お友達が出来ました。

 早朝、お店の裏にある庭で、毎日の日課をこなす。


「ふっ!はっ!」


 店長から受け取ったセイバートゥースドラゴンの剣、竜剣を振るう。少し大きいけど、重くは無い。凄い素材…馴れたら強い武器になる。


「無元流・静界」


 剣を納め、空気に溶け込む様に自然体になる。心を鎮め、自分の領域を形成する。

 無元流・静界は半径30メートルに存在する動の把握。集中すれば、小鳥の飛び立つ前の筋肉の動きまで把握出来る。


 無元流は爺やだけが使っていた流派。ある短剣流派の開祖が、格好付ける為に剣用に作った流派らしい。なんだそれと思うけど、格好良いのは否定しない。


 騎士が使う様な守る剣術じゃない。攻撃型の滅殺剣。殺しの為に使う剣だけど、私はこの無元流が好き。なんたって強いから。


「店長、おはようございます」

「あらん、気付かれちゃったわね」



 背後に動を感じ振り返ると、デカデカとビクトリーと書かれたオレンジのタンクトップを着た店長。タンクトップ好きだな…


「どう?使いやすい?」

「はい、軽くて丈夫。最高ですね」

「ふふふっ、良かったわ。ところで、アスティちゃんってセドリック・ノーザイエの弟子?」

「…ん?違いますよ?」


 誰?セドリック・ノーザイエ?爺やの名前はディアスだから違う。本名ディアボロス・アタラクシア…王族よりも格好良い名前…

 ノーザイエって人も無元流なのかな?


「んー勘違いだったかしら?そのピリピリとした空気が似てたんだけどねぇ…流派?帝国流剣術よ?」


 全然違った。多分その人が、静界と似た技を使っていたんだろう。帝国流剣術は帝国で主流な攻守のバランスが取れた剣技。

 フーツー王国でも人気の流派だったっけ。


「セドリック・ノーザイエって誰なんです?」

「アスティちゃん…セドリック・ノーザイエっていうのは、剣を志すなら必ず名前を聞く存在。

 帝国流剣術の最高位、剣聖よ」

「へぇー」


 剣聖、強そうな人だ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 今日は休日。キャスケット帽に髪を入れて、少しお洒落な上着とズボンを着て外に出る。見た目は綺麗な少年スタイル。


「んー…良い天気」


 お店から少し歩くと、お城へ続く大通りに出る。大きな道路、パレードの時は人に埋め尽くされるらしいけど。


 大通りに面している所は色々な店がある。宿屋、パンケーキ屋、武器防具屋、雑貨屋、パンケーキ屋、屋台、魔導具屋、服屋、パンケーキ屋などがよく目に入る。

 全部回るだけで何日も掛かりそうなくらい。今まで本でしか知らなかった物があったりして、見るだけでも楽しい。


 大通りの近くなら路地裏にもお店が多い。お城に近くなるにつれて高級なお店があるけど、そっちには行かない。理由は値段が高いから…


「可愛い服無いかなぁ…」


 服屋さんに入って辺りを見渡したけど女の子ばかり。私の見た目が少年だから場違い感が凄い…


「ねぇあの人、凄いカッコいいんだけど」

「うわっほんとだ。彼女にプレゼントかな、羨ましい…キャッこっちみたよ!」


 女の子同士で買い物かぁ…羨ましいな。友達ってどんな感じなんだろう。

 今まで貴族とか家の繋がりでの知り合いみたいな感じで、なんか違うって思ってたし…友達を作れる立場じゃ無かった。

 あっ、ちょっと見過ぎたかな。


 友達ってどうやったら出来るのだろう。関わりがある人なんて、上司の店長、お客さん、何かくれる男の子、邪魔をしに来る男の子くらい。


「…これ下さい」

「はい、銅貨5枚ね。彼女にプレゼント?」

「いえ、自分…あっ妹にプレゼントなんですよっ、はははっ」


「ねぇ聞いた?彼女じゃないって」

「うん…聞いたけど、話し掛ける勇気は無いかも」

「私も…直視出来ないわ」


 自分で着るなんて言ったら、少年の姿でこの店に来るの恥ずかしくなる。とっさに妹と言ってしまったけど、まぁいいか。本当に妹は居るし。


 丁度良さそうな、幅広な縁が垂れたソフトな印象の白いガルボハットと、肩先から袖にかけてゆったりと広がったフレアスリーブの白いワンピースを購入して店を出る。


 丁度良くなかったら自分で直せるし、一応何でも出来る様に教育はされているから、その点では教育してくれた人に感謝かな。



 次はどこに行こうかと考えていたら…軟派野郎バランを発見。


 いつも昼過ぎにやってくる軽い奴。三人の女の子と歩いているけど、あれがハーレムという奴か…1人だけ感じが違う子が居るけど、あの子もバランが好きなのかな?



「ねぇバラン。お姫様のお芝居が今度やるのよ。一緒に行きましょ?」

「えっ、私と一緒に行ってよー」

「お芝居かぁ…良いね。一緒に行ってあげるよー」


「何が行ってあげるよーだ。上から目線で調子こくなよクソバラン」


 確かにクソバランだ。最後に喋った子と仲良くなれそう…あっ目が合った。

 けど直ぐに逸らされたから私には興味無さそうだなぁ。


 機会があれば話し掛けてみたい。


 次は魔法書店に行こう。



「いらっしゃい」

「こんにちは」


 帝都で一番大きな魔法書店。良い本から悪い本まで幅広く取り揃えている。

 魔法毎に本になっていて、習得したい魔法があれば魔力を通しながら何度も読んで実践して習得するのが一般的。

 後は魔法使いに弟子入りしたり、特殊な魔導具を使うとか魔法の習得方法は様々。


 魔法には習得難易度があって下級、中級、上級、王級、帝級、超級という難易度があって、適性が無くても下級までなら習練次第で誰でも出来る。


(光属性はっと…あるけど難易度がなぁ)


 光属性の魔法は少なく、中級は1つしか無い。昨日頑張って修得した回復魔法のヒール。

 他に自分で作ればあるんだろうけど…他の属性に比べて難易度が高めなせいで上級魔法を使える人は極僅か。

 光の王級魔法になると国に1人居れば良いくらい難易度が高い。


 上級魔法の本をパラパラと開いてみる。本に魔力を通さない限りは魔法のイメージが入って来ないから見ても怒られない。

 犯罪防止に魔力を通したら警報が鳴るので、お金を払わず魔力を通すと捕まる。


 ブヒィーブヒィー!

「ちょっと事務所まで来て貰いましょうか」

「俺は何もしていないぞ!」

「怪しい人はしっかり確認してますからねぇ」


 あんな風に。


 魔力を通すと相性がバッチリ良かったら直ぐに魔法を覚えれるからやりたくなるよね。でも犯罪はよくない。



(なんで警報音がブヒィーなの…あれ?この光魔法、王級魔法なのに金貨1枚で売られてる…なんでだろ?)


 普通王級魔法は白金貨で売られているものだ。だけどこれは…何か注意書きが…成る程。魔力を通しにくい魔法書か。


 お供え物の金貨を使えば買えるけど、どうしよっかな。内容は光を収束させて放つソルレーザーっていう攻撃魔法…へぇーこんなのあるんだ。著者は、タクミっていう人か…知らない。


 有名な魔法使いの魔法書は高いから手が出ないけど、無名の魔法使いなのも安い理由かな?



「これ下さい」

「はい、王級で失敗魔法書だから習得出来なくても責任取れないからね」

「大丈夫です」


 買ってしまった。思い切り魔法を通せば大丈夫だと思うし、私は魔力が多いからなんとかなるでしょ。多分。

 魔法書店から出たら昼過ぎ。お腹が空いてきたので屋台でご飯を買って、部屋に帰ってから食べる事に。




 適当にご飯を買って帰り道を歩いていると、路地裏の方から何やら言い争う声が聞こえた。


「どいてよ!」

「良いじゃねぇか。直ぐそこに俺の家があるからちょっと寄っていくだけだぞ?」

「何がちょっとよ!絶対嘘でしょ!」


 路地裏の奥に進む。あれ?近いと思ったら遠いな。

 着いたけど…行き止まりで女の子が私より年上の男の人に絡まれている。


 よく見るとバランと歩いていた少し口の悪い女の子だった。おい、バラン何処行った?


「離してよ!誰かぁ!」

「はははっ、この時間は人が少ないから叫んでも無駄だぞぉ」


 助けた方が良いよね。知り合いじゃないよね?ちょっと怖いけど…頑張れ私!


「ちょっと待てーい!」

「…んあ?なんだ?ガキか、あっちいけ。取り込み中だ」

「行かない!その子を離しなさい!」


「俺らは付き合ってんだよ。なぁ?」

「そんな訳ないじゃない!助けて下さい!」

「ちっ、黙れよ!」

 パンッ!_

「きゃっ!」


 こいつ…殴りおった!許さない。


「女の敵!」

 男に向かって駆ける。掴みかかって来たが上手く躱し鼻っぱしらを殴る。

 ガスッ!_

「ぐぁ!こいつ…」


 女の子を離した。けど、長剣を抜いて目が据わっている。


 …人に刃物を向けられる事は訓練ではあった。

 でもこれは…訓練じゃない。殺意がある。


「ぶっ殺す」


 人にこんな怒りを向けられるのは初めてだから、鼓動が早くなる。知らない人と闘うなんて緊張する…


 爺やが言っていた。


『ヨホホホ!己の刃を出したならば』


「命のやり取り…手を抜くな」


 収納の腕輪から店長から譲り受けた竜剣、セイバートゥースドラゴンの剣を取り出した。


 男が長剣を振りかぶり、私に向かって振り下ろす。


「見える」

 爺やの剣閃に遠く及ばない。安心した。この程度なら余裕。


「無元流・閃弾き」

 スパッ!_

 男の長剣が真っ二つに斬れた…斬れた!?


 無元流・閃弾きはその名前の通り、剣閃を弾く。昔はパリイっていう名前だったけど、閃弾きに変わったらしい…パリイの方が言いやすいけど…


「あれ?…」

「なっ…俺の…剣が…」

「凄い…」


 剣を弾こうと思ったら斬れちゃった…まぁいいか。男の喉に剣先を向ける。剣先が触れただけでも喉が切れるから気を付けないと。

それよりも…なんでこんなに呆気ない?たまたまかな?



「ねぇ、その子に謝って」

「くっ…」

「早く!」

「わっ!分かった分かった!悪かった!許してくれ!」


 コクンと女の子が頷いて、男が逃げ出す。衛兵に突き出したかったけど、私には男を押さえ付ける力は無かったから、どちらにせよ逃げられていたと思う。


 なんかちょっと怖かった…一息付きたいけど、女の子を放っておけない。直ぐに立ち上がって女の子の元へ。


「ねぇ君!大丈夫だった?」

「は、はい」

「殴られた所が痣になってるじゃない…痛かったよね…ヒール」

「いや、大丈夫ですから」

「駄目、じっとしてて」

「…あの、私フラムです。お名前は…」

「…アスティ」


 ヒール…淡い光を放つ回復魔法をフラムちゃんにかける。中級の魔法で打撲程度なら直ぐ治る。

 少し経ったら痣は消えて、元の可愛い顔に戻った。良かった…


「これでよしっと。どうして1人だったの?フラムちゃん、バランと居たでしょ?」

「へっ?いやっ、友達に付いて行ったらバランが居ただけで…詰まらなくなって1人で帰ったらあの男に絡まれて…アスティさんはバランと知り合いなんですか?」


「知り合いじゃないよ。最近仕事の邪魔してくるから覚えてただけ」


 本当に邪魔なんだ。忙しい時に話し掛けられるとア“ー!ってなる。もう話しかけないで欲しい。


「えっ、お仕事何してるんですか!」

「ん?お花屋さん」

「お花屋さん?東区の?お花屋さんのアスティ…えっ?あの子は女の子だし」


 そういえば紛らわしいよね。この格好。キャスケット帽を取ってフラムちゃんを見ると目をまん丸にしたこちらを見ていた。


「私、女の子だよ」

「えっ…えーー!」


 そんなに驚かなくても…そんなに男に見えるかな?


「さようなら、私の初恋…」

「えー…」


 初めての友達を泣かせてしまった…





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 泣きながら笑い、虚空を見詰めていたフラムちゃんが復活した。


「…はっ!あの!ありがとうございました!」

「良いの良いの。あっ、お願いがあるんだけどさ…」


「な、なに?お金はあまり持って無いよ?」

「違うよ。私、帝都に来たばかりで…あの…」


 さっき飛び出した時より緊張してる…お友達になってなんて、初めて言うからすごく恥ずかしい。


「…その…お友達に…なって欲しいなって…」


 目も合わせられないし、自分の顔が赤くなるのが解る程熱い。

 みんな…こんなにも難易度が高い申し出をしているのか…友達が沢山居る人って凄いな…


「うぉっふ…可愛い…喜んで。むしろ私の方からお願いしたいくらい!可愛いくて強いなんて勇者ミズキ様みたい!アスティちゃん!」


「…へへっ、嬉しいな。よろしくね、フラムちゃん」


 チロルちゃんには友達の申し出をしていないから、フラムちゃんが初めての友達だ。

 赤い髪のポニーテールがフリフリ揺れる可愛い子。

 フラムちゃんは勇者ミズキって人に憧れているらしい。強い女性には私も憧れる。是非とも話を聞きたいけど、ここに居たらまた変なヤツが来そうだから移動。


 帽子を被ってから、二人で大通りに出る。フラムちゃんに勿体無いって言われたけど、もし私を知っている人が居たら困るどころの騒ぎじゃない。


「アスティちゃん、なんで男の子の格好するの?」


「んー…お店の店長が女の子が1人だと危ないから、普段はこの格好にしなさいって。フラムちゃんも危なかったから男の子の格好する?」

「私は大丈夫、って説得力無いかー。考えとくよ…男の子の格好でもアスティちゃんで良いのかな?」


 アスティでも問題は無いけど…帝都でも男でアスティは居るのかな?


「んー…アスティで良いと思う…ちゃんじゃなくて君の方かな?」

「アスティ君…アスティ君…アスティ君…」


 にやけるフラムちゃん可愛い。赤い髪に丸みのある目の可愛いタイプの顔。周りの人もチラチラ見ている。フラムちゃん可愛いもんね。



「ねぇアスティ君、手繋いで良い?」

「うん、良いよ」


「…ふふっ、これはこれで良いかも…あっ、剣ダコ」


 確かにこれはこれで良いかも…フラムちゃん可愛いからお尻くらい触らせてくれないかな?いや、駄目か…

 フラムちゃんが私の手をまじまじと見詰める。剣ダコだらけなんて、女の子の手じゃ無いよね。

 ジードはおかしくなんてないって言ってくれたなぁ…


「毎日素振りはしてるんだ。女の子らしくない手だよね」


「私も剣術を習ってるから剣ダコあるよ。ほら」


 フラムちゃんも手を見せてくれた。剣ダコが一杯、お揃いだ。

 …嬉しい…私とおんなじ…

 お花屋さんの近くの道場で習ってるらしい…近い、けどバランも習っているらしい。



「でも、なんで小指と薬指ばっかり剣ダコがあるの?アスティ君の流派って何?」


「無元流だけど、知ってる?」

「んー?知らないなぁ」


 そうだよなぁ…やっぱり、爺やだけが使っていたからマイナー流派か。でも爺やって謎多き人だった。ただの執事じゃないと思うんだけど…

 普通は手の平全体に剣ダコが出来るらしい。よく解らないけど、それってガッチリ剣を握ってるって事だよね?疲れそう。

 道場に誘われたけど、遠慮しておいた。だってバランが居るし、手が疲れそうだし、バランが居るし。

 軽くご飯を食べながら雑談する…あーこれだよこれ!女の子同士のお出掛けは!私の見た目は男の子だけど!



「ねぇ、アスティ君って良い所の子?」

「良い所?」

「なんか食べ方に気品があるから、商会の子とか?」


 王女とは言えない。言った所で信じて貰えないけど、可能性は潰したいかな。


「う、うん。そうだよ。実は今、家出中なんだ」

「え?家出?反抗するタイプには見えないけど、人は見かけに寄らないんだね」


「うん…よく言われる」


 フラムちゃんは毒舌かと思ったけど、素直で良い子。ただバランが嫌いなだけらしい。気が合うなぁ。


 もう夕方までお話した。フラムちゃんは花屋の近くに住んでいるらしいから、また遊ぶ約束をしてバイバイした。

 フラムちゃん、よく笑うから可愛いな。私はちゃんと笑えているのかな?



「店長さんただいま」

「あらん。アスティちゃんおかえりなさい!」


 部屋に戻り、光の玉を出して形を変える。今日はお花の形。


 早速今日買った魔法書に魔力を通す。本全体を包み込む様にして魔力を流していく。魔力をずっと流しているけど中々流しきれない。


「……」


 どれくらい流せば良いのか解らないくらいずっと流しているけど。


「……」


 終わらない。一時間くらい流している気がする…


「……」


 魔力が尽きない私もどうかと思うけど、王級の魔法書はこんなに魔力を食うんだと感心した。


「…ん?来た!」


 しばらくして魔法書が光を放つ。キラキラと輝き、私の中に魔法のイメージが流れて来た。


「ふむふむ…成る程…ってあれ?覚えちゃった?」


 どうやら魔法の相性が良かったらしい。もう今すぐにでもソルレーザーを使用出来る感覚。

 それに、魔法は1つじゃなかった。



「何?ソルレーザーと、ライトソード、キュア、ハイヒール、エリアヒール…嘘…」


 上級魔法が付いてきた。なんてこった!お買い得!


「んー?まだ魔力通せる?」


 この本おかしい。まだ魔力を通せる。

 まるで次の段階を踏む様に。

 少し怖くなったので、また今度にしようと本を仕舞った。


「明日、試し撃ち…してみよっかな」


 新しい魔法…ワクワクする。

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