夢は応援するよ。
チュンチュン――
小鳥の囀りで目が覚めた。
のっそりと起きて、顔を洗って歯を磨く。
……うーん、やっぱりシャワー浴びよう。
シャワーを浴びて部屋に行くと、チロルちゃんが身体を起こしてお目覚めしていた。
昨日は泊まってくれたので、寂しくなかった。ありがとうチロルちゃん。予備の歯ブラシあげるよ。あとシャワー浴びといで。
チロルちゃんもシャワーを浴び、落ち着いたところで今日の予定を決める。
ラジャーナへ行くのは確定だけど、チロルちゃんの服装がワンピースだからなぁ……体型が似ているから私の服でも着る?
という事で、チロルちゃんは私の地味な服を着る。
私も地味な服。お揃いで地味だね。
私は地味メガネも装着して地味アスティ。チロルちゃんも旧地味メガネを装着して地味チロル。これじゃあ背景と同化するくらい地味だね。
チロルちゃんのワンピースは私が洗濯するので預かり、帰りは私の服を着て貰う予定。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
という事で、ラジャーナに到着。
ブルーオーブが居た場所へ行きたいので、北門から出る。
衛兵さんは顔馴染みなので、手を振るとニコニコしながら手を振り返してくれた。特に問題無くそのまま門を通過。
メガネを外して、プルプルしているチロルちゃんと手を繋ぐ。
「ほ、ほんとに…大丈夫?」
「もちろん。邪魔が入らなきゃね」
若い冒険者のパーティーが付いて来ている。
このままのペースだと、森の中で絡まれそう。
どうするかなぁ…一度戻ろうかな。…いや、振り切るか。
「チロルちゃん、後ろから冒険者が着いて来ているから…ちょっと走るね」
「う、うん――ひゃっ!」
チロルちゃんを抱えて北の森を抜ける。後ろの様子を見てもらいながら…
「後ろはどんな様子?」
「走って来ている…けど、アスティちゃん速い…どんどん遠ざかっていく」
「鍛えているからねぇ。おっウルフだ――ソルレーザー」
バシュン――前方にダークウルフを発見。ソルレーザーで瞬殺して、走り抜けながら魔石を取って収納。
ブルークイーンがある大きな岩まで辿り着いたけど、多分まだ追って来ているんだろうなぁ…私に何か用事がある? それは無いな。冒険者の友達は居ないし…
「アスティちゃん、冒険者の中に魔法学校の生徒が居ると思う。見た事のある男の子が居たから…」
「なるほど…チロルちゃんを見掛けて追い掛けて来た…いや、地味メガネを装着していたからそれは無い。普通なら街で話し掛ける筈…やっぱり退散しよう」
ヒョイッとチロルちゃんを抱えて、東の岩場へ向かう。
白い岩場を走り抜けて、黒い岩場に到着した。
依然ブルーオーブと闘った場所。私の穴場。
「よしっ、と。とりあえずブルーオーブでも倒そうか」
「えっ、でも私…補助魔法の専攻だから…そんなに攻撃魔法は使えないよ」
チロルちゃんの適性は土属性。おじいさんがフーツー王国の農耕地帯にある大農場を経営している影響で、農業に役立つ土魔法を開発したいという夢がある。全力で応援するからね。
チロルちゃんにミスリルナイフを渡して、
「ライトソード」光属性を付与。
これでブルーオーブを斬れば大概倒せる。
私はライトを前方に放ち、ブルーオーブを誘き寄せる。
しばらく待っていると、ふよふよと青い玉が飛んで来た。
「魔法は私が防御するから、プスッと刺せば大丈夫だよ」
「うん! 頑張る!」
ライトに寄って来たブルーオーブに近付くと、水の玉が発生。
こっちに飛んで来るけれど、「ライトシールド」
パシュ――光の盾に阻まれた。
「今だよ!」「うん!」
プスッ――チロルちゃんがミスリルナイフでブルーオーブを刺したら、溶けるように消えていった。
そして、カランと落ちた青い魔石。
「やったー! 初めて魔物を倒したよ!」
「おめでとう! ランクCの魔物だから壁を越えられると思うよ!」
「…え? ランクC?」
うん。ランクCだよ。Fじゃあないよ。Cだよ。早く魔力を取り込んでね。次来るよ。
「――っ! なんか…力がみなぎる…」
「壁を越えたんだよ。これで、魔力が上がって魔法の威力が上がったり、身体能力も上がるから」
次は二体のブルーオーブ。水の刃を光の盾で防いで、チロルちゃんがプスッと刺す。またプスッと刺して、転がった魔石から魔力を取り込む。
お昼までは、これの繰り返し。途中から、チロルちゃんが土の弾を放って倒せるようになって効率が上がった。
何体倒したか解らないけれど、五十は倒したかな。
「なんか…凄い魔力が上がっているよ」
「これで、一人でもブルーオーブは倒せるかな。この魔石を売ったお金で、土属性の魔法書買いにいかない?」
「うん! 一緒に選ぼうね!」
両手をグッと握って元気一杯に返事をするチロルちゃん。可愛い。
探したけれど、土属性のイエローオーブは居ないのかな?
「んー?」
「どうしたの?」
「…ウォーターボール」
ポンッ。いや、ボンッ! だな。チロルちゃんが私の身体ぐらいの水の玉が出現させた。
…このウォーターボール、昨日まで親指くらいだったらしい。
適性も上がった…。私はまだ拳大の…下の中ウォーターボールだってのに。
これは上の下ウォーターボールじゃねえか…才能って怖いわ。
目をキラキラさせてウォーターボールを眺める姿も可愛いよ。
良かったね。才能が開花して。
水属性の魔法書も買いに行こうね。
お昼ご飯はお弁当。お花屋さんの近くにあるお弁当屋さんで買ったもの。意外にあの近辺はお店が充実している。
お昼ご飯を食べ終わり、またブルーオーブ狩り。
ライトで誘き寄せたブルーオーブをチロルちゃんが土の弾で撃ち抜く。
深追いは危険なので、今日はブルーオーブだけで終わろう。
深追いすると、私みたいにSランクに出会うからね。
また今度土属性の魔物を探しに行こう。
もう百体は倒したと思う。途切れないブルーオーブに首を傾げつつ、帰る準備。
「お疲れ様、帰ろっか」
「うん! アスティちゃんありがとう!」
お礼は身体で…げふんげふん! 間違えた。夢を応援したいからね。私も防御魔法の練習になったし。
帰りもチロルちゃんを抱えて走って帰る。
黒い岩場を抜けて、白い岩場を通り過ぎる。
白い岩を採掘している冒険者の中に、朝の若い冒険者は居なかった。
ブルークイーンの岩山…焚き火をして休憩した跡。こんな場所で焚き火をするのは新人しかいない。大きな猪やウルフが徘徊する場所だから…
もうすぐラジャーナという所で、遠くに冒険者が見える。
「…居るね」
「ど、どうしよう」
「別に、逃げる必要も無いんだけどね。とりあえず進むよ」
チロルちゃんに地味メガネを装着させて、私も地味メガネを装着。ダブル地味女。
駆け足でラジャーナ近くまで来たところで、若い…十五歳くらいの冒険者五人の男女と、ローブを着た十二歳くらいの魔法使いが走って来た。
チロルちゃんを抱えているので、剣は使えない。いつでもソルレーザーを撃てる準備は出来ているけれど…
大柄な奴が前に出てきた。
「おいお前ら! ちょっと面貸せや!」
「…」
「無視か? お前らがオーガの倒し方を独占しているのは知っているんだ! 卑怯だぞ!」
「「そうだそうだ!」」
ん? ちょっと何言っているか理解出来ません。
オーガの倒し方を独占?
よく見たらこの前理不尽を言ってきた冒険者に似ているけれど、顔なんか忘れたからどうでも良いか。
いきなり喧嘩腰だと…チロルちゃんが怯えるじゃねえか。
「教えようか?」
「おう話が早えじゃねえか」
「――ソルレーザー」
キイィィィイン!――真横に極太ソルレーザーを放つ。
直ぐ近くなのに熱を感じさせないくらいお手の物。
まばゆい光を放つ白い柱。
王級魔法を見たくらいでポカーンとしやがって…
…あっ、チロルちゃんの事じゃないよ。
ブスブスと、ソルレーザーを放った場所は溶けて穴が出来ていた。
冒険者達は冷や汗をかきながら穴と私を交互に見ている。
「これが倒し方。文句あるか?」
「い、いや…」
「もう二度と話し掛けんなよ」
チロルちゃんのキラキラした視線を受けながら、冒険者の横を通り過ぎる。
「まっ、待ってくれ! 俺達と組まないか!」
「いきなり喧嘩腰の奴らとは友好を結べないね。じゃ」
魔法使いの男子が話し掛けようとしてきたけれど、シュタタタ! っと退散。
…うーん。もしかしたら私がオーガの倒し方を独占しているって新人冒険者の中で広まっているのかな?
だとしたら一々こんな証明をするのも面倒。
ならば…新しい変装を模索するか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます