10/いつもと違う登校時間
それから一週間が経った。
今朝はアラームが鳴る前に目が覚め、家を出た時間が早かったのもあるがいつもより二十分も早く正門に着いた。
普段は通学してきた学生が校庭を何人か歩いているのだが、さすがに時間が早いだけあって僕だけがそこにポツンと立っている。
校舎に入り、廊下を歩く。突き当たりを曲がれば上の階に続く階段だ。階段を上がって教室に向かおうとすると、上の階から美丘先生が降りてきた。
「あら、おはよう。──ずいぶん早いのね」
「先生、おはようございます。いえ、今日はたまたま早く起きただけです」
「……そう。最近、調子はどう? うまく馴染めてるかしら」
僕は頷いた。友達がいるというだけで学校は楽しいものだからだ。
「それならよかったわ。事件以来、ずっと気掛かりだったから……」
先生は微笑むと「今日も頑張ってね」と言い残し、そのまま職員室に向かった。
木霊(こだま)する先生の足音が小さくなるにつれて、僕は一つの疑問がよぎる。
「──担任じゃないのに、教室に何か用だったのかな?」
教室に入ると、案の定誰もいなかった。ただでさえ普段から早い登校なのに、それより更に二十分早いのだから当然といえば当然だ。
「……ふぅ」
僕はスクールバッグを机の上に置いてトイレに向かうことにした。
誰もいない廊下で聞こえる足音は少し不気味で、すぐ後ろを誰かが歩いてるような気配がして何度も振り返った。
「うわあああああ!」
トイレの中から叫び声が聞こえると、それにつられて僕も声を漏らした。
「──! な、なんだ、お前かよ……」
声の主は、徹だった。
対面した彼の顔は、いつもの表情とは違って青ざめている。
「お、おはよう……徹。僕もびっくりしたよ」
「……今日はずいぶん早いけど、なんかあったのか?」
「うぅん。たまたま早かっただけ。そっちも今来たの?」
徹は頷く。
「それよりさ、さっき上の階からピアノの音が聞こえたんだよ。お前見てきてくんねぇ?」
「こんな朝早くに? 誰だろう、美丘先生かな?」
それを確かめてくるんだよ、と徹は小さな声で言った。
「あっ、それ私だよ?」
後ろから女の子の声がした。
「うわあああああああ!」
僕と徹は声を合わせて叫ぶ。
恐る恐る振り向くとそこには水見さんが立っていた。
男子二人のリアクションに、彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「……何? どうしたの?」
彼女は目を細めて、僕たちを冷たい表情で見た。
「うっせー! 連れションだよ!」
徹は怒鳴ると、水見さんを睨み返した。
「……幽霊とかじゃなくてよかったね、徹」
僕は苦笑いしてから男子トイレに入り、用を足してから教室に入った。
しんと静まりかえる教室は、賑やかな教室を知ってしまった僕にとってまるで違う空間のように思えた。
「……あれ?」
椅子に座ってスクールバッグに入っている教科書を机の中に入れようとすると、机の奥にある〝何か〟が「グシャ」と音を鳴らした。取り出して見てみると、それは雑貨屋でよく見るような〝かわいらしい封筒〟だった。
四つ葉のクローバーと飛翔する青い鳥が描かれた封筒の中身は、紛れもなく〝手紙〟だろう。
「──ッ!」
僕は慌ててそれを机の中にしまい込んだ。
──これって、もしかして……。
「ん? どうしたん? お前、今なにか隠さなかったか?」
「いやいやいや! なんでもないですよ!」
両手を前に出し、手首を震わせて何もないことをアピールした。
──ラブレターが入ってたなんて、絶対に、言えない。
「……あやしぃ」
「──! な、なんでもないってば!」
徹はニヤニヤしながら僕を茶化した。
時間が経つにつれて、クラスメイトが教室に入ってきた。元気に挨拶してくれる生徒もいれば、あくびをしながら入ってくる生徒もいる。
高校生活で当たり前の日常。そう、当たり前のはずだったのだ。
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