帝都に到着しました。

いつまでそうしていただろう。突き上げた拳をおろし、少し寒い夜空を眺める。

 真上に一番輝く星、太極星。その下には青く光る星、蒼麗星が好きでよく眺めていた。低い位置から見上げる星もまた綺麗だな。


 一人…か。一人で王都を歩くなんて初めて。


 夜の王都をペタペタ歩いているけど、極端に人の姿が少ない。

 お城から眺める城下町は、もっと賑わっていた筈なのに。

 いつもより静かな王都を進み、宿屋を発見したので入ってみた。


「すみません。泊めて貰えませんか?お金はあるので」


「…銀貨一枚。払えるかい?」


 棺に入っていた金貨を見せるとお釣と鍵を渡された。上の階に部屋があるというのでペタペタ上がろうとしたら「待ちな」止められる。

 ビクッとしてしまう。王女かい?なんて言われるんじゃないかって不安になる。


「靴はどうしたんだい?」

「無くしました」


「…これを履きな。娘のお古だけど、無いよりは良いだろう?」


「…あ、ありがとうございます」


 小石を踏むと足が痛かったので、優しいおばさんに救われた。お金はいらないという。普通の国だが、人は優しかった。


 優しさに触れ、こみ上げる物がある。ちゃんとした笑顔をムルムー以外に向けるのは初めてだったけど、おばさんは笑ってくれた。


 服とか欲しいな…今更だけど、このお金とか使って良いのかな?私へのお供え物だから良いかな?


 明日は買い物をして、帝国行きの馬車に乗ろう。帝都に行けば色々な事が出来ると聞いたし、王都に居るとその内騒ぎになりそうだから。


 お城とは違うベッド。侍女も居ない部屋。少し寂しい…これが本に書いてあった家出というものなのだろうか。


 ベッドに横たわり、ボーッとしていたらいつの間にか眠っていた。何か、夢を見たような気がするけど…覚えていない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌朝、おばさんにお礼を言い宿屋を出る。こんな時間に外出している高揚感があったけれど、やるべき事をしなければ。


 王都の何処に何があるのは解る。一応王女だったから地図くらいは頭に入れてる。

 東門の近くに商店街がある筈だ。


 少し硬い皮の靴をトコトコ鳴らしながら歩いて、商店街に到着。朝早くにやっている雑貨店を発見し、入ってみた。


「いらっしゃい」

「おはようございます。服を買いに来ました」

「右手の奥にあるよ」

「ありがとうございます」


 お店の奥。服は売っていたけど…サイズが合うのは男物が大半。仕方無く複数の男物の上着とズボン、帽子や生活雑貨を買った。


「あの、着替えたいんですけど」

「…後ろのスペースで着替えな」

「ありがとうございます」


 早速購入した物を身に付ける。黒いキャスケットの帽子に緑のセーターに茶色いズボン…まじダサい。仕方ない、か。とりあえず銀色の髪は背中まで伸びているから切りたい。

 買ったナイフでこそこそと、髪を肩までバッサリ切ってみた。


 切った髪は収納して、キャスケット帽の中に、肩までの長さになった髪を入れたら完全に男の子…に見えるかな?追加でリュックを買ったら旅人に見えなくもないと思う。


「まいど」


 雑貨店から出て東門へ向かう。帝都行きの長距離馬車を発見して乗り込んだ。料金は前払いで二週間の間、食事付き。順調な旅路に私は心を踊らせた。



 私が王都を出発した後、王都は騒ぎになっていたらしいです。


 大聖堂からアレスティア王女の遺体が消えていたと…まぁ、でしょうね。


 棺には宝石等もあったので、誰かがお供え物と一緒に遺体を持ち出したという事件に発展し、大捜索が開始されました。


 本当は、息を吹き返した私が王都を出発しただけなのですが…はい、お騒がせしてすみません。


 帝国の第二皇子が他の誰かと結婚すれば、実は生きてましたとか言えそうだけど…うーん…また考えよう。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 王都から出発して一日が経った。


「ねぇねぇ、あなたは帝都に何をしに行くの?」

「何をって、とりあえず働くかなぁー」

「私は帝都の学校に行くの!良いでしょ!」

「学校か…良かったね」


 母親と共に同じ馬車に乗るチロルちゃん。同じくらいの歳で、赤茶けた髪の可愛らしい子。私を男の子と思っているので、距離感はあるけど話し相手が居るのは嬉しい。


「アスティ君は学校行かないの?」

「行かないよ」


 行かないんじゃなくて、行けないんだけどね。

 今はアスティと名乗っている。王都では、アレスティア王女の影響で男でも女でもアスティって名前はあるから。

 チロルちゃんは王都に住んでいるけど、帝都の学校に留学する。土魔法の勉強を専門にしたいかららしい。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都から出発して一週間。私は、チロルちゃんに女の子だと言うタイミングを逃していた。


「へぇー!すごーい!アスティ君頭良いんだね!」

「まぁ、勉強したからね」

「勿体無いよー!学校行きなよー!」

「学校は行かないかな」


 勉強していたので、聞いてみるとクラスを決める編入試験があるらしい。簡単な問題だったので、話し相手になってくれたお礼に、勉強を教えてみた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 10日目。



 ピィーーー!


 御者台から笛の音。何かが起きた。


「魔物だー!」

「魔物!?」


 魔物が出た。一応馬車の護衛をする冒険者という職業の人は居るので、討伐してくれるだろうと幌馬車の隙間から覗く。


「グルルル!」「ガァ!」「ハッハッ!」


 狼型の魔物、ハンターウルフが六体。既に囲まれていた。


 護衛の冒険者は二人。もう見るからに劣勢。

 馬車には私を含めて10名。老夫婦や子供など、戦える様な人は居ない。

 なら、加勢しなきゃ。でも持っている武器はナイフ…なんとかなるかな?


「アスティ君?」

「ちょっと、加勢してくる」

「危ないよ!ケガしちゃうよ!」

「大丈夫、守るから」

「あっ、あ、うん…」


 幌馬車から出て、後ろにある出入口の前に立つ。

 状況を確認。ハンターウルフ一体が倒れ、冒険者の一人は裂傷。御者と冒険者が残り五体を牽制しているが、その内馬が食べられてしまう。


「くそっ、馬が怖がって走らねえ!」

「どうする!このままじゃ馬がやられる!」


「加勢します、ライト」


 カッ_

「キャン!」

 光を飛ばしてハンターウルフを牽制。

 怯んだ隙に冒険者の元へ。


「おお!助かる!って坊主か、無理するなよ!」

「ええ、大丈夫です。ライト」


 カッ_

「グル!」

 近くで唸っているハンターウルフに光を当て距離を詰める。


「無元流・脈流」_スパッ_

「ギァ!」

 ハンターウルフの首を斬り付け後退。


 無元流・脈流…太い血管を狙い縦に斬り付け出血多量を狙う、回復が効きにくいエグい技。

 ハンターウルフがフラフラとして、倒れる。


「やるなぁ坊主!よし倒れた!あと四体!スラッシュ!」


 ザシュッ!_

「グァァ!」冒険者の大剣がハンターウルフを両断。


「ライト」

 私が残り三体のハンターウルフに光を当てる。ライトの光が嫌なのか、光から逃げるが狙いを定めているので逃げられず直撃。


「キャウン!」

 不利と悟ったのか、ハンターウルフ達は逃げ出していった。


「…ふぅ、なんとかなりましたね」

「助かったぜ!坊主!」


 バンバンと背中を叩かれる…痛いからやめて欲しい。ケガをした冒険者、御者からも感謝され、幌馬車に戻る。

 ハンターウルフは敗けを認めたらもう襲って来ないらしく、もう安心とのこと。


「アスティ君!すごーい!魔物倒した!」

「まぁ、初めてじゃないから」


 そう、魔物と闘うのは初めてじゃない。爺やの厳しい訓練で、大分鍛えられた。

 本当に、厳しかった…だけど今では本当に感謝している。


『ヨホホホ!姫、次はアレですぞ!』

 辺境の街ラジャーナに連行した12歳の女の子に、デスグランドオーガを倒させた爺や…アレは、まじ怖かった…

『ヨホホホ!』あの時の事は恨んではいない。

『ヨホホホホホホ!』本当に…恨んではいない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都から出発して二週間。無事、私は帝都に到着した。


「アスティ君、あの、その、私…西区のニートー魔法学校に通う予定だから…落ち着いたら来てね。お礼したいし…ま、また…ね」

「うん。編入試験、上手くいくと良いね」

「うん!頑張るね!」


 母親と共に、チロルちゃんは西区にある学校へ向かっていった。

 落ち着いたら、遊びに行くのも良いかな…結局女の子だって言えなかったけど…



「よし!新しい生活だ!」


 新しい生活が、始まる。

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