新作パンケーキ、美味しいね。

 

 チロルちゃんと大通りに向かって歩く。並んで歩くと、同じくらいの背丈に、同じくらいの体型…仲良くなれそうな気がしてきた。

 今は学生寮で暮らしていて、友達も沢山出来たらしい…良いなぁ。


「新作パンケーキが出たから、一緒に食べようねー」

「うん! 気になっていたけど、入った事が無くて…」

「まぁ、混んでいるし、パンケーキは嗜好品の類いだからね。急に誘っちゃったから、新作パンケーキは奢るよ」


 遠慮しなくて良いよ。高いから…銀貨五枚だよ? デラックスパンケーキの五倍だからね。黙って奢られなさい。

 チロルちゃんは友達と古着屋さんや、雑貨屋さんを巡るのが趣味…私も混ぜて欲しいな。

 雑貨屋さんはよく行くからね…グレートモスがもう一匹増えたんだよ…四兄弟になったんだ。


「着いた、けど…お昼前なのに混んでるなぁ」

「並ぶのは気にしないよ」

「あぁ、大丈夫だよ」


 四十分待ちの看板が出て、女子達が並んでいる。

 お店の中から、入り口担当のレーナちゃんが出てきて、私を手招き。チロルちゃんと一緒にお店の中に入ってチロルちゃんをカウンター席に座らせる。


「ちょっと待っててね」

「うん…ここで働いているの?」

「違うよ。カウンターは私専用の場所なんだ」


 首を傾げるチロルちゃん。クリッとした目が可愛い…リスみたいだなぁ。

 私はバックヤードへ行き、待っていたレーナちゃんに新作パンケーキを注文…


「レーナ、新作パンケーキ…よろしくな」

「は、はひぃ…も、もう一声…」

「…欲しがり屋さんだな」


 レーナちゃんの頬に手を当てて、指で耳をなぞる。…目と息遣いがヤバいけど大丈夫? 満足? よかった。

 それから更衣室で執事服に着替えて、カウンターに立つ。

 …相変わらず私がカウンターに立つと、一瞬お店の空気が止まる。そろそろ慣れて下さいな。


「チロルちゃん、お待たせ」

「なっ、なっ、なんとぉ…」

「似合ってる?」

「うん、うん、素敵…」


 執事服を着ると格好良さに補正が付くから、レーナちゃん曰く同世代の女子はヤヴァイらしい。私は従業員の女子達から魔性の女と呼ばれている。

 チロルちゃんもヤヴァイのかな?

 おっ、パンケーキが到着。パンケーキの上に『渦メロン』と『超高原スイカ』が乗せられて、『渦ベリー』クリームと、『超甘苔』クリームのダブル使い! 素晴らしい…これメニューに無い奴だね。原価が凄いよ。

 良かったね、チロルちゃん。


「じゃあ、あーんして」

「……え?」

「ん? あーんしてくれないと食べさせられないじゃん」

「……」


 チロルちゃんの顔が赤い、そりゃ人が沢山いる中であーんは恥ずかしいか。でもあーんしないと食べさせてやらぬよ。チロルちゃん可愛いから食べさせてあげたいのだよ。

 ほれっ、あーん。…よしよし、美味しいかい?

 私も食べよ。……美味えな。マジ美味え。そういえばムルムーどこ行った?


「美味しい?」

「うん…美味しい…夢みたい…」

「ふふっ、良かった」


 レーナちゃん…カウンターの中でしゃがんでずっと私を見ているけど…鼻血出てるよ。大丈夫? 仕事しなよ。

 とりあえず私もしゃがんで鼻血を拭いてあげる。


「レーナ、大丈夫か? お前に何かあったら俺…泣いちまう」

「むふおぉぉ!」


 鼻血やべぇ止まんねえな。しかもなんで今台本読ませるのさ…リアちゃん。いつの間に居たの? 新作最高ですね。

 レーナちゃんがフラフラし始めたので、リアちゃんに持って行ってもらう。


「ちょっと待たせてごめんね、みんな面白い人ばかりで」

「あの…私にも、言って欲しいな…」


 羨ましかったのね。じゃあちょっと近付いて。

 台本にいつの間にか丸が書いてある。これね。


「パンケーキを食べるチロル…可愛いな、一緒に食べてやろうか?」

「ぜ…是非…」


 なんだこれ。言う私も私だけれど、書く方も書く方じゃね? リアちゃん、台本更新されているんだけど…


「チロルちゃんは明日暇?」

「えっ、うん。暇と言えば暇かな」

「じゃあ、とりあえず後で家来る?」

「……う……喜んで」


 よし、ダメ元で言ったけど大丈夫だった。

 どうせムルムー帰って来ないし、夜は店長も居ないから寂しかったんだ。フラムちゃんは忙しい…ミーレイちゃんも実は忙しい…

 だから週末暇なチロルちゃんが私の希望の星だね。


 …誰か隣に立ったな。…ムルムーか。ジーッとチロルちゃんを見てどうしたの? なんで昨日帰って来なかったのさ。

 …ムルムーはフッと笑って去って行った。…何しに来た?


「…今のは姉のムルムーだよ」

「おっ、お姉さん…美人だね…」


 チロルちゃんが下を見ながらシュンッとしている。ムルムーおっぱい大きいからね。大丈夫、仲間だよ。

 私の母は巨乳だったから、期待していたけれどね。リアちゃん曰く…私は先祖返りの影響で、胸の成長は期待しない方が良いらしい…御先祖様よ、恨みますよ。


 食べさせられる事に慣れて来たのか、チロルちゃんはパクパク食べてくれるようになった。周りからは結構な視線を浴びているけれど、慣れって怖いね。

 カウンターに座りたい人が多いけれど、復活したレーナちゃんが対応している。


 おっ、ミーレイちゃんのお友達…ナナリーちゃんが彼氏と来店。…一組の男子だな。

 彼氏がいるから手を振るのは不味い、なのでウインクをするとナナリーちゃんが胸を抑えて悶絶している。…ふっ、私は悪い女さ。


 まぁ…最近は自覚しているから…

 男子には全くモテないけれど、女子には凄いモテる。

 だからと言ってどうする訳でもないけれど、自覚するという事は大事。とても大事。

 チロルちゃんが私に向ける視線も自覚しているから、お友達になって貰えると確信している。今は恥ずかしいから言えない…色々飛び越えているけど言えないものは言えない。


 パンケーキは少し量が多かったけれど、難なく食べれた。お昼ご飯いらないね。


「食べ終わったし、行こっか」

「うん!」


 着替えてから、レーナちゃんに金貨一枚渡して、お店を出る。お代は要らないって言われたけれど、無理矢理渡す。要らないなら従業員の皆に可愛い服買ってあげてね。


 せっかくだから、チロルちゃんと古着屋さんや、雑貨屋さんを回る。誰かが居ると違う感性に触れられるから、一人より断然楽しい。

 そのおかげか、普段行かない所でグレート芋虫をゲット出来た。残りはグレートサナギがあれば、グレートモスファミリーが出来る。


 楽しく会話しながら、私のお家…お花屋さんに到着した。


「店長ー、ただいまー」

「あらぁん! おかえりなさぁい!」

「……」


 ん? チロルちゃん? ……白目剥いて気絶している。

 今日の店長は刺激が強かったかな?


 今日の店長は、花柄のマントを羽織って、花柄のブーメランパンツ。胸を赤いお花で隠している…どうやって胸に付いているんだろう……


 ごめんねチロルちゃん。事前に言うの忘れてた。


 気絶しているし…とりあえず…お持ち帰りしよう。

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