天の王。

 

 垂直に伸びる天辺の見えない山。

 リアちゃんと一緒に、頂上より少し下に転移。

 下を見ると雲海が広がっている。初めて見た…絨毯みたい。


 ……周りはもっと岩がゴツゴツしたイメージだったけれど、草木が生えて緑が多い。至る所に空色の丸い物体が転がっている…あれが『超高原スイカ』なんですね。十個くらい欲しいです。


 ……結局百個くらい採った。『超甘苔』も手に入れた。

 リアちゃんの分も採ったから、新作パンケーキが楽しみ。

 私は特事班とか友達の家にお裾分けしなきゃなー。

 なんかまったりしちゃったけれど、目的は『天の王』。


 上に登れそうな岩を探していると、リアちゃんに抱えられてフワッと浮かんで上へ。…飛行魔法も使えるんですね。

 なんかリアちゃんって天使みたいな人。可愛いし、強いし、落ち着いていて、私の理想像そのまま。


 ゆっくり上がっていくと、頂上らしき場所に到着。

 …何もない円形の場所。…どこに居るんです?


 ん? 上? あれは太陽じゃないの?

 …よく見たら太陽は光の玉の奥にあるから違う。

 デカイなぁ…何百メートルあるんだろ…


「……あれですか?」

「アスきゅん。あれが光属性の王…『天の王』だよ。おーい!」


 おーい! って何呼んでんの!? 

 動いた! 動いたよ!

 ……

 ……うぉぉぉぉ! すげぇぇ! 翼が出てきた!


 白い玉から一対の白い翼が出て……もう一対出て……


 …可愛いな。

 二対の翼が生えた白い玉。

 でも大きい。小さくならないのかな?


「リアちゃん。可愛いですね。小さい奴が居たら欲しいくらいに可愛いです」

「頼んでみる?」

「頼む? ですか?」


 リアちゃんが『天の王』に手を振って、小さい奴って居る? って聞いている。リアちゃん度胸あるなぁ…


「なんかね、アスきゅんの魔力が美味しそうだから、本気で光魔法撃ち込んでくれたら何かくれるって」

「あっ、じゃあ撃ちますね」


『天の王』に向かって両手を向ける。

 玉の中心を狙って、魔力を全て注ぎ込む。

 …頭がボーッとしてきた。


 撃ったら倒れるかも…でも、可愛い何かが欲しい!


「本気の!――ソルレーザー!」


 キュイィィィィイ!――光の柱が『天の王』を包み込む。

 全力でも翼までは届かないけれど、白い玉を包むくらいは出来た……

 これで…良いかな…

 意識が遠のく…


 ……

 ……

 ……


「ん…リアちゃん」

「アスきゅん、おはよう」

「ひめさまぁ、大丈夫?」


 目が覚めたら、ムルムーが待っていた場所に居た。ムルムー、ひめさまじゃないよ。


「アスきゅん、これ貰ったよ」


 リアちゃんが私の首に何かを掛けた。鏡を見ると、『天の王』の形をしたチャームが付いたネックレス。

 …可愛い。しかも光属性強化と自動回復の効果があるって凄い。


「ありがとうございます。『天の王』さん」


 山の頂上に向かってお礼を言ってみたけれど、届いたかな?


「じゃあ、帰ろうか。ありがとね、これで新作イベントが出来る」

「いえいえ、私も果物貰ったんで満足です」


 目的は達したから、みんなで『パンパン』に帰ってきた。



「じゃあまた来ますね」

「うん。あっ、ムルムーちゃんはここで働く?」

「はい、賄いにパンケーキを食べられるなら喜んで」


 ムルムー…パンケーキに取り憑かれたな。

 美味しいもんね。ちゃんと帰って来るんだよ。『パンパン』にお泊まりするなら呼んでね。



 ムルムーは研修があるので、置いていく。

 銀色じゃーじを着ていたので着替えて店を出る。

 夕方かぁ…どうしよ。

 ここからミーレイちゃんの家って近いよね。

 ちょっと果物お裾分けしに行こう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 コンコン。


「はい、どちら様ですか?」


 ミーレイちゃんの家に到着。

 ベテランお手伝いさんが出てきたけど…あっ、今日は女の子だからか。女の子で来るのは初めてだったな。女の子だからベテランお手伝いさんの雰囲気が柔らかい。


「あの、アスティと言います。ミーレイちゃんにお土産があって来たんです」

「わざわざありがとうございます。少々お待ち下さい」


 家の前でボーッと待っていると、ドタドタ音が聞こえて扉が開き、ミーレイちゃんが勢い良く抱き締めてきた。


「アスティちゃん!」

「ぐほっ…ミーレイちゃん」

「今日は学校来ていなかったから心配しちゃった」

「ちょっと出掛けていて…あっ、これお土産」

「ありがとう…くっ…重い…」


 ミーレイちゃんに、『渦メロン』と『超高原スイカ』を渡す…ごめん重いよね。玄関の脇に置いておく。


「じゃあまた明日ね」

「えっ…帰っちゃうの?」

「うん。姉が来てバタバタしててね」


 ミーレイちゃんに軽く説明しておく。

 ムルムーっていう姉が『パンパン』で働き始めたのだよ。

 説明していると、物陰からこちらを伺う女の子を発見。おいでおいでしたらトコトコやって来た。


「おねーさま、この綺麗なおねーさまは誰?」

「アスティおねーさまだよ。アスティちゃん、妹のアーリィ」

「アーリィちゃん。よろしくね」


 ミーレイちゃんと同じく、青い髪に少しタレ目が可愛いアーリィちゃん。可愛い…


「アスティおねーさま、良い匂い…」


 ポフッとアーリィちゃんが抱き着いて来た。善きかな善きかな。癒される…ミーレイちゃん、悔しそうにしないで…ほらっ、ここ空いてるよ。

 …ミーレイちゃんも抱き着いて来たけど…ベテランお手伝いさんがニコニコしながら見ている。もう空いてないよ。


「ただいまー…っと姉ちゃんどうした…の…」

「あっ、どうも。お邪魔してます」


 青い髪の少年…弟さんですかね?

 まぁビックリするよね。家に帰ったら姉と妹が見知らぬ女子に抱き着いている光景。


「……」

「ミーレイちゃん、アーリィちゃん。そろそろ帰るね」

「うん。また明日ね」

「アスティおねーさま、また来てくださいね」

「うん! 果物美味しいから食べてね。じゃあ」


 少し名残惜しいけど、家族の団らんを邪魔する訳にはいかない。

 ちょっと少年、どいてくれ。

 少年の横をすり抜けてアズリード家を出る。


 次はフラムちゃんの家に行こう。



「…姉ちゃん、あの人…誰?」

「ん? 友達よ。あっ、惚れちゃ駄目だから」

「――ばっ、惚れる訳ねえよ!」

「そ。なら良いの。惚れても無駄だからね」

「なんでだよ」

「それは秘密」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 フラムちゃんの家は…ここら辺だなー。


 ん? 黒塗りの馬車が来た。

 フラムちゃんの家に停まって…フラムちゃんが降りて来た。

 今日もお城で指南役かな?

 おっ、もう一人降りて来たな。貴族っぽい女子。

 肩口で切り揃えた緑色の髪をした女の子。


 ちょっと待とう。

 何話しているんだろうなぁ。お友達かな? 


 緑女子がフラムちゃんにハグ。挨拶にしては親密な感じ…フラムちゃんも嫌がってないし。

 緑女子が顔を赤くして、フラムちゃんのほっぺにチューしてる。仲が良くなると、別れ際にハグしてチューか。フムフム、勉強になる。


 緑女子が馬車に乗り込み、馬車は城の方へ進んでいった。

 フラムちゃんはそれを見届けて、家に入ろうとした所でこっちを見た。やっほー…ん? どうしたの? 凄い顔してるけど…


「フラムちゃん、お土産持ってきたから食べてね」

「えっ、あっ、うん…ありがとう…」

「じゃあまた明日ねー」

「まっ、待って!」


『渦メロン』と『超高原スイカ』を家の前に置いていく。

 帰ろうとして、フラムちゃんが焦った様子で呼び止めて来たけど、どうしたの?


「ちっ、違うの!」

「何が?」

「あっ、いや…今の…見てた?」

「うん。お友達とバイバイしていたから待っていたけど」

「…違うの…違うの…うぅ…ぐすっ…」


 えっ、ちょっ…どうしたの?

 よしよし、嫌な事されたの? 違う?


 …ん? ……緑女子に惚れられてしまったと?


「緑女子は貴族?」

「うん…侯爵家のベランジェールちゃん」


 腕試しに闘った貴族の男子達を全員倒してしまったから、貴族の女子達がキャーキャー言っているのか。モテモテだね。

 どうしたら良い? って聞かれても…


「女子のそういう感じの好きって、一過性の場合が多いからとりあえず様子を見るしかないかな。それでも駄目なら…まぁ…振るか貰うか…」

「…じゃあ、好きな人居るって言ってみる」

「うん、頑張ってね」


 とは言ったものの…振られた貴族様は、フラムちゃんが好きな私にロックオンして来そうだな…


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