休日を駄目にされた罪は重いよ。

 

 馬車に揺られてガタゴトと……

 目の前には緑女子こと侯爵家のベランジェール。

 斜め向かいには申し訳なさそうに俯くフラムちゃん。

 私の隣には、腕の立ちそうなメイドさん…暗部かな。


 まぁ、馬車に乗れと言われたので素直に乗った。

 騒ぎになると公爵家の飼い犬レジンさんが飛んで来る……そうなるとベランジェールは大層絞られるだろうね。

 そして、公爵家の威を借りた私は、侯爵家の暗殺者に狙われる……というのが一番面倒なパターン。

 だから素直に付いていく。


 店長に、手伝えないと告げるとボコボコにしてあげなさい。と、物騒な事を言ってバチリとウインク。

 至近距離でウインクするから風圧がね……そんな雑念が飛び交う程に車内は無言。

 話す事は無いし、侯爵家が誘ったんだから話のリードは侯爵家が持つべき。

 だから私からは喋らない。

 ほれっ、喋れベランジェール。長いからベラ。

 今は平民だし、勝手に喋るとうるさそう。

 フラムちゃんにアイコンタクトをしてみる。どんな風に振ったの? ねぇねぇ。教えてー。


「あなたは…フラムの事をどう思っているの?」

「好きだよ。それが何?」


 やっと話したと思ったら、普通な質問。つまらんのう…訓練中のフラムちゃんの汗ばむうなじが最高なの…あなたはどう? くらいの事を言わないと、ちゃんと答えないよ。


 なんか顔がヒクヒクしている。あぁ、私が平民だからタメ口が許せないのかな。だとしたらつまらんのう…権力でどうこうしたいなら親連れて来いよ。ベラは貴族の子供であって貴族じゃ無い……そうでしょ? メイドさん。


「ふんっ、強がっていられるのも今の内よ」

「…先ず、何故私を連行しているのか。明確な理由、予定を崩された私に対する保証、親が何処まで関与しているかを提示して」

「……」


 黙るな。もう一度言おうか? 後で忘れたって言われても知らないよ。

 メイドさん…笑いを堪えたら駄目だよ。メイドさんに聞いた方が早いけれど、教えてくれないんだろうな。


 それから沈黙が続き、馬車が止まる。

 中央区にある豪邸。侯爵家かな。


 馬車から降りて、豪邸の前まで来た。

 豪邸には入らず、庭の方へ。


 そして、木剣を投げ渡された。


「私と戦いなさい。私は…あなたを倒さなければいけない」


「それは私が馬車に乗る前に言う事であって、今の状況は侯爵家の権力を勝手に使って拉致に威圧行為、脅迫行為にも当たる。貴族刑法第33条…生命、身体、自由、名誉に対し害を加える旨を告知して平民を脅迫する…罰金刑…酷ければ拘留の対象かな」


「デタラメ言って!」


 メイドさん、見ていないで教えてあげて。


「……お嬢様、本当ですよ」


 ありがとうございます。


「それと、決闘法にも違反する。お互いに同意の上…日時、場所を決め公的に定められた立会人の下…公平な決闘を行わなければならない。強要罪も適用する…ですよね? メイドさん」


「……凄いですね。もしかして、帝国法の勉強を?」

「いえ、全部暗記しました」

「えっ…あの分厚い本を?」


 一応騎士団所属だからね。

 法律ぐらい覚えるよ。

 平民同士の喧嘩なら法律なんてあって無いようなもの。

 だけれど、貴族に属する者は法律を守らなければいけない義務がある。


「……」

「どうする? それでもやるなら…容赦はしない」


 もう帰ったら夕方なんだよ。

 お昼ご飯食べて無いんだよ。

 お腹が減って減ってイライラしているんだよ。

 ご飯奢れや。


「私は…本気なの。引き下がれないわ!」


「それは何に対して本気なの? そこは同意の上での…決闘ではなく勝負という試合の形に私を納得させる事が先。貴族なら自分の保身も考えて話すべき。それに…この闘いで、何を求める?」


「……なんなの…あんた」


 こっちの台詞だよ。

 休日を駄目にされた罪は重いよ。

 メイドさん…私の事を面白そうに見ないで。

 もうベラに興味無いでしょ。


 まぁいいさ。早く帰りたいから闘おう。


 メイドさん、審判お願いします。あっ、気付いたらそれはもう楽しそうに中央に立っていた。暗部スキル教えて欲しいな。


「では、お嬢様……恋路には大きな壁が付きものです。女を見せて下さいね。両者…構え」


 ノリノリだなぁ。

 とりあえず形だけでも構えよう。


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