気持ち良い…

 オーガ…討伐ランクC。体長三メートルを超える人型の巨体。浅黒い皮膚、筋肉モリモリ。殴られたら骨が折れるどころじゃない。


 討伐ランクは魔物の強さの基準。

 あくまでも基準だからランクから外れる魔物もいるけど…

 一番低いゴブリンのFから始まり、E、D、C、B、A、Sと高くなり、その上はSS、SSS。

 更に災害級、超越級などランクで計れない魔物も居る。



 周りに他のオーガは居ない。ならば正面から真っ向勝負。


 周りに警戒しながらオーガに近付く。


「グル?」

 私の足音に気付いたオーガがこちらを向いた。


 ざんばらな髪から覗く真っ黒い眼差し。獲物を見付けたと喜び顔が醜く歪む。口から覗く牙に噛まれたら、骨ごと噛み砕かれそう。


「オーガさん。勝負しましょう」


 剣を抜き、自然体な状態でオーガに対する。言葉なんて通じないけど、一応礼儀かな。


 私の身長の倍以上。見上げる高さ。


「ガァ!」

 オーガが手を広げ、私を掴もうと手を伸ばしてくる。これに掴まれたら骨が折れる。


 これの対処は簡単。


 スパッ_


 なぞる様に剣を走らせ、広がった指を落とす。

「グァ!グァ!」

 苦痛に歪む顔。これで掴む事は出来ない。


 指の無い手をおさえて痛がっている隙に。


「隙あり…無元流・輪斬」


 スパッスパッスパッ_


 オーガの腕を輪切りにしていく。

 …セイバートゥースドラゴンの剣の斬れ味が凄い。骨まで簡単に斬れる…


 無元流・輪斬…わぎりという名前の通り、等間隔に輪切にしていく技。輪切りにすればする程、上級の回復でも完治が難しくなる。


 次々と短くなっていくオーガの腕。苦痛と恐怖が入り交じり、戦意が喪失していくのが解る。


 オーガの両腕が無くなり、逃げ出そうとしている。


「先ずは、ライトソード」

 ブンッ!_


 剣に魔力を込め、光属性を付与。

 竜剣が光輝き、少し剣が伸びた…これ、まじ格好良い…


 オーガが背中を向けた。勿論逃がすという選択肢は無い。


「これで終わり、ありがとうございました」


 飛び上がり、頭から縦に剣を振り下ろす。


 抵抗無く、簡単に両断した。


「…」


 ズルリと二つに分かれたオーガに近付き、魔石を取り出す。魔石は心臓の中にある魔力が内包された石。


 この魔石、魔力を身体に取り込む事で強さを得られる。

 不思議と自分で倒した魔物じゃないと魔力を取り込めない。

 といっても人それぞれ器が違うから、取り込める総魔力量は違うけど…


 一定量魔力を取り込むと、自分の中の壁を超える感覚がある。爺やはこれをレベルが上がると言っていたけど、基準が曖昧で研究中らしい。



「ん?前よりも吸収率が違うな…なんで?」


 以前倒したオーガの魔石よりも、魔力を多く取り込めた。多分、蘇って身体が少し変わったのかもしれない。

 それについて、今は深く考えるのはよそう…


 魔石を抜いた魔物は、しばらくして地面に溶ける。

 どうしてかは解らないけど、放置して良いから楽。


 まだ時間はある。


 次の相手を探すべく、また少し奥に行ってみる事に。




 歩いて直ぐの所に岩場を発見。

 巨石が積み重なり、何か居そうだと期待しながら岩影から向こう側を覗いた。


(あれは、ギガース種?)


 岩場で座り、何か食べている巨人が見えた。


 ギガース種…Bランク。鬼族の中でも大柄で、10メートルを超えるタイプがギガース種に分類される。

 基本的に頭は悪く、単純な事しか出来ない。動きは鈍重だけど力が強い。

 大きなオーガという感じかな?


 ギガースは座ったまま動かない。私にも気付いていないので、覚えたての攻撃魔法を試してみる。


 こそこそと移動。岩場を登り、見晴らしの良い所に立つ。


 腕を上げ、人差し指をギガースの上に向ける。


 魔力を練りながら、太陽の光が集まるイメージ。光のエネルギーを凝縮させていく。


 イメージは固まった。撃つ準備は完了。


 魔力を解放しながら、人差し指を振り下ろし。


「ソルレーザー」

 気の抜けた掛け声で一気に撃つ。


 キイィィィン!_


 甲高い音と共に、10メートルを超えるギガースを軽く包む光の柱が発生した。


「ギャアァァァァァァァ!」

「…」


 空中から地面に向かって落ちる光のエネルギー。光に焼かれるギガースの断末魔。あまりの威力にドン引きする私。


 …眩しい。いや、そうじゃなくて、これが王級の魔法?すげぇ…


 10秒程経って光が晴れた。


 ギガースの姿は無い。煙と、溶けた岩が残っているだけ。岩から降りて、ギガースが居た場所まで行ってみる。


 何も残っていない…あっ、魔石が落ちてる…魔石は壊れないのかな?


 魔石を拾い、少し呆然と眺める。

 昔倒した時は、中々攻撃が入らなくて苦労したのに、王級の魔法一撃で消し去ってしまった。

 なんて楽な…いやいや違う。強い魔法だけど、使い方を間違えたら大惨事だ…強すぎる…


「力に呑まれない様にしないと…でも、一歩強くなった」


 剣術は同じ世代の中では強い方だと思うけど、まだ大人には勝てないと思う。

 強い魔法が使えるから私は強いなんて、思っちゃいけない。だから過信は駄目だ。



「でも今日だけは、羽目を外しちゃおうかな?」


 正直言うと、高揚している。ウキウキしている。ニヤニヤが止まらない。


 嬉しいんだ。

 だから…

 思い切り、ぶっ放したい!



 岩場の高いところに登る。辺りを見渡し、目に入った大きな岩に両手を向ける。


 魔力を練りながら光を集めるイメージを強くする。もっと太く。もっと大きな光の柱。


 もっともっと…


 ふと、何かが浮かんだ気がしたけど、今は魔法に集中。


「本気の!ソルレーザー!」


 思い切り、腕を振り下ろした。


 キイィィィン!_


 さっきよりも大きな光の柱があがる。

 視界が真っ白に染まる程の光エネルギー。

 肌にビリビリと伝わる熱。


「…気持ち良い」


 私はどんな顔をしていただろう…きっとだらしない笑顔を浮かべていたに違いない。


 光が晴れて、ドロドロに溶けた大きな岩だった物を確認。フンフンと頷きながら踵を返し、街へと歩きだす。



 ストレスが溜まったらまた来よう。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「なんだ、今の光は…魔法でこれだけの威力…王級…いやそれ以上か?あの少年、何者だ?」


 熔けた岩を見ていた人影に気付かずに、私はご機嫌に帝都へ帰る。

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