相変わらず私は魔性の女です。
シーン――
静まる店内。
着替えましたよ。
執事服。
パンパンの時と反応が同じなのは、同世代が結構居るからかな。
このお店…『高級料理のお店ロンロン』はリアちゃんが経営しているお店。
パンパンの店員さんよりも年上が多いのは、パンパンで接客スキルを学んだ子がスキルアップの為にここへ異動するから。
一応私と同世代も居るけれど、圧倒的に年上が多い。
いつもの通り、カウンターに立ち…座っているベラ、ステラさん、リアちゃんを眺める。
ベラはハニワのような顔をして私を眺め…
ステラさんは目をキラキラさせながら私を見詰めている。
リアちゃんはいつも通り見透かしたような紫色の瞳を向けて微笑んでいた。
「ご注文をどうぞ、子羊ちゃん達」
メニューを渡して、私もメニューを眺める。
フラフラと近寄って来るハート目の貴族女子達を店員さんが頑張って抑えているのは気のせいに思いたい。食事中に立つなよ…マナーはどうした。
相変わらず私は魔性の女……先祖返りの影響なのかな?
……何このアスティセットって……リアちゃん私の事を好き過ぎでしょ。
何も知らない私が注文票に記入する訳にもいかないので、注文はリアちゃんに書いて貰う。店独自のオーダーの書き方とかあるからね。
でもパンパンの注文票は覚えたよ。
ほぼ毎日居るからね。
流石にここ店員さんは年上…キャーキャーしながら手を止める事をしない。高速チラ見が多方向から突き刺さる。
「お待たせしました。ロンロンスペシャルランチ…ベラ、熱いから火傷に気を付けて」
「……はぃ」
ベラ、頬を染めるな。フラムちゃんへの想いはそんなものか? 私はフラムちゃんとベラの絡みもまだまだ見ていたい…いやそうでは無くて、私に横恋慕してはいけないよ。
まぁ、ベラは色々解っているから私に恋はしないだろうけれどね。
「こちらはアスティセット…ステラさん、隠し味は俺の愛だから…ゆっくり味わってくれ」
「あぁ…これマジでヤバいですね……パンパンに銀の貴公子が居るという噂は本当でした…」
銀の貴公子って何? 貴族女子の噂……そんな噂があったのね。そういえば最近は友達がいなかったらパンパンのバックヤードで食べているから表に出ていなかったな。
「はいリアちゃん、ロンロンパンケーキだよ」
「……アスきゅん、雑だったからもう一回」
いつもこんな感じじゃん。
高級料理店風の接客が良いのね……
「お嬢様、ロンロンパンケーキでございます。ほらっ、口開けて…あーん」
ぱくりっとリアちゃんが嬉しそうに食べている。
フラフラと近寄って来る貴族女子からため息が漏れているけれど、気にせずリアちゃんに餌付け。
ステラさん、口開けてどうしたのさ。……分かったよ、あーん。
ベラは駄目だよ。
……泣くなよ。仕方無いな、あーん。
ん? ……何か騒がしいな。
凄くわがままそうな金髪のお嬢さんが店員さんにワーワー言っている。カウンターへ行きたいらしいね。
ベラが気付かない振りをしている…知り合い?
「ベランジェール! こ、これはどういう事! あの御方は誰!」
ベラ、気付かれたよ。あの子誰?
第二皇女? へぇー。第二皇女は同じ年だった気がする。
王女時代に誕生会の招待が来ていたけれど、私は引きこもりだったから会った事が無いんだよなぁ。
リアちゃんが興味無さそうだから、断る方向だけれど店員さん大丈夫かな? 他の貴族女子達は皇女か来たから顔色を伺っている状態。
そういえばみんな学校じゃないの? お昼は優雅に過ごす貴族が多い? いや弁当で良いだろ。
「ねぇ、私は皇女よ。通しなさい」
「皇女様といえど、関係者ではありませんのでお断りさせて頂きます」
店員さん強え……まぁ…店員さん達にとって、皇女よりもリアちゃんが絶対だからな。
「はぁ? あなたがこの国で生きられるのは私達のお蔭よ。皇命よ、通しなさい」
「いえ、私が今生きているのはロンロン店長のお蔭です。通す事は出来ません」
第二皇女の目が細められる。
険悪な雰囲気になり、肩を竦めたリアちゃんが立ち上がる。
皇女の元へ行き、皇女を見据えて薄く笑う。
「あなたは、出禁にするから」
「はぁ? 良い態度ね…こんな店潰してやるわよ!」
あぁ…皇女さん、熱くなったら駄目だよ。
リアちゃんが薄く笑っているじゃないか。
「分かった、帝国とはこれで取引を終了する。全ての契約を解除するから、今から皇城へ行きましょう。もちろん…一緒に行くわよね?」
「ふん! 望む所よ!」
皇女さん、違和感に気付いて……店の契約を解除するのにわざわざ皇城には行かないよ。その人、ヒルデガルド・なんとかさんだよ。今謝らないと、帝国の経済が傾くよ。
止めるべき案件なんだけれど……面白そうだから止められない。
ベラはよく解っていない様子だけれど、ステラさんはニヤニヤしている。くっ、ステラさんの気持ちが解ってしまう。
「じゃあアスきゅん、今日は私が奢るから…パンパンでね」
「はい、お気をつけて。後で教えて下さいね」
「ふふっ、もちろん。モテる女はつらいわね」
私は付いて行かない。
だって城にはあの皇子が居るから…リアちゃんも解っているから無理に誘わない。優しいな。
リアちゃんと皇女はお店を出ていった。
…おっとご飯が冷めるといけないな。
「さっ、食べよっか」
「ちょっと待って! なんでそんなに冷静なの!?」
「なんでって、結果が解っているからね」
「お店潰されちゃうんだよ!?」
「いや、このままだと潰れるのは帝国じゃないかな」
「えっ?」
ベラ、落ち着いて。
ステラさんを見てよ……リアちゃんに付いて行きたくて行きたくてウズウズしているじゃん。それはもう楽しそうな笑顔で……
「ヒルデガルド……えーっと…あっ、ルイヴィヒさんって知っている?」
「えっ? えぇ……帝国経済を支えている重鎮で、独自の流通経路で帝国の発展に多大な影響を与えた経済界の英雄…だったわね」
「私がリアちゃんって呼んでいたあの人だよ」
「……嘘」
何十年前の話だから想像していたのは、おばあちゃんみたいな人。帝国の教科書に載っていたよ…偉人だね。
それより、皇族はリアちゃんの顔を知らないのかな? フーツー城だとみんな知っている風だったけれど。
あぁ…お店では私みたいに魔法で自分の認識をずらしているのか。
どうなっているのか見たい…見たいな。でも我慢。
食べ終わり、ロンロン店員さんに手を振ってお店から出る。
「じゃあ特事班に戻ろうか」
充実したお昼休みだった。
詰所に戻り、受付に居たミリアさんに先程の出来事を報告。
えー…という顔だったけれど、ワクワクした様子でちょっと行ってくると言い出て行った。
どうしてみんな楽しそうなんだろう……
あっ……ベラごめん。受付のミリアさんが出て行ったから私が受付をしなければいけない。
また今度ね。
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