店長は自由です。憧れですね。

 いきり立ってみたけど…まずは、どうしよう。働く所…12歳の少年、いや少女が働く所なんてあるのかな。


 帝都なんて来るの初めてだから、地理なんて解らない。でも王都と区の分け方は一緒って聞いた。

 中央区は高級住宅や貴族の別邸、騎士団本部の奥に皇城だからあまり近付かない様にしよう。


 商業区は東区だから、そこに行けば仕事がありそう。

 商店街を通ってみる。八百屋さんや雑貨屋さんを眺めながら歩き、花屋さんを通り過ぎる。


「ん?」従業員募集の貼り紙。お花屋さんかぁ…


「すみませーん」

「はぁい、いらっしゃいませぇ」


 ……一瞬意識が飛んだ。危なかった。


「あらぁん、どうしたのかしら?」

「あの、従業員の貼り紙を見て…」


 ニコニコしながら出てきたスキンヘッドのムキムキな男性。デカデカとゴーマイウェイと書かれたピンクのタンクトップに、紫のレギンス…バッチリ化粧をしてかなり衝撃的なコーデ。


「ふーん。あら、可愛い女の子じゃない。ちょっと中に入って」


 女の子って解るんだ。なんか嬉しい。


 ……


「12歳で、働くのは初めて、見た限りお花の知識もあるから、良いわよ。アスティちゃん採用」

「本当ですか!ありがとうございます!」


「若いのに私を怖がらないなんて珍しいわね」

「怖いだなんて思いませんよ。自由な生き方をしているから憧れます!」

「ふふっ、ありがと」


 直ぐに採用されて良かった。しかも二階の一部屋を使って良いって!幸先の良いスタートです。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 次の日から働かせてもらい、なんとか仕事を覚えて、一週間経ったら店番を任せて貰える様になった。

 覚えが良いって褒められるのは新鮮で嬉しい。


「いらっしゃいませー」

「あ、あの…この花下さい」

「はい、銅貨一枚になります。ありがとうございました!」



 店長は優しい人でした。


「あらぁーん!アスティちゃん!あなたのお蔭で売上が右肩上がりよぉー!ゴンちゃん嬉しいわぁー!」


「はははっ、嬉しいですね」


 店長のゴンザレスさんは、男しか愛せない人らしい。

 でも店長は少しボサボサの切り口だった髪を整えてくれたし、可愛い髪型にもしてくれる。ムルムーにも引けを取らない女子っぷりは凄い。


「皆アスティちゃんとお話したいみたいねぇー!嫉妬しちゃうわぁー!」


「はい、だと嬉しいですねー」


 売上が上がったのは、店長がエネルギッシュなせいで、お客さんが引いていたのだと私は思う。


 お花屋さんで働く時は可愛い制服なので、女の子を楽しめるから嬉しい。

 帝都は危ないから、普段は男の子の格好。この店に居る時だけ女の子の格好をする事に決めた。


「いらっしゃいませー」

「あの!アスティさん!これ!」

「ん?ありがとうございます?あっ、ちょっと!」


 男の子が来店してきたが、紙袋を渡して来て帰ってしまった。店長はモテモテねぇーと言っているが、名前も知らない人に何かをもらうのは正直困る。

 紙袋を開けると可愛いブローチ…嬉しいんだけど、正直困るものだ。王女時代は贈り物の山を侍女達が整理してくれたなぁ…大変だったろうなぁ…


「店長さん。フーツー王国にお手紙を書きたいんですけど、どこに出せば届きますか?」


「配達屋さんに頼むのが一般的ねぇ。アスティちゃんはフーツー王国出身だったわねぇ。両親にかしら?」


「いえ、両親には届きませんので姉の様に思っている人が居るんですよ。その人に届けば良いんですが…」


 店長は聞いちゃいけない事だったわねぇと言うけど、本当に両親には届かない。だって王様ですから。

 でも王城まで届くのかな?物は試し。仕事が終わり、東門の近くにある配達屋さんへ行き手紙を頼んだ。


 内容は、名前をアスティにしてムルムーに宛てた日常会話を書く。王女と書いて送っても、いたずらだと思われて検査官に弾かれるから。

 アレスティアの略称はティアなので多分大丈夫かな?ムルムーなら解ってくれる筈だ。


 泊まっている部屋の椅子に座り、うーんと伸びをしてからお茶を飲み、ボーッとするのが日課になりつつある。

 お花屋さんの2階に泊まっているので、出勤は楽だしお花の良い匂いで目覚めると気持ちが良い。


 前と比べても遜色無いくらい良い生活です。


 だけど、最近悩みがある。


「魔法の適性が少し解ったのは良いんだけど…属性とタイプがなぁ…」


 火や水などの属性は、大半の人は1種類の適性を持っている。2種類の適性は数千人に1人のダブルと言われ、3種類は数万人に1人のトリプル、4種類が数十万人に1人のフォース、それ以上はマルチと言われる…物語の主人公にありがちな選ばれし物的な奴だけど…


「まだ、全部開花してない…ダブル以上なのは解るんだけど…なんだかなぁ」


 現在開花している属性は光。ライトの魔法を多様しているお蔭かな?指に花のトゲが刺さった時に、白く光って回復したから確かだと思う。

 恐らく私の傷が治ったのはこの力だと思っているけど、もしかしたら違うかも知れない。


 もう1つは、死にかけた時に見た予知の様な力。正直、何の属性か解らないけど。


「…自分の身は自分で守らないとなぁ、爺やは居ないし」


 適性が解ればそれに集中すればいいから上達は早い筈。


 まずは光属性の修行を始めよう。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ふよふよと光の玉が浮いている。


 眩しい。夜なのに。


 夕方から光属性の練習をしている。だけど…何かおかしい。


 光の玉を浮かせて維持…なんだけど…


 今、光の玉が30個目…これはおかしい。普通は1つ浮かせて10分経ったら初心者ならバテる。


 ふよふよと浮く光の玉が部屋中を漂っている…なんで?なんで魔力が切れない。考えても思い当たる節が無い。


 私はそんなに魔力が多い方じゃなかった。魔力が増える条件は基礎修練、特殊な水晶の魔力を取り込む、後は人によって様々って言うけど…


 変わった事と言えば死にかけた事。それ以外に無いか…光の玉はまだ出せる。もう寝るだけだから全部出してみようか。


 ポンポンと光の玉を出していく。


 50個目…まだ魔力がある。なんだろう…使えば使うほど上達する感覚。


 結局、使い切らない内に寝てしまった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 魔法の修行をした翌朝。



「おはようございます…」


「あらアスティちゃん眠そうね。夜更かしはお肌の敵よぉ!」


「はい…気を付けます」


「あっ、そうだ。これを腕に嵌めなさい」


 店長が渡してきた花を編んだ腕輪。ピンクと白の花が組み合わされて可愛い。

 なんでも私が嵌めている物を収納する腕輪は、高価に見えるから花の腕輪で隠してしまいなさいとの事。


 店長優しい。


 早速花の腕輪をして、ピンクのフリフリした制服を着て店頭に立つ。少し眠いけど、姫時代はよくあの手の恋愛本を読むのに夜更かしをしていたのでこれくらいは余裕。

 因みに制服は何種類もあって、その日の気分で変えれる。勿論店長の自作…


「いらっしゃいませー」


「おはようアスティちゃん。今日も可愛いわね」


「ありがとうございます。おばさまも大人の魅力があって素敵ですよ」


 近所の噂好きおばちゃん。といっても細身で赤が似合う格好良いおばちゃんで、赤い花をよく買っていく。


「そうそう。フーツー王国のお姫様が魔族に殺されたらしいのよ。アスティちゃん知ってる?」


「魔族に?初耳ですね」


「その場に居た帝国のリーセント皇子が狙われたんだけど、お姫様が命を懸けて皇子の身代わりになったらしいわ。

 きっとお姫様はリーセント皇子を愛していたのよ」


 それは無い。絶対に。まぁ命を懸けて助けたのは間違いじゃないけど…刺されると解っているのに、見殺しに出来なかっただけだから。


 魔族と言われた黒い騎士は逃げ出したらしい。なんであのタイミングだったのかが解らないけど、いきなり命を狙うなんて迷惑な話だ。

 でもそのお蔭でここに居るんだから、感謝?


「それでね。今度その話がお芝居になるのよ!観に行かなきゃ!」


「…へ?お芝居?」


 ふざけんな。話の流れからして、お芝居にしたらあの皇子と相思相愛みたいに思われるじゃねえか!無理無理無理。

 どうせなら兄上と皇子のラブロマンスなお芝居にしてくれ。


 帝都に劇場が2つあり、どちらも皇子と王女の愛の物語を公演するらしい。絶対行かない。


「来月公演だからね!アスティちゃんも男の子と観に行きなさいよ!」


「はぁ…まぁ…機会があれば…」


 おばちゃんは声がデカイので、周囲に話の内容が聞こえる。そのせいで近くに居た男の子達がそわそわしていたが、お客さんじゃないのなら関係無いのでお花の手入れをする。


「いらっしゃいませー」


「……この花をくれ」


「はい。銅貨二枚です…いつもありがとうございます」


「…ああ」


 最近よく来る帽子を深く被った人。いつも違う花を買うので変わった人だなぁと思う。


 そして昼過ぎには面倒な人が来る。



「アスティ!デートしてくれ!」


「嫌です。あなたはこの前可愛い女の子とイチャイチャしながらこのお店の前を通ったのを見ています。という訳で軽い男は嫌いです」


 名前はバラン。同じくらいの歳の男の子。顔は整っているが、いかんせん軟派な男は信用出来ない。どうせ他の子にも同じ事言ってる。


「俺が絶対幸せにするから!」


「世の中に絶対はありません。その歳で幸せにするという自信は何処から来るんですか?とりあえず私に関わらないで下さい。お引き取りを」


「あらぁーん!バランちゃん!ゴンちゃんに会いに来たのねぇ!」


「ひぃ!」


 店長が出てきてバランは逃げ出した。本当に、バランは嫌い。絶対幸せにする?無理無理。


「すみません店長…ありがとうございます」


「良いのよん。お互い様だし…外に出る時は気を付けるのよ?」


「はい。剣術は習っていましたし、魔法も少し使えますので逃げる事なら出来ると思います」


 そうは言っても店長は心配そうにしている。そうだっ!と手を打って店の2階にある物置部屋をごそごそして何かを持ってきた。


 店の営業が終わり、店長がニコニコ手渡して来た細長い物。



「ん?なんですかこれ?」


「ゴンちゃんは昔冒険者をしていてねぇ。その時に手に入れた剣で要らないのがあったからあげるわぁ」


 店長に無理矢理押し付けられた鞘に納まった細剣。抜いてみると材質が…


「この剣…材質は魔物の歯ですか?」


「よく解ったわねぇ。セイバートゥースドラゴンの牙で出来ているの。要らないからあげる」


「ドラ…そんな高価な物受け取れません!」



 ドラゴンの牙なんて売ったら光金貨が何枚になるか。

 お金は10枚ずつで価値が上がり、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、光金貨、黒金貨の順に高くなる。

 フーツー王都民の平均年収が白金貨4枚と考えるとその高さが解ると思う。


 お返しにお供え物の緑色の宝石をあげた。要らないと言われたが私も引き下がれない。無理矢理宝石を渡してこれでおあいこ。



「頑固ねぇ。でもありがとう。凄く綺麗…」


「店長に似合うと思いまして。こちらこそありがとうございます」


「でもこれ…その剣より高価よ…もしかして…(両親の)遺品かしら?」


「ええ、まぁ(私の)遺品ですね。出来るだけこれに頼らず生きたいと思っているので、私には不要なんですよ。なので貰って下さい」


 遺品に関しては少し勘違いしているけど、深く聞いて来ないのは助かる。女の経験というものかな?


 でも、その内…店長には伝えたいな…私の正体…


「アスティちゃん、良い女になるわよ」


「店長には敵いませんよ」



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