第3話 堕天使宣言しちゃった♡

ーー白玉が来てから6日後(入学式前日)

 

『YOU WIN!』

テレビから勝利を告げる電子音が響いた。

「VIPルームでも敵無しだな」

つまらない。俺は『スマッシュブルドーザーズ』略して『スマブル』をプレイしながら思うのだった。

絶大なるハンデを背負いながらもかれこれ10連勝していた。

 

絶大なるハンデとは……

『さっきから白玉がとにかく近い』のだ。

かわいい! 柔らかい! いい匂いがする!

俺の意識の大半はそんな感情に持っていかれて、画面を見る余裕なんて殆ど無い。


なんだそんなことか……と思うかもしれないから一応言っておくが……

1人掛けのソファに2人で座っているからね! 

中学生くらい(?)の育ち盛りの女の子の体がいろいろ当たってるんだよ!? 

そして極め付けは……銀髪だ。LEDの照明を反射して神々しく輝いている。俺の肩にかかりながら……


この状況は危険だ。

明日のニュースに俺が初登場してしまいそうである。

「なあ白玉、なんでそこに座るんだ?」

「な、なに? ダメなの?」

白玉は頬を赤らめて言った。暑いのなら無理してこんな狭い所に座らなくていいに…… 

さては新手の嫌がらせか?!

ならここは俺もちょっとだけ揶揄い返してやろう。

「もしかして俺に惚れた?」

白玉は頬を赤く染める。ヤバイ怒らせすぎたか。

「…………惚れ……てる……」

消え入りそうな声で白玉は何かを囁いた。

「え? なんて言ったんだ?」

ぷるぷると肩を震わせる白玉。そして、

「アホー! 死ねぇぇえ!!」

足をバタバタさせて怒鳴る白玉。

「ひっでえ! 『死ね』はないだろ!」

「うるさい!かなたなんか……もう……!」

「悪かったよ。そのソファそんなに気に入ったならやるよ」

俺は興奮状態の白玉をなだめるべくそう言って、クッションに座り直した。このソファ気に入ってたんだけどな……

「……そういうことじゃない!……けど、ありがとう」

「おう」

何が『そういうことじゃない』のかはついぞ分からなかったが一件落着して安堵のため息をついた。

「なあ白玉。なんか面白いことないか?」

暇になった俺は白玉に無茶振りしてみた。

「んー…… 天界でランキング1位になったゲームとか……」

「おおおおお!! それやってみたい!!」

天界でヒットするゲームってどんな感じなんだろう?

ド○クエとかファイナルファン○ジーみたいな感じだろうか? それともそれとも……

「持ってきてるけど今からやってみる?」

 待ってました!!

「おおおお!! やるやる!」

 スッゲー興奮する。

「じゃあ、これを頭に付けて」

白玉はそう言ってナー○ギアみたいな機械を差し出す。

「え? えええっ!?」

もしかして……という期待に俺は歓喜の声を漏らす。

「あ、そういえば地上には無いんだっけ。簡単に言うとこれを使えば異世界にフルダイブできるのよ!」

「スッゲェェェ! こんなのが実在したんだ!」

「じゃあ早速頭に付けて」

俺はナーヴ○アに似たそれを素早く装着した。

すると目の前に3つの扉が見えた。

「スッゲェェェ! どれに入ればいいんだ?」

「ちょっと待って」

白玉の声が聞こえると言う事はまだフルダイブはしていないんだろうか?

しばらく白玉が装置をいじって、

「はい! これで良しっと」

「じゃあ行くわよ!異世界へ!」

 次の瞬間目の前の景色の全てが無数の小さな光へと分解され、世界が再構築されていった。

「スッゲェェェ!」



 

 数秒後。

 

俺と白玉は森林の中に並んで立っていた。異世界の!!

俺の初期装備は木の棒。白玉の初期装備は魔法の杖だった。

「スッゲェェェ!」

「ふふっ、さっきからそればっかだね」

「だって言葉になんないもん」

人間、本当に感動すれば語彙力なんて関係無くきっと今の俺みたいになる。

「それじゃあまず王都へ行こう!」

「えっ? 王都へ行けばゲームオーバーだよ?」

こういうのってまず王都へ行くんじゃないの?

「王都へ行けばゲームオーバーってなんで?」

「このゲームの主人公は王都に潜伏するギャングに追われてるんだよ」

「なるほど、じゃあ追ってくるギャングから逃げながら魔物を倒してレベルアップして最後にギャング達と全面戦争といったところか?」

「そういうこと!」

魔物に気を取られ過ぎればギャングに追いつかれ、ギャングに気を取られ過ぎれば魔物に襲われる。フルダイブ機能も相まって、この緊迫感たまらん!!さすが天界1のゲームだ!!


白玉はマップを見て王都の位置を確認してから俺に言った。

「王都があっちだからとにかくその反対側へ行こ」

「だな。とにかくまずはギャングから距離を取ろうか」


そうして俺たちはしばらく歩いた。

そこで、カサッ、カサッ……

茂みが揺れ動いて1体のゴブリン(Level3)が飛び出した。

「まずはあいつからやるか!」

俺は木の棒を手にゴブリンへと殴りかかる。が、ゴブリンはそれをひらりと躱した。そして鋭い爪で肩まわりを引っ掻いてきた。俺のHPは半分と少しのところまで減った。

ゴブリン強過ぎだろ!!

「くそッ。白玉! こいつ手強いぞ! 協力しよう! 援護頼む!」

「うん!!」

白玉は太陽のような笑顔で言って杖を構えた。

俺は再び木の棒を構えながらゴブリンへ突っ込んでいく。そしてゴブリンの目の前で急停止。するとゴブリンは横へ飛び出した。

やはりそうだったか。このゴブリンは先読みをする……!!

俺は空中へ飛び出したゴブリンの背後へと回り込んで着地を狙って両手で棒を振る。ゴブリンは空中で体を急旋回して俺に向き直り棒を牙で棒を噛み砕いた。そして、再び鋭い爪で斬りかかる。

「くそっ、なんでもありかよ……ゴブリンのくせに」

俺のHPは残りわずか。

絶望的な状況でだが、俺はほくそ笑んでいた。

「白玉ぁぁぁぁあ! 時間は稼いだぞ! ぶっ放してやれ!!!」

ゴブリンは白玉に背を向けている……

いくらなんでも躱せないだろう……

これで躱せしたら糞ゲー認定してやるぜ!!

「任せて! かなた! 光魔法シャイニーレイ!!」

よしっ!!!

フルチャージした魔法ならゴブリンごとき一撃で倒せるはずだ!!!

ゴブリンは目を覆って

「ギイィィィィェェェェェェエ」

とわめいた。

だが……魔法は発動しなかった……

代わりに白玉の頭の上に『魔力が不足している』の文字が現れた。

「糞ゲーじゃねぇかあぁぁぁぁぁあ?!」

俺は魂の叫びをあげた。

「あれっ?」

白玉は訳がわからないといった表情で素っ頓狂な声を出した。かわいい。

「ギィエ?」

ゴブリンもまた訳がわからないといった表情で素っ頓狂な声を出した。腹が立つ。

「この野郎先読みでリアクションしやがったなぁ!?」

ゴブリンは魔法が不発に終わったと悟るや否や、にやりと笑い俺に引っ掻き攻撃を繰り出した。

「グハッ……!」


俺のHPは0になった。



気付けば俺は森の中で横たわっていた。

「目覚めたようね」

「ってあれ? ゲームオーバーじゃねぇの?」

「HPが0になったら3分間操作不能になるみたい」

「なるほどな。全員操作不能でゲームオーバーって訳か…… じゃあお前どうやって生き残ったんだ?」

あれだけ強いゴブリンに魔法無しでどうやって倒したんだろう?

「あー、思い出したくないなぁ…… まあ簡単に言うと……」




遡ること3分。


ゴブリンは倒れたかなたのバッグを剥いでいた。中身を確認してにやつくゴブリン。

かなたがいなくなって私1人?

怖い……!!

しばらくしてゴブリンは私の方を見た。

「ヒイィィィィィィ!!」

ゴブリンが私に向かって歩き始める。

逃げようか、でも、ゴブリンの移動速度を考えると逃げ切れそうにない……

それにゴブリンと鬼ごっこなんて絶対イヤ!! 怖い……!! 後ろ振り返ったら死ぬ!!

「来るな!!」

「ギイィィィィ」

「あっそうだ!」

荷物を全部渡せば見逃してくれるんじゃないかな? そう思い立った私は背負っていたバッグを地面に置いて数歩後ずさる。

ゴブリンはバッグを漁って中身を確認する。しばらくしてゴブリンはまた私の方へ向き直って歩き出した。

私はポケットに入っていたマップをゴブリンへ投げつけて気付けば土下座していた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。私が悪かったです。マップだけは取られたくなかったんですぅ」

涙を流しながら額を地面に擦り付ける銀髪美少女の姿がそこにはあった。




「……ということがあったのよ…………」

「へぇ〜。白玉の気迫でゴブリンが逃げ出した……ねぇ……」

どこから疑えばいいものか……

情報が少ないこのゲーム、事実をハッキリさせて次へと活かさなければならない。

白玉には少し悪い気もするが問いただす必要がありそうだ。

「じゃあ荷物は?」

「ゴブリンに持っていかれたわ」

「へぇ〜。じゃあ気迫でゴブリンを圧倒したはずの白玉の荷物まで無いのはどうしてだ?」

「ふぇっ? 私の荷物? あ、あ、あれ〜? どこに行ったんだろう?」

「とぼけるなよ」

「思い出した! ま、ま、マスタードラゴンよ!マスタードラゴンに奪われたわ」

「もうやめろよ」

「…………」

俺も年下の女の子を追い込んで罪悪感が無いわけではないが、それでもトドメをさそうとして言った。

悪いな。でも情報が命なんだよ。

「で?」

「……ゴブリンに持って行かれたわ…… 怖かったもん。荷物置いて頭を地面に擦り付けて泣き謝れば許してくれると思ったんだもん……」

俺は美少女がゴブリンに泣きながら額を擦り付ける絵柄を思い浮かべる。

「ゲッ……」

キツすぎるわ……

「ごめんな……なんか」

白玉はかぁーーっと更に頰を赤らめる。

「謝るな……それと憐れむな……私は可哀想じゃない!」

「あ、ああそうだな。白玉はそんなに酷い目には合ってないよな! いやーホント、ゴブリンにあんな事やこんな事されなくて良かったよな! ラッキーだよな?!」

俺は白玉を必死にフォローしようと頭脳をフル回転させて言った。

だが、白玉は更に頰を紅潮させていってゆでだこのようになっていた。

「うるさい! あんな事やこんな事とか言うなぁぁぁぁあ!!!」

「はっ……!!」

今度は俺が顔を赤らめる番となった。少しだが、ほんの少しだけだが、白玉がゴブリンにあんな事やこんな事をされている様子を想像してしまった罪悪感に苛まれていた。今回は完全に俺の失態だ。

「ホントにごめん。俺が悪かった……」

「もういいよ……」

気まずくなってしまった……

沈黙が2人の間の時間を支配する……

「……」

「……」

「とにかく王都から離れよっか」

「そうだね……」

「この道をまっすぐ行けばどこに着くの?」

「地図を見……」

「ん? どうした?」

まさかな?!

「地図も取られた」

白玉を問い詰めて引き出した情報はただ1つ『俺たちはゴブリン(Level3)に詰まされた』ということだけだった……

呆気なさすぎだろぉぉお?!

「どうすんの? 今から……」

「とにかく進むしかない…… まずはさっきのゴブリンを見つけて荷物を取り返そ?」

白玉の言う通りだな。いつまでもミスを見つめてクヨクヨしても仕方ない。とりあえず出来ることから1つずつやっていくしかないよな。

「行くか」

そうして俺たちの冒険はついに始まった。


俺たちは王都と反対側のゴブリンが逃げ込んだ山へと向かった。地図を荷物と一緒に奪われた以上、とにかくギャングから距離を置きたい。


山道は富士の樹海さながら草木が鬱蒼と茂っている。

「かなたー、またゴブリンに見つかったらどうするの?」

「……」

俺は黙々と歩く。

「かなた?」

「……」

俺はある現実から逃避して冒険に出ていた。そして今、その現実に向き合わされそうになっている。

「ゴブリンに見つかったら次は勝てるの?」的確に急所を抉ぐる質問。

「まあ、見つからなきゃいいんじゃね?」

再び俺は現実から逃げ出した。だが。

「そっかぁー! さすがかなた! 頭良いんだね!」

白玉は安堵したのか胸を撫で下ろす。

「俺が頭良いんじゃねぇよ! てめぇの頭が弱いんだよ!」

「?」

「俺たちがゴブリンに見つかるんじゃねぇよ。俺たちがゴブリンを探してんだよ……」

つい現実を直視してしまった……

「……」

このゲーム早くやめたい……

「まあまずはレベル上げからだな」

「うん。ゴブリンより弱いモンスターっているの?」

「……草食動物とかで良いんじゃね?」

「経験値少なそう」

「仕方ないだろ……それにゲームだ。ゴブリンの住処を見つけるまでゆっくりレベル上げしようぜ」

「……」

「おい? 白玉? どうした?」

「あれ見て」

白玉が指を指す方向を見て俺は絶望した。

「ゴブリンの里近くねぇぇえ?! どうすんだよこれ?」

「私に考えがあるわ。任せて」

白玉に従って俺たちはゴブリンの里の門をくぐった。嫌な予感しかしねぇよ……

「ごめんくださーい!」

はい……嫌な予感的中……

「ギィエェェェ?」

「さっき落とし物したんだけど地図とバッグが2つ届いてない?」

「ギィエ……」

ゴブリンは茅葺の建物へと入っていく。

まさか……

「まじかよ。白玉お前すげぇな!」

「予定通り!」

嬉しそうにそう言う白玉。

しばらくして4体に増えたゴブリンが俺たちの荷物を持って戻ってきた。

「ありがとう!」

俺は進み出て荷物を受け取ろうとして掴む。

「ギィエ?」

だが、ゴブリンは訳がわからないといった風な声を出して荷物から手を離さない。

「あ、れ……」

俺は後ろを振り返って白玉を見る。

「予定通りだよ?」

なんで疑問調なの?!そこ重要だよ?!

重要だよ!!

「ゴブリンの皆は私たちがただ荷物を持って帰るだけじゃあ納得しないよね?」

「「ギィエ!」」

「安心しなさい! 私たちから出すものはあるわ」

「「ギイィィ」」

「そこにいる男を生け贄にするわ!」

「うぉおおい! お前、今、俺を生け贄つっただろ?! 言ったよなあ? ざけんじゃねぇぞおぉお!?」

「予定通りだよ?」

「うるせぇぇぇぇぇ! そんな予定立てんじゃねぇよ!!」

俺が大声で言い終えると俺の肩に手が置かれた。ゴブリンの……

ゴブリンは申し訳無さそうな表情で俺に向かって首を振った。

ゴブリンに同情されたぜ!ちくしょー!!

俺は隙を伺って逃げようと考えていたが、ゴブリンはふと荷物を手放した。

「え?」

「「ギィエ」」

俺には聞こえた『強く生きろ』と……

「お前ら……」

俺は柄にもなく瞳を潤わせる。

「あれ? かなた助かったの? 良かったね!」

元凶は言った。

「お前もう黙ってろよ」

「まあいいか。じゃあこんな村早く出よ」

「あ、ああそうだな」

俺はそう言って白玉と村を去ろうとするが門の前に別のゴブリンが立ちはだかり白玉を指差す。

「私?」

「ギィエ」

「どうしたの、ってあの時のゴブリンじゃない」

ゲーム開始直後に俺たちを襲ったゴブリンだった。

「ギィェェェエ」

ゴブリンは突然、白玉の目前で引っ掻きの構えをとった。

「きゃゃあぁぁぁ!!」

白玉は地面に座り込む。

後ろからやってきたゴブリンが白玉を取り囲む。

「やだ。かなたー早く助けて!」

「……」

「何よ? まさか私を助けないなんて事はないよね?!」

「助けねぇよ?」

「……」

俺がそう言った直後、白玉は即座に頭を地面に擦り付けていた。

「許してださぁい。ごめんなさい。私が全部悪かったですぅ。うわぁぁあん」

そこには美少女が涙で顔をしわくちゃにしながら顔全体を地面に擦り付ける姿があった。

「…………」

一周回ってすげぇな白玉……

ゴブリン達はみっともない姿を目にして1人また1人と姿を消していった。

「おい。もう誰もいないぞ」

「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

「おい白玉!」

俺は大きめの声で白玉に呼びかける。

「…………見た?」

白玉は我に返ったのか突如として上体を起こして言った。

「お前のみっともない姿の事なら見てないぞ」

「見てるじゃんか! もう嫌だ! こんなクソゲーやめたいよ」

「確かにクソゲーにも程があるな。でもせっかくだからゲームオーバーまではしようぜ」

クリアはもう諦めたがな……

「ふん。すぐゲームオーバーになるよ」

「どうだかな…… まずは荷物確認しようか」

そう言って俺は自分のバッグを開いた。

バッグの中には一通の手紙となぜか毒薬が入っていた。

「おい、手紙があるぞ」

「私のバッグにも入ってる」

俺達はそれぞれ自分のバッグに入った手紙を読んだ。

そして絶望した。

手紙はこう切り出されていた。

『私に成り代わってこの世界へ来た転生者へ』

内容はこうだ。

ある男がキャバクラで酒池肉林を謳歌して借金を作ったそうな。あっという間に借金まみれになった男はギャングに金を借り、更にキャバクラへ通い詰めたらしい。そして、ある時ギャングから借金の徴収をされたが『返す金が無いからもう来るな』と答えてから逃亡生活が始まったらしい。

最後はこう締めくくられていた。

『転生者よ。あとは任せた』


全てを読み終えた俺は灰のようになっていた。白玉も同じ様子ようなであった。多分、同じような内容の手紙を読んだからだろう。


俺達は無言で迷う事なく毒薬を飲んだ。


『GAME OVER』


俺達は装置を頭から外して溜息1つ。

「なんだよ。どこまでクソゲーなんだよ!! ランキング1位なんじゃねぇのかよ」

「ホントに1位だったもん」

必死に抗議する白玉。

「なんのランキングだよ。それ」

「リア充にやらせたいゲームランキングだよ!」

あー、あー、そういう事か

「そのランキングだけどな。簡単にいうとリア充を妬んだやつらが作った捻くれたランキングなんだよ」

要するに『このゲームをプレイしてリア充爆発しろ』という事だろう。

「これをプレイすれば、リア充になれるんじゃないの?」

「ちげーよ。つかお前リア充になりてぇの?」

「……かなたとなら……」

白玉は何かを囁いた。

「なんて言ったんだ?」

「……!!……何にも言ってないけど? にしても天界って捻くれ者だらけだよね? ほんっとにもう!」

「ほんっとにそうだよな!お前とかな」

「だよねぇぇ!え? 私は別に捻くれてはいないよ?」

「ああそうだな。俺が間違ってたよ」

「わかったならいいよ」

「お前は捻くれ者じゃなくて純粋なクズだな」

「……」

白玉はガーンと表現したくなるような表情になった。

「酷いよ! じゃあかなたの晩御飯作ってあげないもん」

「ずるいぞ! 俺の晩御飯も作りやがれ!」

「ふん。私だってかなたの事を1番に考えて料理してるのに、クズ呼ばわりはひどいよ」

「ぐっ……確かに料理はお前に任せきりだった……」

料理ができない俺に代わって白玉は毎日3食手を抜かずに作り続けていた。それだけじゃなく選択や掃除までしてくれた。俺がしたのはせいぜい皿洗いを何度か手伝ったくらいである。

「悪かったよ。スッゲー感謝してる」

「うん! 私もかなたに会えてよかったよ」

この世で1番じゃないかと思うくらい素敵な笑顔で言った。

「そっか」

俺はこう返すのがやっとだった。くすぐったくて照れ臭くて……

ったくなんで白玉はそんな風に恥ずかしいセリフを口にするのだろう?なんでそんな風に笑うのだろう?

俺は歩き続ける。この時の俺にはまだ眩しすぎてよく見えなかったそれをいつか見える日まで。



ーー夕食後


「明日から高校行くから留守番頼むぞ」

「え? 私も高校行くよ? へっへーん! 私もかなたと一緒に高校に行って青春するもんね!」

「へ?」

「任せて! かなたの高校デビューは私が成功させるから!」

「……」


入学式前夜……俺の高校デビューは詰んだ。
























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天界に召されたら全員☆堕天しちゃってた♡ 焔 ルカ @RukaHomura6407

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