カクヨムを使っているとプロ作家を目指したくなる……?

   

 前回のエッセイでは、私の勝手な想像として「カクヨム側が想定しているカクヨムの利用者層は本来、趣味で執筆を楽しむ者たちよりも、むしろ真剣にプロを目指す者たちの方ではないか」という考えを披露しましたが……。

 それが正しいにせよ間違っているにせよ、カクヨムは「真剣にプロ作家を目指す者たち」だけでなく「趣味で執筆を楽しむ者たち」も十分に楽しめる場所。私はそう感じてきましたし、今もそう思っています。

 ただし最近「最初は『趣味で執筆を楽しむ』だけだったユーザーの中にも、カクヨムを利用しているうちに『真剣にプロ作家を目指す』みたいな気持ちが生まれたり、そんな気持ちが強くなったりする方々が結構いるのではないか」とも思うようになりました。

 もしも「カクヨム側が想定しているカクヨムの利用者層は本来……」というのが正しいのであれば、それらはある意味、カクヨム側に上手く乗せられているのかもしれませんね。

 いや「乗せられている」という表現は聞こえが悪いかもしれませんが、「趣味で執筆を楽しむ」から「真剣にプロ作家を目指す」に変わるのは、よく言えば向上心。そんな向上心を、特にカクヨムを使い始めて2年目とか3年目とかの方々のエッセイを読んでいると、感じることがあるのです。



 私が思う「趣味で執筆を楽しむ」というのは、とにかく自分が書きたいものを書くこと。自分の中に「これを書きたい!」という気持ちがあって、それを小説という形で公表するのが、趣味の執筆活動だと思っています。

 ただし「これを書きたい!」という物語は、最初のうちは頭の中にドンドン生まれてくるにしても、そのうち尽きるかもしれない。最初のうちは何のきっかけもなく頭の中に自然発生していたのが、ネタ切れになってしまえば「きっかけ」が必要なわけで……。

 そんな時、自主企画やコンテストなどで具体的なテーマやお題が与えられたら、それがちょうど良い「きっかけ」になり得る。そんな感じでコンテストに則して書いて応募するのは「趣味で執筆を楽しむ」の一種だろうと思いますし、私も実行してきたこと。また私だけでなく、他の方々のエッセイなどでも同様の話を目にすることがあり、そんな時は「趣味で執筆を楽しむお仲間発見!」と嬉しくもなります。

 先ほど「特にカクヨムを使い始めて2年目とか3年目とか」と記した通り、特にそうした方々のエッセイを読んでいると「お仲間発見!」という気持ちになることが多い気がします。

 ところが、そうしたエッセイを読んでいるうちに、例えばコンテストの分析が始まったりする。過去の受賞作品を研究したり、コンテスト主催レーベルの出版傾向を知るために実際の刊行物を読んでみたり。そういう話がエッセイで出てくると、最初に感じていた「お仲間」が少し遠くへ行ってしまった気になり、大袈裟に言うならば若干寂しくも感じるのでした。


 自分で書いていて「漠然としていて、伝わりにくい文章だなあ」と思います。そもそも最初の「コンテストに則して書いて応募する」という時点で、わざわざコンテストのテーマに合わせて書いて、それを応募しているわけですからね。でも私としては、その段階はまだ趣味の執筆活動だと思うのに、細かい分析などをし始めたら「真剣にプロ作家を目指す」に変わりつつある、と感じてしまう。

 では何が違うのかといえば、執筆段階の自由度でしょうか。

 例えば「異世界お仕事」というテーマのコンテストがあるとして、ただテーマに合わせて書くだけならば、漠然と「異世界」とか「お仕事」といった言葉をきっかけにして、かなり自由に発想できる。でも与えられたテーマに加えて、同様のコンテストの過去の受賞作品を研究して「こういう作品でないと受賞できない」とか、主催レーベルの書籍を調べて「このレーベルが求めているのはこういう作品」とか、テーマ以外の条件を加えてしまったら、その分だけ発想の自由度が狭くなる。前者の「かなり自由に発想」ならば「自分が書きたいもの」を思いつくためのきっかけに過ぎないけれど、後者の「発想の自由度が狭く」になると、もう「自分が書きたいもの」ではなくコンテスト主催者側が求めているものを書かされる感じではないか、それは『真剣にプロ作家を目指す』の方向性ではないか、と私は思ってしまうのです。


 なお「例えば」と書いた割にはあまり具体例になっていない気もするので、ちょっと他サイトの短編コンテストの例を出してみると……。

 例えば「エブリスタ」で毎月2回行われている短編コンテスト。現在開催中のテーマは「久しぶり」と「夫婦」なのですが、これで「久しぶり」あるいは「夫婦」から自由に発想するのが、私の元々の方向性。完全に「趣味で執筆を楽しむ」の段階でした。

 そんな「私の元々の方向性」の頃は意識していませんでしたが、この「毎月2回行われている短編コンテスト」の応募要項には『受賞作品はエブリスタの短編小説シリーズ「5分シリーズ」に収録される可能性があります』という一文があります。問題は「5分シリーズ」が児童書に分類されていることで、実際に書店で「5分シリーズ」が置かれている棚に『朝読書にぴったり』『3分・5分の短編物語です』というポップが貼ってあるのを目にしたこともあります。いわゆる朝読でも使われる、という意味ですよね?

 だとしたら、応募要項には直接「児童向け」の言葉は一切ないにもかかわらず、この短編コンテストは児童向け短編のコンテスト。だからテーマに応じるだけでなく「子供が読んでも大丈夫な内容」という制限がかかるはず。

 そういう意識がなかった頃、私は平気で「その夜、彼女と結ばれた」みたいな文章も含んだ作品を応募していましたが、その程度の漠然とした表現でも児童向けならばアウト。そう思って最近は「子供が読んでも大丈夫な内容」という制限をつけた上で、発想したり執筆したりするようにしています。

 まあこのコンテストの場合、受賞してもプロ作家になれるわけではないので――例えばカクヨムコンのプロ作家部門の説明に「アンソロジー収録作家は対象外」とあるように短編集収録だけならばプロ作家扱いにはならないので――、「真剣にプロ作家を目指す」の方向性と言ったら大袈裟。いわば「真剣に受賞を目指す」の方向性でしょうか。応募要項に直接は書かれていない「条件」を見つけてその制限を自分に課す時点で、私も単なる「趣味で執筆を楽しむ」から少しは「真剣に受賞を目指す」に変わってきたのかな、と感じています。


 とはいえ、あくまでも「少しは」であり、まだまだ真剣度はかなり低いのですけどね。本当に「真剣」ならば毎回受賞作品をきちんと読んで、傾向などを分析するべきなのに、それを怠っているのですから。

 恥ずかしい話ですが、自分が応募したコンテストの受賞作品を読むことに抵抗があるのです。「自分が応募したコンテスト」という時点で純粋な読者としては楽しめないですし、自分の力量不足は棚に置いて、悔しいとか羨ましいとか感じてしまう。また、もしも受賞作品があまりにも素晴らしい作品だったら「自分には絶対こんな作品は書けない! このレベルでないと受賞できないならば、このコンテストは無理!」と思うでしょうし、逆にそれほどでなかったら「これなら私の作品の方が面白いはず。でも私の作品は選ばれなかった、つまり選考委員と私の『面白い』の方向性が違う。ならばいくら応募しても無駄!」と思うかもしれない。いずれにせよ、次回以降の応募意欲が低下する可能性があるわけで……。

 そんな我が身と比べると、きちんとコンテストの受賞作品や傾向などを分析する方々は、本当に尊敬に値します。



 ……というように、今の具体例の中にも少し出てきましたが。

 今回のエッセイの冒頭では「最初は『趣味で執筆を楽しむ』だけだったユーザーの中にも、カクヨムを利用しているうちに『真剣にプロ作家を目指す』みたいな気持ちが生まれたり、そんな気持ちが強くなったりする方々が結構いるのではないか」と他人事みたいに書いたけれど、そもそも私自身の意識も少しは変わってきているのですよね。

 プロ作家イコール書籍化作家、つまり単著の出版経験のある作家。その定義に従えば、まだまだ私の場合『真剣にプロ作家を目指す』という気持ちには程遠ほどとおいですし、現実感も皆無です。でも「プロ作家」でなく「商業化」という言い方ならば、多少は現実感も出てくる気がします。

 例えば「ノベリズム」契約作品はサイト上で有料販売する連載だったり、例えば「エブリスタ」経由で短編が紙媒体の短編集に収録されたり。一応「商業化」と呼べるものが既にある以上、今後も「また!」を期待したくなります。

 前回のエッセイで、カクヨム登録当時の私の心境として「作家になりたいと夢見る気持ちはあるけれど、現実的な可能性はゼロに等しい。自分自身が作家デビューしないのであれば、そこに『酷い編集者』がいようがいまいが無関係」という話を書きましたが、それと比べれば大きな変化です。


 今回のエッセイの最初の方で書いた「他人事」の例だけでなく、自分自身の話も含めて……。

 カクヨムで執筆活動を続けたり、他のカクヨムユーザーの方々と交流するうちに意識が変わってきたのであれば、それもカクヨムの影響。「カクヨム」という小説投稿サイトの特徴の一つかもしれない。

 最近そんなことも考えています。

   

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