未開の地。

 

 えー…


 …正面に見えますのはー、広大な砂漠。

 …右手に見えますのはー、暗く鬱蒼としたジャングル。

 …左手に見えますのはー、激しい渦を巻いている湖。

 そしてー、後ろに見えますのはー、頂上の見えない山。


 どれもヤバい魔力が渦巻いていまーす。


 ……いやいやいやいや…どれも嫌です。自殺の名所ツアーじゃないんだからさ…


 だってほら、砂漠にはデッカイ芋虫さんがウネウネしているし。

 ジャングルは家より大きい蛇の胴体が通ったし。

 湖は論外。

 山とかほぼ垂直だよ?登っている間に大きな鳥がパクっと私を食べそうだ。

 一応この中心はリアちゃんの結界石で守られているから安全。いやまじ出たくない…


 ムルムーなんてその場で正座して、断固動かない姿勢を保っている。待っているから行ってこい?忠義はどうした?



 パンケーキの材料は…フルーツ系か…ならジャングルかな。多分一番生存出来そうなのはジャングルだし…


「アスきゅん…砂漠は『大砂漠イチゴ』や『大砂漠ブドウ』、湖は『渦メロン』や『渦ベリー』、ジャングルは『幻覚甘キノコ』や『血赤みかん』、山は『超甘苔』や『超高原スイカ』があるらしいんだけど……」


 どれもすげえ美味そう…個人的には『渦メロン』が食べたいけど、現実的に難しいし…簡単なのお願いしゃす!


「じゃあ…渦メロン食べたいから湖ね」


 わぁー、お揃いだねー、って湖は一番キツイでしょ!

 ヒョイッと私はリアちゃんに抱えられ、テクテク歩いて湖の側へ…


 ゴォォォ!と渦がうねりを上げる音が聞こえる。

 ねぇ、入るの?駄目だよ?死ぬよ?色んな所ボキボキだよ?


「大丈夫。ほら」


 ……え?渦が止まった。

 絵画の様に渦を巻いている状態でピタリと…

 リアちゃんを見てみると、紫色の瞳が淡く光っている。

 …魔眼…?


「リアちゃん…が止めた?」

「うん。凄いでしょ」

「凄い…を超えている…魔眼…」

「その内アスきゅんも魔眼は発動するから安心して。種類は違うけど」

「…どゆこと?」


 …先祖返りをしているから、その内魔眼になるんですか?

 ……え、格好良いじゃねぇか…魔眼持ちのアスティちゃん…魔眼の種類は?秘密?教えてー。


「ところで、フーツー王国のご先祖様って知らないんですけど…どんな方なんです?」

「王位継承者しか知らない事だけど…知りたい?」

「知りたい」

「良いよ。とある女神様の子供がニートー帝国を作って、フーツー王国はその派生した分家…だから元を辿れば、とある女神様がご先祖様だよ」

「……」


 突っ込み所は多々ありますが…ニートー帝国って凄い歴史があるんですね。千年以上繁栄している理由が解った気がする……


「……教会で奉られている女神像の女神様ですか?」

「違うよ。別の女神様」


 訳ワカメ。教会の女神様は…創造主アラステア様…私の名前の由来だけれど…


「お名前は…」

「それは言っちゃ駄目なの。アラステアちゃんに迷惑掛けたく無いからね」

「……」


 整理しよう。

 フーツー王国…私のご先祖様は、とある女神様。

 教会の女神様はアラステア様。

 私はとある女神様の力を使える様になる…と。

 そしてリアちゃんは両方の女神様と友達……

 で、良いです?正解?そうですか…


 リアちゃんはニンマリ笑って湖に降り立った。水の上に立っているけど、止まっているから硬いのかな?



「今水割るから、収穫してね」

「え?割る?」


 リアちゃんが戸を開ける様に片手を動かすと、湖の水がパッカリ割れていく……私は湖の底に降り立って、辺りを見渡すと…なんか凄く強そうな魚が止まっている。お家くらい大きい。コンコンと叩くと鋼鉄の様な鱗…それに私より大きな牙…


「私は動けないから、それ倒して良いよ」

「あっ、はい。御言葉に甘えて…」


 とりあえず目を狙って剣で突いてみる。

 えいっ!――キンッ――やぁ!――キンッ――とぉ!――キンッ――

 …硬え。


 次は魔法で…魚の頭上に魔力を込めて…一気に放つ!


「――ソルレーザー!」


 キュィィイイ!――光の柱が魚に直撃。ジリジリと鱗を溶かしていく。

 …まだ掛かる…そろそろ鱗を抜けたかな。

 ……うわ…凄く美味しそうな匂い…

 お腹空いてきた。ちょっと調整して頭だけ狙おう。身は勿体無い。ほんとに美味しそうな匂い…リアちゃんもスンスン匂いを嗅いでいる。


 ……あっ、頭突き抜けた。やった。ズルしたけど勝った。

 魚をリアちゃんに収納してもらう。

 名前はSSランクのフルアーマーフィッシュらしい。味は絶品との事。


 少し歩くと、青くて渦巻き模様の丸い物体を発見。これが渦メロンかな。底に繋がっているから、ミスリルナイフで収穫。一つゲット!

 しかもまだまだ沢山渦メロンがある。根っこを引き抜かなければ全部採っても構わないそうなので、次々と収穫。

 小さな青い玉は渦ベリー。これも収穫していく。


 ……リアちゃんはその間、水を止める係。

 リアちゃんの額が少し汗ばんで、薄紅色の髪が額に貼り付いている…魔眼を使うのはやっぱり疲れるのか…ちょっとエロ…げふん、辛そうだから早く終わらせよう。



 ……沢山収穫出来た。百は採ったと思う。

 リアちゃんに抱えられ、湖を離れると、渦が動きだしてうねりを上げだした。

 リアちゃんと共に、ムルムーが正座で待っている中心へと戻る。


「アスきゅん、ありがとう。これで渦巻きパンケーキが出来るよ」

「楽しみにしていますね」

「もう出来たよ」


 はやっ…ムルムー、真っ先に手を出したね。…幸せそうな顔しやがって…今回はセリフあげないからな。


 私も渦巻きパンケーキをいただく事に。

 メロンの果肉は青かと思ったけど、オレンジ色。クリーム盛ってるなぁ…値段いくらです?うわ…銀貨五枚…デラックスパンケーキの五倍。まぁ…命懸けで珍しい食材だから安い方か。


 いただきます……うまぁ…渦メロン、爽やかなのに濃厚な味わい。それにくどくない。渦ベリーも程よい酸味がベストマッチ。

 あぁ…これは銀貨五枚出すわ…美味すぎる。

 こんなの食べたら…市場のフルーツが霞む…魔性のパンケーキだ…


「アスきゅん…ムルムーちゃん…美味しいね。銀貨五枚じゃ安いかも…」


 むーっと悩むリアちゃんも可愛い。


 考えていたリアちゃんが、あっ!と何かを思い出した様に私を見る。なんです?


「そういえばね。この山の頂上に、『天の王』が居るよ」

「っ!」


 心臓がドクンッ!と跳ね上がる。

『天の王』が居る…この目で見たい…


「アスきゅんは、最強種を倒したいんだよね?」

「はい…『天の王』、『冥の王』、『火の王』、『海の王』、『風の王』、『大地の王』のどれかに挑戦したいと思っています」

「『天の王』はやめておいた方が良いかな。理由は見たら解るんだけど…攻撃しなきゃ危険は無いから見に行く?」

「…是非」


 胸が高鳴る。


 夢にまで見た、最強種。



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