転移ゲート。
「アスティちゃん。帝都の身分証ってあるの?」
「あ、無いです。あった方が良いですか?」
「あった方が良いわよ。公共施設が利用出来るし、一番は身分証のランクが三級以上なら簡単に転移ゲートが使える事ね。
三級になる様に上位の労働証明書、書いてあげる」
「あ、ありがとうございます!」
転移ゲート。主に帝国の領地内に転移出来る施設。古代文明の施設を再利用しているので貴重な魔導具。帝国が大きく発展したのはこの転移ゲートの影響がある。
フーツー王国にもあるが、特権階級専用で平民は使えない。
役所に行き手続き。店長が労働証明書を書いてくれたので、お店の住所で住民登録。順調だけど待ち時間が長い。
帝都で住民登録している人だけでも10万人は超えると聞いたけど、人の入れ替わりが激しい街だからその何倍も人がいる。
勿論役所で手続きをする人も多い。書類が足りなくて無駄足になる人や、駄目元で手続きに来る人も多い。
手続きが終わった頃にはもう昼過ぎ。待ち時間は本を読んでいたので、退屈は無かったけどドッと疲れた。
そして、なんとか身分証を手に入れた。帝都民になれた瞬間でもある。
名前はアスティ。12歳。花屋の住所が書いてあって不正防止に魔力を登録してある。三級の青いカード型の身分証。
二級は赤いカード型。一級は銀色のカード型。特級は黒色らしい。
これがあれば図書館などの公共施設に行けるし、転移ゲートが使える。帝都の出入りも楽。
一応冒険者ギルドとかの登録は10歳からなので、身分証があれば楽に出来るけど登録するのは少し怖い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早速、転移ゲートを使ってみよう。
転移ゲートの施設は中央区の東西南北に一ヶ所ずつ。貴族、皇族騎士団などの役人用の転移ゲートが中央に存在。
各ゲートに行けるのは勿論、ゲートがある他の街や辺境に行ける。
のんびり歩いて東側の転移ゲートに到着。
大きな建物。転移の行き先毎に番号で分かれているので、看板を見て確認。
1、北ゲート
2、南ゲート
3、西ゲート
4、商業都市ライネ
5、工業都市アイク
6、水の都アクアシティ
7、観光地ラトネイアの滝
8、ダンジョン中継都市フィッシュボーン
9、ビーネイ山の要塞
10、辺境の街ラジャーナ
他のゲートによって微妙に違うらしいけど、一般市民は1~7を主に利用。
8は色々なダンジョンへの転移ゲートがある街。
9は今建設中の要塞。
10は爺やに連行された思い出のある辺境ラジャーナ…魔物が多くいる地帯。今日はここで魔法を試そう…というかここにしか来た事が無いから、他の場所に行くのが怖いだけ。
10番の場所へ行き、身分証を提示。
「はい、街の外は危険だから出ないようにね」
「はい。大丈夫です」
転移ゲートは魔方陣が刻まれた門。それをくぐる。
ブンッ。少しの浮遊感と共に目の前の景色が変わった。辺境の街ラジャーナと書かれた看板がある大きな部屋。
「ようこそ、ラジャーナへ。帝都に帰る際は帝都行きのゲートを通って下さい」
「はい」
ゲート施設を出ると、石造りの家が目立つ街並みが出迎えた。照り付ける太陽が眩しい。
大きな隔壁が街の周囲を囲い、北と南に門が見える。
道往く人は武装している人が目立つ。
強い魔物の素材は高値で売れる。一攫千金を狙った自分の腕に自信がある者が数多く見えた。
ここには来た事があるので、散策する気は無い。そのまま南の門へ歩き、門に到着。
「ん?坊主、街から出るのか?」
「はい、ムールラビィを捕まえに」
「なら良いが、余り街から離れるなよ」
ムールラビィは子供が街から出る常套句と爺やが教えてくれた。
簡単に外に出れた。良かった。
* * * * *
歩いて行くアスティを見送った門番二人。
後ろ姿を眺めていた。
「なぁ、あの坊主…外に通して大丈夫だったのか?多分あれ嘘だぞ」
「まぁ良いんじゃねえか?世の中は広い…可愛い女の子がデスグランドオーガを倒す世の中だぜ?あの坊主も似た雰囲気だったし」
「あー…あれな。凄いよなー…Aランクの魔物だろ?最初聞いた時は信じられなかったよ」
「あぁ、しかも凄く可愛い。あの照れた顔に悩殺された男は数知れず…あの子…レスティちゃんのファンかなり多いんだ。俺もその1人」
「へぇー、じゃあ居たら教えてな」
* * * * *
ラジャーナの外に出た。整地した街道が南に伸びて、遠くに馬車が見える。
街道から外れてのんびり歩く。近くの森から男達が出てくるのが見えた。数人で大柄な魔物を抱えている。オークかな?
「確か、この奥に行けばオーガが居たっけ…」
ちらほら見えた男達はもう居ない。
しばらく歩く。すると、遠くに大きな人影が見えた。
「…居た。オーガだ」
体長三メートルを超える巨体。
浅黒い皮膚に脂肪は見えず、せり上がる筋肉が逞しい。
ざんばらな髪を揺らし、宛もなく歩く姿に哀愁が漂うが、新人冒険者が1人で出会ったらまず助からないと言われる鬼族。
「よーし、腕ならしだ」
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