第3話 海水一滴に願いを

 この世界は魚たちの代わりに人が大群。私の世界は海だ。海にははっきりしてるところとはっきりしないところがある。明暗、流れの緩急、人間じゃ行けないところ、ワタシ達も行けないところだってある。


 いろんなことをいろんな人が教えてくれた。手話も教えてもらった。裸で海辺にいて話せないなんて人魚姫みたいだね、なんていう人もたくさんいた。カメラを持った人も来る。私は聞かれる質問は大抵わからなかったから、記憶喪失とされた。私は海から来たこともなぜか人間になっていたことも決して言わなかった。言えなかったし。そうか、ワタシ人魚なのかと思った。キレイだねとよく言われた。鏡をみてもわからない。キレイな服を着せられて写真に撮られる仕事をしている。渡されたいろんな本を読んだ。そうして私はもっといろんなことを知った。


 人魚姫のお話は悲しくて涙が出そうになった。そして他の人魚の話も調べた。涙、涙だ。辺り一面水にあふれていた頃は、水の中で泣いても海が飲み込んでしまう。陸に上がった愚かな人魚の涙。どれほど価値があるのか。不老長寿、そしたら人はめぐらなくなって人魚と同じになる?そうは思わない。


 私はもう人魚じゃないし人でもないんだと思う。ヒトへの恋心から陸に来たんじゃない、魔女から薬ももらっていない。人に恨みもない。もしこんな女の涙が何かの役に立つのならいくらでも泣こう。そうか私もう、人魚じゃないのか。

 悲しくないし嬉しくない。

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