第1章 昔話と記憶の消失

1‐1

 「リンダ。あなたはここで生かしておけません。私があなたの命を奪ってこの国を救います。」

「殺せるなら殺してみなさい。父も母もいない私達には、お姉さまが天涯孤独になるだけよ。私はお姉さまが憎たらしくて仕方がないわ。ここでお姉さまが死ねばお姉さまの苦しみが消えさり、私はこの世で好き勝手に生きていける。」

双子に生まれたリンダとマリアは今から500年前に激闘の末、二人は亡くなった。相打ちだった。リンダはマリアを憎み闇を抱え、マリアは殺し合いをしている最中にリンダへの憎しみが沸き、光が闇へ移り変わったそうだ。このようなことは未来永劫、二度と起こしてはならないとこの物語が書籍になり、100年程は長く語り継がれたそうだ。だがしかし、人間と言うものは寿命が短くてだな。それ以降はだんだんと薄れてゆき、500年後には忘れ去られたという。この間には何も起こらなかったのでいいが、もうそろそろこの双子の魂は甦るだろう。また同じことが起こるぞ。私が誰かって?お前らそんなことが知りたいのか。いいだろう。教えてやるさ。

「私は神。右前に座っているのは火の神、左前に座っているのは水の神。」

こいつらはいい仕事をするぞ。

「なあ、火の神と水の神よ。」

話しかけるとペコリと礼儀正しくお辞儀をした。なんて教養の行き届いた私の下部達だろう。すまんすまん、自慢話は置いとけってな?でも、これだけ言わせておくれ。


「これから喜劇が起こるぞ。それが、殺し合いなのかなんなのかはお楽しみだ。」


———・・・


 「昔昔あるところに…」

 昔昔、アルノーという惑星に水の国、マリン王国がありました。ある時、その国のお妃様は双子のプリンセスを産みました。姉をマリア、もう妹をリンダと名付け、二人は仲良く幸せに暮らしていたそうです。だがある日突然、お妃を失くした王様は神様にこう告げられるのです。

「子を直ちに一人にしなさい。さもなくは国を焼き払います。」

王様には二つの大事なものがありました。一つめは国の民、二つめは家族です。どちらも自分の命より大切なものです。王様にとってどちらも選べぬ難題で、最終的には双子の妹のリンダを農家の優しそうなおば様とおじ様に預け、国の危機は免れました。

「リンダー。リンダー。」

だけどそのことは、娘たちには知らされていないことでした。

「リンダー。お絵描きしましょう。どこにいったんだろう。」

マリン王国のマリン城はアルノーの中で一番大きく、6歳のマリアにはまだ足を運んだことのない部屋が沢山ありました。

「私にかくれんぼ仕掛けてるのかな?父上にはお家で遊んではいけないとおっしゃっていたというのに。まったく。しょうがないわね。」

マリアはいつもリンダの不真面目さに呆れつつも難しい要望でも受け入れて一緒に遊んであげるというとても優しいお姉さんでした。このときもいったことのない部屋にリンダが隠れていると思い疑いもしていません。

「今日もそのお遊びに付き合ってあげるわ。」

マリアはひとまずお絵描きセットを自室へ戻ってしまい、リンダ探しを開始しました。最初に来たのは調理室です。何故ならリンダはここへ来るとかくれんぼのことを忘れて調理長から直々に合法のつまみ食いをして楽しくおしゃべりしていることがしょっちゅうあるからです。リンダの人付き合いの良さは一つの特技でもあります。

「アマネさん。調理長のマハトはいらっしゃいますか?」

調理室の扉に入るとアマネという女性がいたので訊いてみました。でも、

「リンダプリンセスお嬢様をお探しですか?すみません。見ておりません。」

「そうですか。ならいいです。」

マリアは調理長のマハトがいるのかを聴いたというのにリンダはいないと先に言われてしまった。今までそんなことなかったというのに。マリアはこの時点で異変を感じ取りました。だがしかし、リンダがこの城から去ったなど一ミリたりとも予想していません。次に図書室へ向かいました。このお城の図書室は広いだけでなく庶民の使用も許可されていて今日も調べ物や勉強、本を読みに来た人が沢山集まっています。

「リンダ!」

バタンッと大きな音を出して扉を開けるとリンダの秘密基地という名の寝床があります。が、その存在は愚か。お気に入りで絶対に離さない毛布もなくなっていました。マリアの頭によぎったのはリンダの行へ不明だということでした。でもそんなはずはないと心を落ち着かせ、本格的にリンダを探し始めました。行ったことのない部屋を片っ端から扉を開けて開けて開けて...。マリアは冷静になろうと必死になりながらリンダを探しました。

「リンダ?」

リンダの黒い影だと思ったそれは...。

「きゃっ。」

塵となってサッと消えてしまった。その時に耳にリンダの声と思わしき音が聴こえてきた。それはいつもの明るい声ではなく、暗く憎しみを帯びた声であった。


『マリアお姉様は私を騙し、地獄へ送った。』


「どういうこと?」

それ以上は何も聞こえず、この後にお父様に真実...ではなく嘘を告げられた。

「お前の妹、リンダは魔物に食われ死んだ。」

と。この時、お父様は涙した。未来のマリアはその涙は嘘泣きなのだという誤解をしてしまったのは別のお話。

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