銀の玉。
夜になって、店長がお店を閉めて戻ってきた。
「あっ、店長これお土産です」
「あらぁ! …何かの実?」
「『渦メロン』と『超高原スイカ』ですよ」
「…それ、初代ニートー皇帝が食べていた果物よねぇ…確か…『自殺の名所ツアー』っていう未開の地にしか自生していない筈だけど…」
おぉー合ってた! 自殺の名所ツアー!
『パンパン』の店長さんと行ってきましたよ。彼氏さんと食べて下さい。
「じゃあ行ってくるわねぇ!」
「あっ…」
…行っちゃった。
まぁいいか。
…ムルムー帰って来ないな。
きっと今頃パンケーキを食べて可愛い女の子達と楽しく過ごしているのかな。ムルムーって、割りと本能に忠実だから…
…魔法の練習でもしよう。『天の王』からもらったネックレスのお蔭で光の操作が上達しそうだし。
…細長い光に、光る羽を付けてっと…出来た。
グレートモス…可愛い。本物はグロいんだろうな。見てみたいけど、ちょっと怖い。
あっ、私が小さい『天の王』を作れば良いのか。
光の玉に二対の翼。うん、出来た。闇属性も上手くなって来たから、黒いのも作ろう。
闇の玉に二対の翼。『冥の王』もこんな感じなのかな?
白と黒の羽虫…いや違う、なんて言えば良いんだ? 妖精とか精霊に似ているから……まぁ…白玉と黒玉で良いか。
白玉と黒玉を両方出すと結構疲れるな。
光と闇の属性を両方行使しているから当然だね。
…いや、普通は出来ない筈…って今更か。
光と闇を合わせたら……おっ、銀色っぽい光になった。
白玉と黒玉が合わさって、銀色の玉に二対の翼が生えた…銀玉。
…なんか響きが嫌。銀…翼。銀羽…可愛いから銀ちゃんで良いや。
銀ちゃんは何属性って言うのかな? 光闇属性? リアちゃんに聞いてみよ。
……結局、ムルムーは帰って来なかった。
今回もセリフ無しだなこりゃ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、地味眼鏡を掛けて学校へ。
学活の内容は、学園祭的な何かの連絡。私には関係無い。
テストはこれからあるらしい…忘れてた。
国語の講義室へ。みんなテストの話を不安そうにしているけれど、そんなに難しいの?
「ミーレイちゃん、おはよう」
「アレス君、昨日はありがとう。あの果物、凄く美味しかった。パパとママもビックリしてたよ」
「良かった。多分また採りに行くから、持っていくね」
昨日は一人だったから、果物やけ食いしたけれど胃はもたれていないし、お肌艶々で気分が良い。
ミーレイちゃんのほっぺも良い張りだね。
あっ…ついミーレイちゃんといつもの感じで接してしまう。
男子諸君、すまない。
「おはよう。アレス君、ミーレイちゃん」
「おはようフラムちゃん」
「あの果物凄いね。美味しすぎて全部食べちゃった」
「良かった。『パンパン』で新作イベントやっているから来てね」
来てねって…私は従業員じゃなかった。
まぁ…ただパンケーキの為に行くんだけどね。食べさせてあげるよ?
フラムちゃんはいつもの通り忙しい。
ミーレイちゃんは、学園祭の準備…
講師が来て、国語のテストが始まった。
……
……
二十分で見直しも終わった。
…あと四十分ある…何しようかな…
…終わったら帰って良いって話だし、小声で二人にバイバイって言ってから、講師にテストを渡して講義室を出た。
もう良いのか? って言われたけれど大丈夫。満点取れると思う。
さっ帰ろうかな。
魔物学のテストは、昨日終わっているみたいだから…一応担任に聞いてみよう。
……おっ、職員室でテストを受けられるみたい。早速やろう。
……簡単だったから、十分で終わった。帰ります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地味眼鏡を取って、伸びをしてから学校を出た。
パンパンに行くか、ラジャーナに行くか…だけれど。
…おや? あれは、魔法学校の制服かな。
少し離れた所で、何かの授業なのか、三十人くらいが紙を持って講師の話を聞いている。街にある魔法道具って所だろうね。
ニートー魔法学校は少し歩いた所にあるから、私が通っている西学校から近い。
女子生徒の一人と目が合った。その生徒が隣の女子生徒に話し掛けると、隣の女子も私を見てくる。
…ふっ、私は今イケメンだからね。とくと見るが良い…
…ん? 私の方を見ていないけれど、何か見た事がある女子が居るな。赤茶けた髪の…帝都に来る時に一緒だったチロルちゃんかな?
今授業中だから、話し掛けたいけど話し掛けられない。
うーん……こっち見てくれたら良いんだけれど……おっ、近くにベンチを発見。座って少し様子を見てみる。
……チロルちゃんらしき女子は、真面目に話を聞いているから、こっちを見ない。
その内、何人かで固まって行動を始めた。班に分かれて動くのかな? チャンス。
チロル班はこっちに向かっている。立ち上がって、チロルちゃんを凝視。凝視。凝視。
あっ、目が合った。
チロルちゃんが班の人に何かを言って、私の方に駆けて来た。
とりあえず軽く手を振ってみる。周りがざわざわしているけど気にしないようにしよう。
「やぁチロルちゃん。久しぶりだね」
「アスティ君…来てくれないから寂しかった…」
「ごめんね。ちょっとバタバタしていて…」
全然バタバタしていないけれど、会いに来た訳では無いけれど、そういう事にしておこう。うん。
「今は、どこかで働いているの?」
「うん。働いているよ。あと、西学校に通わせて貰ったんだ」
「そうなんだ! アスティ君良かったね!」
本当に良かった。学校は楽しいです。
今日はもう帰るけどね。チロルちゃんはこの授業が終わったら自由かな?
「チロルちゃんは、何時に学校終わるの?」
「この授業が終わったら帰るよ」
「じゃあ…待ってて…良いかな?」
チロルちゃんはブンブンと頭を縦に振る。首痛めるよ?
じゃあここで待ってるね。
チロルちゃんは班に戻って行ったけど、何か囲まれてんな。大丈夫?
待っていると、生徒達は魔法学校の方向へ歩いて行った。
……
……
しばらくして、魔法学校の方向から走って来る人影。
結構全力疾走だけれど大丈夫かな?
「はぁ、はぁ、ぜひゅ、お、待たせ…」
「大丈夫? 水飲む?」
「あり、が、ふぉ」
息を整えるまで待とう。
「じゃあ、『パンパン』に行こうか」
「えっ、う、うん」
新作パンケーキが楽しみだ。
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