パンパンの店長さん。

 結局、ジードが人生相談に乗って欲しいと言うので、カウンター近くにある椅子に座って貰う。


「そ、そういえば…名前は、アスティなのか?」

「ええ。この名札を着けている時はレティです。普段はアスティですよ。あっ、学校ではアレスと名乗っています」


「解った…レティは、学校に行っているのか?」

「ええ、行っていますよ。おかしいですか?」

「いや…そんな事は無いけど…」


 微妙な表情しないでよ。

 私だって学校行くさ。行きたかったんだから。


 人生相談しに来たんじゃないの?


「けど?」

「……」

「何ですか?」

「…あ、いや。何でもないよ。学校は騎士学校?」

「いえ、西学校です」

「あっ、あの子と同じ…なるほど…」



 あの子?あぁフラムちゃんですか。

 何?狙ってるの?駄目だよ、フラムちゃんを取られたら私はボッチになっちゃう。

 その前に君は彼女が居るじゃないか。

 フラムちゃんは駄目。他の女子にしてくれ。


「……」

「なっ、なんだよ?」

「…人生相談に来たんじゃないんですか?」

「あぁ、うん。俺…帝都に留学しようかと思って」

「なんでまた。選抜に出たんで、王国の方が待遇良いですよ。帝都は激戦区ですし」


 帝都は騎士になりたい男子に溢れているからね。

 毎週開かれる騎士団見学会には、百人の定員が毎回キャンセル待ちだし。

 実績のある王国の方が早く近衛騎士になれるぞー。


「だからこそ、その激戦区で一番にならないと意味が無い」

「意味?あぁ、歳が近い第二、第三皇女さんは強くて賢い人が好みの様ですし…その方が良さそうですね。頑張って下さい」

「……」


 ……あれ?違った?何?言いたい事があるなら言ってよ。

 肝心な時に何も言わないよね。


 …誰か来ちゃったじゃん。あっ、クロムさん。


「レティちゃんお疲れ様ー。あれ?お邪魔だったかな?」

「クロムさん、お疲れ様です。邪魔じゃないですよー、何言っているんですか。…魔法士団のお手伝いは落ち着きましたか?」


「ぜーんぜん。ごめんね、留守番みたいな事させちゃって」

「良いんですよ。これぐらいしか出来ませんから」

「充分助かってるよ。ありがとう」


 クロムさんがやって来て、デスクに座って資料を読み始めた。

 お構いなくーと言われたけど、後でお構いしますよ。


 ジード君、どうしたんだい?クロムさんは職場の先輩だよ。

 お仕事は楽しいかって?そりゃ楽しいですよ。みんな優しいですから。


「…また、来るよ」

「ん?もう帰るんですか?」

「あぁ、仕事邪魔しちゃ悪いし…手紙、書いて良いか?」

「はい、良いですよ。では、またお待ちしていますね」


 笑顔でバイバイ。またねー。


 ……

 ……うん。

 ……多分私が王女だとバレてんな。

 ……まぁ、ジードが誰にも言わない事を祈るか。

 ……バレていないかもしれないけど。

 ……一応、貴重品は常に持つ様にしよう。


 いつでも逃げられる様に。


 …そりゃ、周囲にバレたら逃げますよ。嫌ですよ。演劇の格好のネタじゃないですか。

 死んだと思っていた王女が生きていて、再び始まるラブストーリーとか……まじ無理。


 バレて捕まったら…あの皇子と結婚まっしぐら待った無し垂れ流しで後宮に幽閉されて外の世界から隔絶された詰まらない人生が待っているし剣なんて持たせてもらえないのは当然で私の夢が閉ざされる。

 という…1ブレスで言いましたが、そんな感じの嫌な想像が駆け巡るんですよ。


 その前に、バラした奴は一生後悔させてやりますがね。



「アスティちゃん。あの男子って大会で闘った男子だよね?知り合いだったの?」

「はい。でも、私は知っていて、あっちは知らないって感じだと思いますよ」

「へぇー、初恋って奴?」

「あぁ、それは無いですね。彼が有名だっただけです。

 それよりも駄目ですよクロムさん。そういう事は聞かないものです」

「あぁ…ごめんね。つい」


 私の初恋は剣ですから。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ジード含め、フーツー王国チームはその日に帰ったみたい。

 手紙書くって言ってたけど、何を書くんだろうね。アスティとしての話題はあんまり無いよ。


 そうそう。手紙で思い出したけど、ムルムーに送った手紙はどうなったんだろう…やっぱり検査で弾かれたかな。

 王女の専属侍女だもんね。流石に無理か。


 …むしろ王女の名前で送る?

 隣国に行って送れば、ここに目が行かない。

 でも現実的じゃないか…


 ……ジードに送って貰えば良い?

 それこそ私王女だよーって言ってる様なものだし、迷惑掛かるな。保留保留。



 そんな事を『パンケーキのお店パンパン』でパンケーキを食べながら思っているんですよ。


 目の前には店長さん。

 今日も超可愛いですね。

 彼氏居るんですか?えっ、結婚していたんですね。ビックリです。

 旦那さんは、ここのオーナーさんですか。

 でもこうやって私がパンケーキを食べさせていて…大丈夫なんですか?ほら、旦那さんが居るのに……なんですって?もう一度言って下さい。


「アスきゅんって女の子でしょ?」


 …気付いていたのね店長さん。

 え?解析魔法が使えるんですか?その若さで高難易度の魔法って、かなり凄いですよ。天才ですね。


 それなら解るか…仕事上がりは化粧してるし…

 じゃあ今度女の子で来店しますね。


 ここの制服着て欲しいんですか?


 ぜ、是非ともお願いします!


 今からでも良いですよ!




 ……という事で、『パンケーキのお店パンパン』の制服を着てみました。

 ピンクのフリフリメイド服。カチューシャが猫耳……でもよく銀色なんてありましたね。制服もピッタリだし…私用に作っていた?あ、はい。


「アスにゃん…可愛い…」


 ありがとうございます。

 店長さんと場所が逆になりましたね。

 店長さんがカウンターに座って、私が制服を着て前に立つ。


 ……食べさせるのは変わらないんですね。美味しいですか?嬉しそうに食べる店長さんマジで可愛いですね。


 他の店員さんも可愛いって褒めてくれた。

 …ここで働きはしませんよ。私は意外と多忙なんですよ。



「ねぇアスにゃん」

「はい、なんでしょう」

「ここの店員の子達ってどう見える?」

「どう…みんな輝いていますよね。外見もそうですけど、中身というか…一生懸命だし。笑顔も絶やさないから凄いって思います」


 ここの店員さんは、12歳くらいから20歳くらいまでの女の子で、結構な人数。

 みんな一生懸命だし、生き生きしている。


「そう。なら良かった」

「店長さんも可愛いし素敵ですよ」

「ふふっ、ありがと」


 可愛いなぁ。何歳なんだろ?

 ここの店員さんはみんな親が居なくて、孤児院出身。

 店長さんが、夢を持っている子をここで働かせて、夢を追う手伝いをしているという…聞いた時は感動しました。


 その内、経営は頑張る子に引き継いで、店長さんはまた別の場所で子供の夢を追う手伝いをするらしいです。店長さん、道楽だからって給料は貰っていないそうです。何者なんですかね?


 でもこれはチャンスです。


「あの、私…お友達が欲しくて…」

「もちろん、良いわよ」

「あっ、ありがとうございます!」

「よろしくね。アスにゃん」


 よろしくお願いします。

 …あれ?…あの、店員さん紹介して下さい。

 いや、あの、なんていう悲しそうな顔をするんですか?


 あっ、はい。これで店長さんとお友達ですね!

 …店員さんは……いえ、なんでもないです。


 まぁ、うん。これで店長さんとお友達になれました。


「そういえば、店長さんのお名前聞いても良いですか?」

「好きに呼んで良いわよ」


 いや、名前。教えてよ。


「じゃあ……リアさん」

「…ちゃんが良い」

「リアちゃん」


 謎な人だなぁ……旦那さんが居たら名前聞き出そう。


「アスにゃん」

「はい、なんでしょう」

「その地味眼鏡って不完全だから、この眼鏡使って」


 お友達になったからお節介すると言って、何処からか取り出した眼鏡。

 受け取ってしまったけど…

 見た目はそんなに変わらない。


「これは、地味眼鏡?」

「使い方は、紙に書いてあるから。

 ちゃんと隠蔽しないといけないよ。アスにゃんって…王女様みたいだから…ね」



 見透かされる様な紫色の瞳を向け、にんまりと笑うリアちゃん。

 本当に、何歳なんだと思う若々しさ。


 …あの、その笑顔は少し怖いです。

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