火炎の熊。
フェルドフレイムベアー。
Sランク。
火炎を操る巨大な熊。
性格は獰猛、残忍。
獲物を焼いて食べる。
言うまでも無く、強い。
唸り声を上げ、私を見下ろす瞳は、怒りに燃える様に赤い。
口からボタボタとよだれが垂れ、嗤う様に牙を剥き出しにしている。
私が何をしたよ。
縄張りじゃ無いでしょうに。
まぁ…気圧される訳にはいきません。
「クマさん、勝負しましょう」
クマの注意すべきは火炎、巨体、力、素早さ、野生の本能。
……全部だね。
今の距離感…中距離は不利だ。
クマが攻めやすい。
クマの側面を回り込む様に駆ける。
二つの赤い双眼は私を放さない。
脚を沈み込ませた瞬間には、
ドンッ!__
私の直ぐ横を削っていた。
…危ねぇ
伸びた前足…体勢が悪いけど竜剣を走らせる。
毛皮が少し硬いが斬り裂けた。
クマが痛みを感じて少し反応。
伸びたままの前足で凪ぎ払い。
後ろに躱した私の目の前を鋭い爪が通る。
「…ふぅ、血が出ない所を見ると…長期戦は不利か…ライトソード」
ブォン__竜剣が光り輝く。
いつでも躱せる様に低姿勢で足元へ。
クマの後足が下がる…マズイ!
ドンッ!__ボディプレス。
なんとか躱して寝そべった状態の脇腹を狙う。
「無元流・十六連斬!」
ザザザザザン!__
一秒に十六連斬り。
速くて攻撃力の高い技。
クマは痛がり四肢に力を入れて飛び上がった。
…高い。後退しなきゃ。
空中で体勢を整え、岩山を背に着地。
後足で立ち上がり、少し仰け反った。
__来る!
ゴオォォ!__
口から火炎の弾を吹き出した。
大きさは私ぐらい…次々と吐き出されても、躱すのは問題無い…
けど…
ボォォオオ!__
周りが燃えている。
森だったら死んでいたかな。
草の少ない場所で良かったけど…
「困った…熱い」
燃えてはいないけど…髪の毛ってヒールで治るのかな?女子に優しく無いクマさんだ。
光の魔力を全身にいき渡らせる。
身体が光るから、あまりやりたくは無い技だけど、魔法防御力は上がる。
特に服は重点的に。
服が燃えると裸なんで…恥ずかしいさ。
恥ずかしいさというより、裸を見られたらお嫁に行けなくなりますよ。
実際、本当に行けなくなります。修道院にぶっこまれます。絶対嫌です…パンパンのパンケーキが一生食べられなくなります。
と…そんな事を考えている間でも、火炎弾が飛んでくる訳で…
『…バースト』
ボオォォン!__
火炎弾が爆発…アホか!
爆風で簡単に吹き飛びましたよ。
クマさん喋れるんですね…Sランクだからあり得るか。
吹き飛ばされて転がる。
後が岩山じゃなくて良かった。
「__痛っ、ヒール」
火傷と裂傷。回復はするけど、直撃したら一撃死もある。
とりあえず今は距離を取れた事に感謝しよう。
どう攻める…
素早いからソルレーザーも当たるかどうか…
いや、頼っちゃ駄目だ。
「攻めて攻めて攻めまくる…」
私の強みは、小さな身体に一本の刃。
距離を詰める。
火炎弾が来ても走りながら避ければ良い。
一気に撃てないなら、躱せる。
熱い火炎が私の横を通り過ぎる。
『…バースト』
一気に加速。
ボオォォン!__
爆風を背に脚を動かす。
身体が浮いたら駄目だ。
クマの直ぐ近くに到達。
前足の攻撃を躱す…後足が…
__ボディプレス!待っていたよ!
そのまま走り抜け、勢い良く岩山を駆け上がる。
両足で飛び上がり、
起き上がろうとするクマの首目掛けて…
「無元流・首狩り!」
首を頂戴しよう!
ザシュッ!__
竜剣が首の半分まで到達。
『__グアァァァ!』
硬い…
うおっ!クマが暴れ出した。
弾き飛ばされ、地面に着地。
首を抑え、暴れまくるクマ。
次第に、炎が周りに吹き荒れる。
「うわー…」
クマが火炎に包まれた。
火ダルマになって暴れている。
首を痛がっているだけで、自滅している様子は無い。
もしかして、火炎の熊ってこういう事?
『…グブゥァ…グガァ…』
首を抑え、火炎を纏うクマ。
私を睨む真っ赤な瞳は、怒りを超えて憎悪になっている。
「私も…負けませんよ」
竜剣はクマの首に刺さったまま。
収納からミスリルソードを取り出して、ライトソードを使う。
しかし困った。
どうやって闘おう。
頭は燃えていない。
首から下が燃えている。
狙うは頭だけれど…届きません。
クマの轟く咆哮。
狙うはもちろん私。
前足を振り上げ、叩き潰そうと振り下ろす。
高熱の攻撃。
伸びきった前足に攻撃…
「__っぬふぉ!あついっ!」
手が焼ける。
_っやば!前足の凪ぎ払い!
バキッ!__
肩が外れた_いや折れたなこりゃ。
回転しながら吹き飛ばされる。
一瞬空が見えた。
日が暮れる前に倒さないと…
「ぐぅ…ハイ…ヒール」
私の紙装甲は何とかならないですかねぇ……
攻撃が当たると骨が折れる。
か弱い乙女というヤツですか。
クマが四足歩行で駆けてくる。
頭が下がっているから攻撃を合わせたいけど…
速い…両前足で連続攻撃。
ダンッダンッ!と地響きが鳴り響く。
熱い熱い熱い!くそぉ!水属性は使えないんだよ!
『姫さまぁ…それがウォーターボールですかぁ? ……オシッコですね!』
こんな時に出て来んなよムルムー!
悪かったなぁ!小便でぇ!
「くそぉぉ!__ソルレーザー!」
バシュン!__
制御が甘い。
細い光の柱がクマに当たるけど、上から下に押されるだけ。
少しだけ怯んだ。
何とか後退。
火傷をハイヒールで回復していく。
「はぁ…はぁ…相性が悪いなぁ……細いソルレーザーなら、溜めが要らない?」
試してみよう…焼きアスティにはなりたくない。
またクマが四足歩行で駆けて来た。
通過点目掛けて。
「__ソルレーザー」
バシュン!_
『__グアッ』
前につんのめり、バランスを崩した。
チャンス…全身のバネを使って飛び上がり、
「無元流・首狩り!」
刺さった竜剣の反対側から首を狙う。
ザンッ!__
『__グブゥァァ…』
骨まで到達。
熱いのは我慢。
肩を蹴って竜剣の元へ。
竜剣を握り…あっ、熱く無い。
脳天目掛けて、
「無元流・天誅殺!」
ザンッ!__
天誅殺…全身の力を使い、脳天から斬り裂く一撃死の技。
流石に大きいと一撃死は難しいけれど、渾身の力を込めて殺す事は本気で闘った証かな。
「……ありがとうございました」
炎が消えていく。
とりあえず、火傷を治そう。
「ハイヒール…魔力はそんなに使っていないから、ギガンテスの時よりは上手く闘えたかな」
回復したけど、靴が焼けて裸足だなぁ…
収納にあったっけ? ……教室で履いているサンダルを発見。
仕方ない、裸足よりは良いか。
服はまぁ、着替えた方が良いかな…いや、マントを羽織れば良いや。
このクマどうしようかな。とりあえず魔石を取り出す。
赤色の綺麗な魔石…魔力を通してみる。
………壁を越えたなぁ。Sランクだと越えやすいのかな?
……お?
「…ファイヤーボール」
ボンッ。
拳大の火の玉が出てきた……やった…ろうそくの火から、火の玉に成長した!
もうショボいなんて言わせない!
ありがとうクマさん!
……素材は勿体無いなぁ…かと言って誰かが居る訳でも無いし…まぁ肉は要らないか。
毛皮は良い値段な筈!
……
……
………毛皮だけで収納パンパンだなぁ。後は手で持っていくか。
あっ、目玉と牙は売れそう。
一応爪も…重いな…
余った毛皮で素材を包んで、背中に括り付ける。
多少フラフラするけど、何とかなるか。
魔力はあるから、魔物は細いソルレーザーで充分だし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんとかラジャーナに到着。
もう夕方だ…帰らないと…
「あれ? アスティ君? 珍しいね、素材を背負っているなんて」
「はい、持てる分だけ持って来まして…欲張り過ぎました」
「頑張り過ぎだよ。無理しないでね。素材は何の魔物なんだい?」
「フェルドフレイムベアーです」
「……なんて?」
「フェルドフレイムベアーです」
あっ、ちょっと…衛兵さん走って何処行くのさ。
……何?ぞろぞろと皆来たけど…
「場所は何処だい?残して来た素材も回収に行くから!」
「いや、もう大地に還っていると思いますよ?」
「それでも!俺たちには行く義務がある!」
仕事熱心ですね…地図に印を付けたら、皆走って行ってしまった。
詰所に行こう。
もう話が回っているみたいで、スムーズに換金してくれた。
流石ラジャーナの衛兵さん。仕事が早いね。
「じゃあ、また来ますね」
「またね!アスティちゃん!」
「おい、ちゃんじゃねえぞ」
「すみません!」
…今の人怒られてたけど、何かしたのかな?
さっ、帰ろう。
あっ、帰り道に靴を買わなきゃ。
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