11/キョウハクジョウ
なんとか封筒のことは隠し通し、昼休みとなった。
中身は休み時間の間に屋上で確認するつもりだ。封筒は昨日は机の中に入っていなかったし、入れたのは既に登校していた水見さんか徹のどちらかとなる。
しかし、徹なら直接言うだろうし、あの封筒を男が使うかといったらそれには疑問が残る。
──ってことは、水見さんが……?
僕は屋上に座り込んだ。雲一つない空で輝く太陽がアスファルトを照らし、まだ春だというのにジワジワと熱を帯びている。
ゴクリと唾を飲み、僕は封筒を開けた。中身を見ると、半分に谷折りされた便箋が入っている。表面は白く、赤いインクを垂らしたのか大きさの違う複数の水玉模様が滲んでいた。
「──なんだ……これ」
便箋を開くと、僕は絶句した。
【過コニ咲ク優しい悪夢が産まれし日、
血塗られたマスクがコトワリの怨念を届ける】
便箋にはそう書かれていて、これが何であるかはすぐに理解出来た。
──脅迫状、なのか。
メッセージは新聞の文字を切り貼りして構成され、こうして文章を見れば〝赤の水玉模様〟が飛沫血痕を模したものであることは明らかだった。
血──連想させるのは、裂傷、苦痛、そして──死だ。
なぜ脅迫状が僕に届いたのかわからない。
人に恨まれることをした覚えはなかったからだ。
「なん、で────?」
嫌がらせにしては陰湿すぎる。恐怖で無意識に力が入り、僕は手紙を握りつぶしてしまった。
それに各々の言葉の意味も気になる。
『過コニ咲ク』
『優しい悪夢が産まれし日』
『血塗られたマスク』
『コトワリの怨念』
そして、意図したものなのかカタカナになっている言葉──。
──過去の出来事、ってことか?
伊達の事件のこともあるし、何か被害が起きてからでは遅い。もしかしたら、次の標的は僕なのかもしれない。
もう一度便箋を開くと、粉のようなものがサラサラと落ちた気がした。便箋を確認すると、赤のインクに亀裂が走っている。
「──? 乾燥してる?」
僕はその光景に違和感を覚えた。紙媒体に付着したインクは、乾燥して亀裂は走るものなのだろうか。
付着しているのが血液ならば可能性はなくはないが、血液は酸化すれば黒く変色し、便箋の赤のように鮮やかなものにはならないはずだ。
乾燥して亀裂が入りうるもの──。答えが喉のすぐそこまで出てきているのに、僕にはそれが何かはわからなかった。
残る疑問は〝封筒を入れた人物〟である。
今朝、机の中に封筒を仕込むことが可能だったのは、僕より早く登校していた水見さんと徹だ。もちろん、昨日の下校後にクラスメイトが入れることも可能かもしれない。僕は部活に入っていないし、放課後ならばいくらでも机が無防備になる時間はある。
とりあえず二人に確認してみようと思い、それぞれ一人ずつ呼び出してさり気なく聞いてみることにした。
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