4/回想
気が付くと僕は自宅にいた。
見えるのは母さんの顔と、知らない男性と、天井と、幼児用の玩具。
どういうわけか、手足は思ったように力が入らない。
「はぁーい、ママですよー! ユウくーん、笑って笑ってー!」
母さんが僕の名を呼ぶ。
──何を言っているんだ?
「あぁー、ああー」
──あれ、うまく声が出ない。
ふと母さんの顔に向かって手を伸ばすと、手の大きさが明らかにおかしい。
まるで、赤ちゃんのような──。
「ユウくーん、ほら、今日はパパもいますよぉ!」
──父さん? でも、顔が……。
隣にいる男性の顔は黒マジックで塗りつぶされ、目や鼻のような固有の特徴を把握できない。息遣いと、赤ちゃんをあやすような声だけが聞こえる。
しばらくすると、プルルルルルと何かの電子音が鳴った。
「──呼び出しだ」
母さんが〝パパ〟と呼ぶ男性は、そう言うと急いでスーツに着替え始めた。
「……うん。気をつけてね? ちゃんとご飯は食べなきゃダメよ?」
「──すまん。帰ってきたばかりなのに…… 」
母さんは微笑みながら、無言で首を振る。
「ああー! ああー!」
僕は必死になって手を伸ばし、言葉を発しようと叫んだ。
「ほらー、ユウくーん。泣き止んでよぉー」
母さんは頬ずりしながら僕を抱きあげ、揺りかごのようにゆっくり揺らした。
「パパにいってらっしゃい、しようねー」
母さんは僕の小さな手を握り、玄関先にいる男性に一緒になって手を振った。
バタンと聞き慣れた我が家の扉が閉まる音とともに男性の姿が見えなくなると、世界が黒にフェードアウトする。
──そして広がる、白い世界。
意識が……遠くなってゆく──。
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