やっぱり、魔物と闘う方が楽だ。

 トイレ問題。それは私にとって大事な問題。

 家や特事班の詰所なら、問題無く使える。


 だが学校は別だ。私は今、男の格好をしているから。男子トイレに入らないと問題になる。それは嫌…入るくらいなら学校辞める。


 こういう時はロバートさんを恨んでしまう。何故男で登録したと。



 そんな事を考えている内に、トイレに到着。

 ここは前から下調べしていたトイレ。人気の講義がある教室から離れ、かつ誰も来なさそうな場所。

 そうです。私はこの学校、全てのトイレ情報を暗記している。


 私は、この誰も来なさそうなトイレを『聖域』と名付けた。因みに聖域は三ヶ所ある。


 だが油断は禁物。周りに人が居ない事を確認し、髪を下ろして眼鏡を取る。

 これで難関は突破した。


 いざ参る!


 ……


 ……


 ……



 はい、ありがとうございました。無事終わりました。


 ちゃんと着替えましたよ。白いワンピースのアスティちゃんです。

 着たまま収納という秘技を使っているから着替えは早い。とても早い。上着とズボンを着たまま収納したら、ワンピースを上に出してストン。

 …引っ掛かりが無いからストンという訳じゃありません。早く着られるストンです。



 聖域の加護を受けたご機嫌な私は、フンフン言いながら学校を出る。

 出る時にみんな見てきたけど、見慣れない人が居ると思ったかな?しばらくすればみんな慣れるはず。


 後は帰るだけ。前方にフラムちゃんらしき人の頭が見えるけど、友達の壁があるから声掛けにくいなぁ…

 一緒に帰りたかったけど、明日会えるから良いか。


 …あっ、振り向いた。


 …ダッシュでこっちに来た。フラムちゃん、走るフォームが少しキモいよ。


「あ、アスティちゃん!なんで!?」


「んー…ちょっとね」


 色々な人が見ているので、トイレに行きたかったからなんて言えない。なんかフラムちゃんの友達も来た…



「フラム…この子は?」

「友達の…えっと…」「アスティです!どうも!」


 伸ばした右手をおでこに、何処かの国の敬礼ポーズ。あっ、アスティと答えてしもた。気付いて無い?まぁアスティって名前多いからな…私の影響で…


「うわ…お姫様みたい…」「自信無くすレベルね…」「綺麗…」


 フラムちゃん、どうしてどや顔してるの?


「じゃあ私、アスティちゃんと帰るから!みんなじゃあねー!」


 手を繋いで早歩きのフラムちゃんに引かれて付いていく。友達はポカーンとしているみたいだけど。



「アスティちゃん。変身解いちゃって、どうしたの?」


「いやぁ…(トイレ)行きたくて」


「あぁ…そっかぁ…そうだよね。じゃあ…これから帰りは一緒に帰ろう?」


「良いの?友達沢山居るのに…」


「良いの。アスティちゃんと居たいから…」


 可愛いのうフラムちゃん。帰りは一緒なら、寂しく無いや。嬉しいな。友達は薄い付き合いばかりだから良いとの事。本当に良いの?



「そういえば、男の子と一緒に居たけど友達出来たの?」


「魔物学が一緒だったから案内して貰ったんだ。友達にはなれなかったよ」


 友達になるには、友達になって下さい!って言わなきゃいけないからね。男の子には難易度高いね。フラムちゃんの時に、友達なって下さいパワーを使い果たしたからしばらく出来ないかも…


「そうなんだ。アスティちゃんは私がずっと友達で居るから、無理して作らなくて良いんだよ」


「…ありがとう。フラムちゃん大好き」


「_はぎゅごぉあ!」


 どうしたフラムちゃん。胸を抑えてキモい声出てたけど…もう一回言ってって?周りに人が居るんですよ…恥ずかしいから嫌です。



「あっ、お泊まりするなら、フラムちゃんの家族に挨拶した方が良いかな?」


「あ、挨拶?良いよ良いよ挨拶しなくて大丈夫。お花屋さんの女の子の部屋に泊まるって言ったら即オッケーだったから!

 それに、どうせ私が働いたら見に来るし…」


 じゃあ見に来た時に挨拶しよう。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 フラムちゃんは午後から剣術道場に通うので、お店の前でお別れ。教えられるくらいになれば、無元流を教えたいんだけど…やるには色々覚悟が要るからなぁ…


 店長に学校の事を報告。その後…午後から暇な私は、着替えて辺境の街ラジャーナに来ていた。



 多分私の生活サイクルは…

 無、火、水の日は特事官かラジャーナ。

 風、土の日は、午前は学校、午後はラジャーナ。

 闇の日はお花屋さん。

 光の日は休日…多分ラジャーナ。…ラジャーナ好きだな私…


 そんな感じのサイクルになりそう。

 魔物を倒すのは、強くなる近道だから。


 対人戦は勉強になるけど、気を使わなきゃいけないから苦手。


 世界で一番強くなりたいと思っている私としては、人と戦っても最強にはなれない事は解っている。


 人の中に最強は居ない。それは物語の中だけの存在。

 世界で一番強い存在は、勿論魔物。


「最強の魔物…闘ってみたいなぁ…」


 私はまだ弱い。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 いつもの通り南門へ。


「あっ、アスティ君!待ってたよ!」


「あっどうも衛兵さん」


 あれ?地味眼鏡してるんですけど…なんで解るの?

 …まぁ良いか。


「素材は換金したんだけど、受け取りはどうする?」


「あの私、騎士団の特事官にスカウトされたので、詰所で受け取ります」


「おー!そうなんだ!流石だね!」


 衛兵さんはみんな良い人なので、良くしてくれる。近くの詰所で身分証を提示して、素材の代金を受け取った…おー、すげー。


 帰りに魔石を換金しに来ると告げて、南門から外に出る。


 夕方には帰りたいから、街道を逸れて駆け足でいつもの岩場を目指す。多分ギガンテスは出ないから大丈夫。多分。


 しばらく駆け足で進んでいると、オーガの集団を発見。


「やっぱり、魔物と闘う方が楽だなぁ」


 この時、私は笑っていたと思う。


 本で読んだ戦闘狂って奴かな。

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