振られたんだね。

「アスティちゃん! 格好良かったよ!」

「ありがと。これで落ち着けば良いけどね」


 落ち着かないだろうな。また絡まれると思うし……一応衛兵さんには事情を説明。

 有名税だよと言われたけれども、有名になんてなったら面倒なんだよ。素性を探られるからね。

 うーん…色々バレて退学になったらどうしようかな……いや、バレたらそれどころじゃないか。


 チロルちゃんと騎士の詰所へ行き、ブルーオーブの魔石を換金。

 一つ銀貨三枚で百九個。

 白金貨三枚、金貨二枚、銀貨七枚。

 王級の魔法書くらい買えるかな。

 正直Aランク以上の魔物と戦う事が無い限り、王級なんていらないけどね。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ラジャーナから帝都に帰還。


 一度家に寄ってチロルちゃんと色違いの女子服に着替えてから大通りへ。


「先ずは魔法書かな」


 魔法書店へ向かう。

 ここら辺はパンパンの近くだからよく来る。

 だから顔見知りとすれ違うんだよね。

 まぁ、顔見知り程度なら話し掛けては来ないけれど……


「アスティおねーさま!」

「はい? あっ、アーリィちゃん。また会えたね」


 ミーレイちゃんの妹、アーリィちゃん。

 青いツインテールがゆっさゆっさ揺れている。

 可愛いのう……一人? あっ、優しそうな青い髪の女性…ミーレイママかな?


「初めまして、アスティと申します。ミーレイさんには仲良くして貰っていまして…」

「初めまして。あなたがアスティちゃんねー。本当に可愛い。ミーレイがいつもアスティちゃんの話をしているのよ」


 チロルちゃんも自己紹介。帝都に来る前からの友達という事を強調している。ミーレイちゃんは同級生のお友達だよ。


「アスティおねーさま。アーリィと遊ぼう!」


 アーリィちゃんが私から離れようとしないので、ミーレイママ…トゥーナさんが困っている。

 大好きなミーレイおねーさまのお友達だから私も大好きという謎理論を展開して、家に招待しようとしているからだけれど。


「アーリィ、駄目よ。アスティちゃんが困っているわ」

「アーリィもアスティおねーさまと遊びたいの!」


 とりあえず……どうします? パンパンにでも行きます?

 バックヤードに遊べるスペースならあるけど…

 …ん? トゥーナさんの目が細められる。雰囲気が…


「……アズリード家、家訓」


 トゥーナさんの言葉に、ビクッとアーリィちゃんの肩が跳ねる。


「しゅ…淑女たるもの…品性高潔」

「はい。では、アーリィ……今の状況は?」

「わ、わがままを言って…おねーさまを困らせています」


 心が痛いよ…ミーレイママ。

 他家の教育は様々。

 私が口出しするものじゃ無いんだけれどね。

 気持ちが凄く解る分、胸がキューってなる。


「アスティおねーさま、ごめんなさい」

「アーリィちゃん偉いね。遊びたかった気持ち、私も凄く解るから……」


 明日遊びに行くね。

 アーリィちゃんを抱き締めて、耳元で呟く。

 口を結んでいたアーリィちゃんが笑顔になった。


 良いですよね? と、トゥーナさんにアイコンタクト。

 ごめんなさいねという顔で私を見ていたけれど、悪い女ねと言われた気がした。


 アーリィちゃんとトゥーナさんに手を振って別れ、空気だったチロルちゃんと魔法書店へ。



「土属性で使いたい魔法はあるの?」

「うーん…ストーンバレットよりも強い魔法かな。中級の魔法」


 火、水、土、風の四属性コーナーは大きい。探すのが苦労するから順々に見ていく。

 ロックフォール…ストーングレイブ…ストーンクラッシュ…上から岩を落とすロックフォールが無難かな。適性が上がると岩の大きさも変わるし。


 水属性は…ウォーターカッター…スプラッシュ…ウォーターニードル…。植物系統にも効くウォーターカッターと、下から突き上げるスプラッシュかな。


 私は今の所、特に欲しい魔法は無いから買わない。

 今持っている魔法を熟練させてから買おう。


 補助魔法も買おうね。

 石を纏うストーンメイルと、回復魔法のアクアヒール。

 とりあえずこんなものかな。


 もう夕方だから送っていくね。



「アスティちゃん、ありがとうね。アスティちゃんの役に立てるように頑張るから!」

「うん、夢の為に頑張ってね」


 チロルちゃんを寮まで送って、さぁ帰るかな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あらんアスティちゃんお帰りなさい」

「店長、ただいまです。明日はお昼から手伝いますね」

「ありがと。あっ、お手紙来ていたわよぉ」


 手紙?

 ……あぁ、ジードからだ。

 ここの住所教えたっけ……騎士団の人が届けてくれた? なんか悪いね。

 とりあえずご飯を食べて寝る準備をしてから読んでみる。


「えーっと……近況と、中等部から帝都に来るのか。騎士学校を受けるのかねぇ? 頑張ってくれたまえ。陰ながら応援はしよう」


 近衛騎士になる夢は、ジードなら叶える事が出来る筈。貴族学校に特待生で入れるくらいだもの。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 次の日、午前はミーレイちゃんの家…アズリード家へ。


「あら、アーリィ様がお待ちしていましたよ」

「ええ、約束したんですよ」


 ベテランお手伝いさんとは軽く話す仲になったと思う。

 お庭で遊んで良いですか? 

 奥からトタトタと小走りでやって来たアーリィちゃんを抱き締めた。


「アスティおねーさま! 来てくれた!」

「おはようアーリィちゃん。天気良いからお庭で遊ばない?」

「うん!」


 アズリード家の庭は、一等地なのに広い。

 土地代だけで一生暮らせそうだよね。

 入口から見て反対側に回り込んで、遊具がある場所にあるベンチにアーリィちゃんと並んで座る。

 塀に囲まれているから、外からは見えない場所。

 お金持ちだなぁ……遊具はシーソーとか滑り台とか小さい馬車。

 砂場もある。花壇には色とりどりのお花が咲いている……成功者の家って奴だね。


「おねーさまは、将来何になるの? 私は可愛いお嫁さん!」


「将来かぁ…今は夢に向かって突き進んでいるから、夢を叶えたら考えようかな」


「夢ってなぁに?」


「世界で一番強くなる事だよ。ライト」


 ポンッ。

 ライトを操作。

 細長い光に、光の羽を付けてグレートモスを表現。

 パタパタと飛ぶグレートモスは、妖精みたいで綺麗なんだ。


「わぁー! 凄い凄い!」


 アーリィちゃんの為に練習したのだよ。

 飛ぶ表現は難しかったけれど、蝶々を見て練習したからね。

 似たようなものでしょ。

 更に…


 ――ポンッ。


「わぁー! お馬さんだぁー!」


 いや、狼なんだけど……まぁいいか。

 四足歩行って難しいんだよなぁ…私は二足歩行だし。

 動きがぎこちないからケガしているみたいだね。


 もっともっとと言われたら、調子に乗ってしまう私。

 うさぎ、犬、鳥、光の動物園状態になった。ベテランお手伝いさんの表現が引きつっている。秘密ですよ。



「アスティちゃん…何してるの?」

「ミーレイちゃん、お邪魔しています」


 ふわりと後ろから抱き締められる。どうして誘ってくれなかったの? と、恨み言を戴く。アーリィちゃんと約束したの。すまぬ。


 ミーレイちゃんにはグレートモスを三匹プレゼント。わぁー妖精だぁーって言っているけれど、グレートモスだよ。部屋で見たでしょ。


「アスティちゃん…これ何の魔法?」

「ライトだよ。可愛いでしょ」

「いや、ライトじゃ明るくする程度だよね」


 外で使っちゃ駄目よと言われたけれど、可愛い女の子の為なら躊躇しないよ。というか部屋でお花のライト見たじゃん。


 ……おっ、あれはミーレイちゃんの弟君。

 お邪魔していまーす。

 あれ…手を振ったら逃げ出した。

 挨拶してくれよ。


「じゃあそろそろ帰るね。今日はお花屋さんの手伝いあるから」

「えー! お昼食べていってよ」

「おねーさま、食べていって!」


 もてなすのは好きだけど、もてなされるのは苦手なんだよ。

 気を使われると王女時代を思い出すからね。

 いやー……いつも思うけれど、嫌われていたなぁー。


 ……ミーレイママのトゥーナさんがニコニコしながらやって来た。その笑顔は何ですか?


「アスティちゃん、お昼食べていかないの?」

「いえ、すみませんが帰ります」


「アスティちゃん、お礼をさせて。凄い果物を貰ったばかりだし…それと、御両親にも御挨拶させて欲しいのよ」

「私は家出中なので、紹介出来ませんよ」


「……きっと心配しているわよ」

「あぁ、それは無いです。私の家は複雑なので」


 ニコニコと笑い合う光景を見て、ミーレイちゃんがハラハラしている。親の話は触れて来ないから。

 教育方針も様々なら、家庭事情も様々。

 アズリード家は色々な人を見てきている筈だから、この空気を解って欲しいけれどね。素性を探ろうとしちゃ駄目だよ。


「…親はいつだって子供が心配なものよ? 帰りにくいなら私が手伝うし」

「一般的にはそうですが…私は親の愛情というものを知らずに育ちました。まぁ…うん、楽しい時間をありがとうございました。失礼します」

「あっ…」


 笑顔で一礼して退散。

 ごめんよ、場の空気を悪くして。

 やり手の商家だから、ちょっとした事でボロが出るんだ。

 私は世間知らずな方だから、ね。逃げるが一番さ。

 これでもう親の事には触れて来ない筈…と思いたい。




「お母さん、どうしてアスティちゃんを追い込んだの…」

「……良かれと思ったんだけれど」


「……アスティちゃんに謝ってくる」

「あっ、ミーレイ!」


「ママ……アスティおねーさま、もう来ないの?」

「ごめんね。ママ…アスティちゃんに嫌われちゃったみたい…」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 お昼どうしようかなー。パンパンに行くと長くなるから家で食べるか。


「アスティちゃん!」


 ミーレイちゃん、来ると思ったから待っていたよ。

 謝らないでね。この場合は隠し事をしている私の方が悪であるのよ。

 でも言わないけれどね。まだ秘密。


「ミーレイちゃん、また来週お家に行って良い?」

「あっ、うん…でも…」

「あの果物の入手経路だったり、ブルークイーンだったり商人としては気になるものだよ。ちゃんと解っているから」


「うちの親が両親に会ってみたいって言っていたのに、アスティちゃんに言えてなかった…ごめんなさい」

「まぁ…多分会った事あるよ」

「えっ?」

「ふふっ、いつでもお泊まりしにおいで。じゃあね」


 これだけの商会…隣国にも面通ししていると思う。

 高級下着とかなら、母にも会った事ありそうだし。

 きっと素性を調べるんだろうなぁ…娘の友達だからこそ。


 考えても仕方ない。帰ろう。


 ……うーん。なんか店の前に黒塗りの馬車がある気がするけれど、気のせいだね。

 緑髪の女子が仁王立ち。

 フラムちゃんが悲しそうな顔を浮かべている。

 まぁ、そうだよね。


「あなたが…アスティね」


 ごきげんよう。

 侯爵家のベランジェールちゃん。

 敵意剥き出し…振られたんだね。

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