1‐3
「こんにちは。久ぶり。」
「平一か。1週間ぶりだね。」
私が入院していた病院の医者の息子だという同い年の男子。
「マリノにとって名前呼びが普通なの?」
「いいや。」
ここは地元の河川敷。やってくる鳩にパンをちぎってやるのをここ三日ぐらいやって春休みの暇をつぶしている。
「苗字忘れちゃっただけ。」
「そんなに記憶喪失が酷かった?」
「ううん。元からこうなんだって。私。母によると、いつもボケっとしてて生気そがれてるのろまさんだと。」
「のろまさんか。」
平一は何が愉快なのか私には分からないけど声を上げて笑った。こうして見ると確かに同い年に見える。
「記憶は戻ってるのはあるの?」
「全く。でも、元から覚えてるのもあるよ。読み書きとか、学校で習ったことととか、後、幼稚園のときに先生が話してくれた紙芝居。」
「紙芝居?」
私はコクッと頷いた。
「おかしいよね。あの紙芝居面白くなくてあのときのこと覚えてる以前に寝てたはずなのに内容覚えてるの。もっと言えば病院で寝込んでるとき夢で見たんだよね。」
「へー、不思議だね。どんな内容?」
「えっとねー。」
平一は話しながら片手を出してきたので一枚ある食パンを半分にしてポンッと乗せてあげた。
「すっごく変なお話だったよ。」
「変ってどんな?」
「話が途中で終わっちゃうの。王様が奥さんを失くした時に神様が言ったんだって...。」
平一に紙芝居の内容を話すと顎に手を当てて何やら考える素振りを見せた。
「えっと、どうしたの?」
「アルノーて、なんか訊いたことあるんだよね。」
「じゃ、同じ紙芝居でも読んだことあるんだろうね。変なお話だよ。本当に。あ、パンなくなっちゃった。」
手元のパンがなくなったのに気が付くとバタンッと横になった。それを見た平一は「服が汚れちゃうよ。」と私に起き上がるように促したが、私は
「別にいいよ。」
と言って聞かずにじっと空を眺めた。
「お母さんに怒られるだけだから。」
「それはだめってことだよ。」
そしてまた平一はまた声を上げて笑った。私はよく笑う人だなと思っていた。
「ねえ、マリノ。俺たち友達になろうよ。」
「あれ、もう友達だと思ってた。」
「それもそうだね。」
———・・・
「ただいま。」
「お帰り...て、ちょっともう。また服汚して。」
家に帰ったらいつも通り怒られた。
「ちょっと!まぁーちゃん!ペンダントまた盗んだでしょ!」
私の家には母親ともう一人、お姉ちゃんがいる。名前は
「ん?あ、本当だ。」
青い雫のペンダントが服の下にあるのが手で触ると気づいた。
「私のペンダント盗まないでっていつも言ってるでしょ!」
「そんなこと言われても...。この子私が好きなんだろうね。知らんけど...。」
「本当にマリノの言っていることよく分からないわ。それ返して!」
「だから知らないって...。」
このペンダントはいつも...というよりか病院で寝ていた時から首に掛かっていた。何度もお姉ちゃんに返しても自分のところへ戻ってくるので私でも怖い。不快だ。
「お姉ちゃんなんだから少しは妥協しなさい。」
兄弟あるある。上の子は下の子のために我慢しないと親に怒られる。こういうとき妹は楽だと思う。でも、このペンダントに関してはお姉ちゃんには悪いけど諦めてほしいと思う。私がお姉ちゃんに従ってもペンダントは言うこと聞かないので。物が言うこと聞かないて、どういう状況?
「お姉ちゃん、今回ばかりは許して?私はどうにもできない。」
「黙って返せばいいじゃん!もう知らない。フンッ」
お姉ちゃんは怒って階段を一段一段上るたびに音を立てて自室へ戻ってしまった。私は悟った。今回は仲直り難しいと。
「ママ、お腹すいた。」
突然の嵐が去り、私はお腹が鳴ったので突拍子もなく言った。
「マリノはなんでそんなにいつも通りなの?」
でも、母親は何故か驚くこともなくむしろ穏やかな表情をして頷いた。
「本当になんだろう。これは。」
私はお姉ちゃんにこのペンダント何処で買ったのか訊いたことがある。でも、お姉ちゃんには何故かはぐらかされてしまい聞き出すことができなかった。気味が悪くて仕方がない。
「まあ、いいや。寝よ。」
私は部屋の明かりを消してベッドに入って目を閉じた。ペンダントは机の上に無造作に置かれている。目を瞑ったとき、ふと頭によぎったのは平一だった。明日は川に行ったら平一に会えるかな...。暇な一日を過ごすのに、私にとって平一とのお喋りは丁度いい暇つぶしになっていたのだ。次はなんの話をしようかな。そんなことを考えていたらいつの間にかぐっすり眠っていた。
「なんで首にまたペンダントあるの?コワッ」
朝起きると首に掛かっているを手で確認する。これが毎日続いているともなるととても恐怖だ。お姉ちゃん、怒ってないで助けて怖い...。
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