カクヨムコンは本気でプロデビューしたい人向けのコンテスト……?

   

 まずは前回書き忘れたことから。

 カクヨムは、私のように交流苦手なユーザーでも、自然にある程度は活発に交流できてしまうシステム。だから毎年カクヨムコンの結果発表を見るたびに「知っているお名前がある!」と感激します。

 ここで言う「知っているお名前」というのは、コメントをいただいたり逆にこちらから書き込んだりという形で直接交流ある方々ばかりでなく、知り合いの知り合いみたいな方々も含みます。自分がコメントを書き込む際、同じ応援コメント欄で何度も見かけるお名前。私自身と直接の交流はなくても、私と交流ある方々と交流ある方々なので、なんだか間接的に交流あるような気分。

 そんな「知り合いの知り合い」も含めて、とにかく毎年のようにカクヨムコン受賞者には「知っているお名前」を見かけますし、それらは大抵プロ作家の方々ではなく、カクヨムコンを経て新たにプロデビューする方々となります。

 しかし、それらの方々が皆「本気でプロデビューしたい人」だったとは思えない。むしろ執筆活動は趣味だったはずなのに、例えば作家としての才能が飛び抜けていたり、例えばちょうど作品が編集者や読者に求められる方向性だったりしたために、カクヨムコンで受賞。そんな方々も多いような印象を受けます。

 ならば「本気でプロデビューしたい人」以外も実際に受賞している時点でもう、カクヨムコンは「本気でプロデビューしたい人」限定のコンテストではないわけですが……。

 それとは少し矛盾するのは承知の上で今回「カクヨム側が想定しているカクヨムの利用者層は本来、趣味で執筆を楽しむ者たちよりも、むしろ真剣にプロを目指す者たちの方ではないか」と感じた話をしてみようと思います。



 まず、きっかけのひとつは、いくつかの「カクヨムからのお知らせ」を見ていてモヤモヤしたこと。仕様変更やキャンペーンなどの際に「一部の人気作家だけが対象ではないか」「『だけ』とまでは言わずとも、少なくとも優遇はされている」と感じる場合がありました。

 あくまでも「いくつかの」であり、今パッと具体例は挙げられないのですが……。例えば11月2日の「お知らせ」にあった、カクヨムアワードプログラムという新機能導入の話。あれは一応「一部の人気作家だけが対象? 優遇?」の一例かもしれません。最低ランクの「ブロンズ」でさえ対象条件が「累計サポーターが500人以上」ですから、ほとんどのユーザーにとっては雲の上の話ではないでしょうか。

 ただし「モヤモヤする」とはいっても、あくまでも気持ちの問題。頭では「特にカクヨムロイヤルティプログラムに関しては、その広告費がカクヨム側の金銭的利益にも繋がる以上、一部の人気作家こそがカクヨムに大きく貢献しているとも言える。だから優遇されるのは当然」と納得していました。

 とはいえ、この段階では「例えば広告費に関して」みたいに、金銭的な側面を考慮して納得していたのですよね。でも、その後「そもそも金銭云々とは別に、それがカクヨムの基本スタンスなのでは?」と思う機会があって……。


 そちらのきっかけは、とある古参ユーザーのエッセイ。カクヨムが出来た当初からおられるユーザーのエッセイの中で「昔はカクヨムからプロデビューしようというユーザーが多く、特に最初はそんなユーザーがほとんどだった。今はそうでないユーザーも増えてきたから、趣味の執筆活動としての利用もしやすくなった」みたいな記述を目にしたのです。

 先月下旬の「カクヨムからのお知らせ」でも、


>オープン当初の2016年より長きに渡ってご利用いただいて


>インターネットで小説を閲覧する環境は2016年から大きく変わりました。


 と書かれていましたが、カクヨムの雰囲気自体も、オープン当初の2016年とは大きく変わっているのでしょうね。

 今でこそ出版社と直接的に紐づいている小説投稿サイトも増えてきたようですが、そもそも当時はまだひとつもなかったか、あるいは他にあったとしても少なかったのでしょう。そんな時代に大手出版社であるKADOKAWA直轄の小説投稿サイトがオープンするとなれば、そこを介してKADOKAWAから書籍化できる……と考えた作家志望が大挙して押し寄せるのは容易に想像できます。その状況では「普通に小説投稿サイトとして、単なる趣味の執筆活動を」という方々は肩身の狭い思いもしたかもしれません。


 私みたいにカクヨムが出来て何年か経ってから来た者にとっては、まさに「想像」しか出来ない時代です。私が来た頃には、既に大きく環境も変わっていたのでしょうね。

 そもそも私がカクヨムという小説投稿サイトの存在を知ったのは、ネットの悪い噂でした。いや「噂」というより、ニュース記事の一種でしょうか。「『カクヨム』出身の小説家が不遇な目に遭っている」みたいな話でした。

 そこで初めて「カクヨム」という名前を目にしたのです。「不遇な目に遭っている」といっても、KADOKAWAという会社全体から圧迫されるわけではないでしょうし、作家個人と担当編集の間で起きた問題だったはず。記事の方向性としては「そういう編集者もいるから、小説家デビューを志すならKADOKAWAは避けた方がいい」みたいな話だったようです。

 当時の私は「へえ、そういう人もいるのか。酷い編集者もいるものだなあ」程度にしか感じませんでしたが……。実際にカクヨムを使い始めて以降、別のところで「KADOKAWAで出版経験ある作家が他で大きな賞を受賞した後、KADOKAWAで仕事をしなくなった。KADOKAWA時代はメインキャラの性格設定などを逆方向に変えさせられて、かなり嫌だったと愚痴っている」という話を見たり、またカクヨム内で「カクヨムコンで特別賞を受賞したけれど出版には至らなかった」みたいなユーザーをお見かけしたりしたこともあります。だから一時期は「KADOKAWAには酷い編集者もいる!」という思いも強くなりましたし「大手出版社だからこそ、傲慢な編集者もいるのだろう」と勝手に理由づけして納得もしていました。

 でも今では「それは違うんじゃないかな?」と思っています。きっとどこでも良い編集者と悪い編集者がいるはずで、ならば「大手出版社だからこそ、傲慢な編集者もいる」ではなく「大手出版社だから全体の人数も多くなるし、良い編集者も悪い編集者も多ければ、自然に『悪い編集者』の方が目立つだけ」と想像しています。

 そもそも「悪い編集者」というのも、誰に対しての「悪い」でしょうか。たまたま担当作家の一人にとって「悪い」に過ぎない、という可能性もありますよね。個人的な相性みたいな感じで。

 そうなると、一概に「KADOKAWAには酷い編集者もいる!」とは言えないわけで……。例えば上述の『カクヨム内で「カクヨムコンで特別賞を受賞したけれど出版には至らなかった」みたいなユーザーをお見かけしたり』の例でも、そのかたは後々別の作品でデビューなさっています。最初の担当編集とは相性が悪かったにしても、次の担当編集とは悪くなかった。良い編集者と巡り会えたのでしょうね。

 いずれにせよ、これは「今はそう思う」という話であり、カクヨムの存在を知った当時の私は、ネットの悪い噂を鵜呑みにして「KADOKAWAには酷い編集者もいる!」と思い込んでいました。

 それでも私がカクヨムに登録したのは、天の邪鬼とか逆張りみたいなひねくれ根性ではなく、むしろ素直に、本気でプロ作家を目指す気持ちが全くなかったからこそ。当時の私は「作家になりたいと夢見る気持ちはあるけれど、現実的な可能性はゼロに等しい。自分自身が作家デビューしないのであれば、そこに『酷い編集者』がいようがいまいが無関係」と思えて、カクヨムに登録できたわけです。


 まあ考えようによっては、そんな記事がネットに出回るくらいならば、それをきっかけに「カクヨムをやめよう」という方々も結構いたのかもしれません。特に、KADOKAWAからの書籍化を目指してカクヨムに登録していた作家志望の方々の中には。

 だとしたら、それらの方々が減った分、カクヨム内で「単なる趣味として」という方々の割合も増えて、同じく趣味の執筆活動の場を求めて来た私にとっては、ちょうど良い時期だったのかもしれませんね。



 こんな感じで「元々カクヨムは『本気でプロデビューしたい人』が多い小説投稿サイトだったのではないか」と考え始めたら、そこからさらに「それはカクヨム側でも想定している状況だったのではないか」という考えに至ったわけです。

 だとしたら、プロ作家予備軍みたいな人気作家を対象としたキャンペーンや新機能導入があったりするのも当然ですね。元々カクヨム側がその前提でサイト運営しているのですから。

 そこまで考えた時点でハッとすると同時に、なんだかスーッと納得できました。『本気でプロデビューしたい人』が多い小説投稿サイトとして運営しているのであれば、メインのコンテストで読者選考を採用するのも当然だろう、と。

 この段階で私の頭に浮かんできたのは、商人とお客様の関係です。私の実家は祖父の代から父の代まで個人商店を経営しており、その様子を近くでよく見ていたので、私のイメージする「商人」は現在の商人というより「昭和の商人」になりますが……。

 どれほど頻繁に買いにきてくださるお客様も、商人にとってはあくまでもお客様であって、けっして友人ではないのですよね。だからお客様に対しては、かなり裏表のある態度となる。もちろん友人同士でも「親しき中には礼儀あり」だから言って良いことと悪いことがあるとはいえ、そのラインが大きく異なるので「友人同士ならば言って良いこと」だけど「お客様に対しては言ってはいけないこと」というのも出てくるはず。

 いきなり「商人とお客様」なんて話をすると「それが小説執筆と何の関係が?」と言われるかもしれませんが……。

 プロ作家というものは小説を読者に買ってもらって読んでいただくわけですから、作家と読者は友人同士ではない。むしろ商人とお客様の関係に近いのだろう、と私は考えたわけです。

 本気でプロ作家を目指すのであれば、そしてその本気度が高いのであれば、デビュー前から――素人作家としてカクヨムを使っている頃から――自分がブロ作家になった後のことも想定した上で行動しているはず。カクヨムみたいな小説投稿サイトにおいても「自分は後々『商人』の立場のプロ作家になる」という前提で交流するならば、彼らは読者を『お客様』扱いしているのではないか。

 そんな考えが頭に浮かんできたのでした。


 例えば私から見れば、カクヨムで交流する方々は、いわば執筆仲間です。その中からプロデビューなさる方々もおられるでしょうが、それでも基本的には執筆活動を趣味として楽しんでいる方々です。

 だからお互いにもっと執筆を楽しむために、それぞれの執筆活動に関して、ああでもないこうでもないと語り合ったりもします。距離感としては「友人同士」の感覚ですね。

 時には執筆に関して悩んだり、愚痴を吐いたり。あくまでも「友人同士」と思えばこそ、そういう話も出来るのですが……。

 もしも「商人とお客様の関係」ならば、これは厳禁です。愚痴も悩みも執筆に関してのネガティブな側面ですから、作品のマイナスイメージに繋がりかねない。基本的に「商人」は「お客様」に対して、自分が売る「商品」の否定的な裏話を公言したりしませんよね。

 ならば商人と同じで、本気でプロ作家を目指す方々は――今からプロの「作家」としての立場を想定した上で活動する方々は――作品のマイナスイメージに繋がりかねない裏事情は、きちんと伏せておくのだろう。日頃の交流でも、そういうスタンスなのだろう。

 私自身とは違う立場の方々の思考パターンなのであくまでも想像に過ぎませんが、こういうことを考えていくと、改めて「本気の『作家を目指す』と、私みたいな『作家を夢見る』との間には、とても大きな隔たりがある」と感じます。というより、そもそも「自分がブロ作家になった後のことも想定した上で」というほど高い意識の「本気」で頑張っておられる方々は案外それほど多くないのかもしれない、とも思いますけどね。


 少し余談になりますが、以前にどこかで――確かTwitterだったと思いますが――「自分の作品を『自信はありませんが』『面白くないかもしれませんが』みたいに卑下しながら宣伝するような人の小説は読みたくない」という意見を目にしたことがあります。

 その時は「そういう意見もあるのか」と驚いたものでした。私個人は逆に「私の作品は面白いです! ぜひ読んでください」みたいな宣伝が嫌いで、そういうのを見ると「自画自賛が少し鼻につく」と感じて、むしろ避けてしまうほど。「粗品」とか「拙作」という言葉もあるように、へりくだる言い方はそもそも日本の文化だろう、と思うタイプでした。

 しかし、上述のように「少しでも作品のマイナスイメージになりそうな話は避ける」という意味では、確かに「自分の作品を『自信はありませんが』『面白くないかもしれませんが』みたいに卑下しながら宣伝」は悪手であり、それよりは「私の作品は面白いです! ぜひ読んでください」の方が正当的なはず。

 なるほど、私が「自画自賛が少し鼻につく」と感じていたのは、あくまでも投稿小説を趣味の執筆活動の作品と捉えていたから。プロ作家の「商品」と考えれば、商品なんだから自画自賛できるほど優れているのも当然と思えるし、本気でプロ作家を志望する方々にとっては、まだ投稿小説の段階で既に「商品」予備軍のわけですね。

 そう考えると「自分の作品を『自信はありませんが』『面白くないかもしれませんが』みたいに卑下しながら宣伝するような人の小説は読みたくない」という意見も、よく理解できる気になりました。



 かなり話が逸れましたが、まあ今回のエッセイの要点としては、先ほどの「『本気でプロデビューしたい人』が多い小説投稿サイトとして運営しているのであれば、メインのコンテストで読者選考を採用するのも当然だろう」という話。

 大量に星を稼いで読者選考を楽々通過する方々は、おそらく書き手同士の交流よりも、読み専の方々からいただく星が多いのでしょうね。小説を一種の「商品」として考えると、特に読み専の方々に作品を読んでいただくのは、ちょうど「お客様に商品を買っていただく」に相当すると思いませんか?

 自分がブロ作家になった後のことも想定している「本気でプロデビューしたい人」ならば、カクヨムコンの時期に限らず日頃から「商人とお客様」的な関係で接しており、自分の作品を売り込むのも上手なはず。

 そして、そういう状況をカクヨム運営側でも想定しているのであれば……。

 今までとは別の意味で、改めて「読者選考は、いかにもカクヨムに適したシステムだ」と感じるのでした。

   

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