を見た時にも似ているし、少し違うような……地の底から這い上がって来る暗い何かのようで……まぁ、考えても仕方無い。


 おっ、流石はレジンさん。

 眼鏡を掛けたままにしてくれている。

 とりあえず起き上がろう。


 うーん……


 今は落ち着いている。気持ち悪い感覚は消えていないから、慣れたと言うべきか……


 救護室には、救護員のお姉さんが居る。

 まだ私が起きた事に気付いていない。


「あの…」

「ん? アスティ君、目が覚めた? 軽い貧血だと思うから横になっていなさい」

「はい…倒れてからどれくらい経ちましたか?」

「二時間くらいかしら。そろそろ初等部門の決勝が始まるわよ」


 二時間か。決勝は総勢三十人の中から勝ち残った六人で最終アピールをする。


 この美少女グランプリ…結構内容が面白い。

 自分の名前、年齢、所属を言い、特技等の自己アピール。

 その後はくじ引きで引いたお題について即興スピーチを行う。

 お題は様々。時事問題であったり、歴史、国語、将来や仕事など多種多様。苦手分野に当たったら不利になるという運の要素もある。加点方式だったかな。

 私なら緊張して無言だね。

 本当に出なくて良かった。


「決勝戦、観に行きたいんですけれど…」

「うーん……一人では駄目よ。……じゃあレジンさん呼んで来るわね」

「ありがとうございます」


 しばらく待っていると、救護室にレジンさんがやって来た。


「アスティ、無理するなよ。警備チームの事は考えなくて良いからな」

「はい、すみません。緊張しちゃったみたいです」

「…そうか。なら良いんだけど」


 心配してくれている所悪いけれど、私はもう一度確認しなければならない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 帝国式典ホールの会場へ。


 会場は劇場に近い作りになっていて、ステージの向かいにAランクチケットの席が並び、二階の個室からステージを観覧出来るSランク席。

 パンパンの店員さん達は二階の広い個室に居る。流石リアちゃんの特権。

 仕事中なので、二階には行かない。収集付かなくなると困るから。


 Aランク席の後方…入口からステージの様子を眺める。

 決勝六名の内…貴族女子が四名、王族女子が二名。

 ……出来レース感が否めない。


 審査にリアちゃんは関与していないのかな。

 まぁでも平等なのかも知れない。可愛いだけでは優勝出来ないし、スピーチを行う度胸は貴族女子が有利……お茶会や企画の授業があるくらいだし……


『一番、アース王国第一王女…ヘンリエッテ・アース・ユスティネ12歳です。では…わたくしの特技を披露したいと思います』


 あれがアース王国の王女か。

 毒気の無い雰囲気だから、アレスティア王女の件には関与していないように見える。まぁ、まだ解らないけれど。


 短い杖を取り出して、魔力を練っている。

 系統は水…いや氷か。


 ザワッ――

『おぉ…凄い』『素晴らしい逸材だ』『流石はアース王国第一王女』


 氷の小さなお城を作っていた。

 会場がざわめくのも仕方無いね。12歳で氷属性をここまで制御出来る人はほとんど居ないから。


 魔法の才能は私より上。

 氷属性なんて全く縁の無い属性だし。

 …正直アース王女の事なんてどうでも良い。

 レジンさんと一緒に会場の端を移動。

 Aランク席の一番前に座っている人物……見つけた。


 ……女性? 黒髪の落ち着いた雰囲気。

 レジンさん、あの人って知っていますか?


「知らねえのか? 有名人だぞ」


 名前は? ………ふふっ、そうですか。

 なるほど。

 楽しくなってきた。

 なんとか接触をはかりたいな。


 多分アース王女の護衛…普通に話し掛ける事は出来ない。

 どうしよう……有名人なら、ファンを装って手紙を渡すか。


「レジンさん、ありがとうございます。もう充分です」

「おう、最後まで観なくて良いのか?」

「はい、結果には興味ありませんから」


 大事を取って、手紙を書きながらしばらく救護室で過ごす。

 もう気持ち悪い感覚は無いかな。


「アスティ、貧血って聞いたけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

「なら良いけど、無理すんなよ。仕事は俺達がやるから」

「ありがとう」


 ダグラス君が様子を見に来た。

 悪いね、心配掛けて。

 もう大丈夫。

 慣れていない感覚だったからね。


 さて、手紙を渡しに行こう。


 楽しみだなぁ…


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