ジョンの餌やりは、




 ジョンの餌やりは、和佳子のばあちゃんの役目だ。

 和佳子のばあちゃんは、適当に人間の残飯をそれっぽくボウルに盛り合わせて、ジョンに食べさせている。

「和佳子ー。暗くならんうちにジョンに餌やっといてー」

「ええよー」

 和佳子は、台所のテーブルからジョンの餌を回収して庭の犬小屋へと向かう。

「ジョーンー…………うわ、何これ?」

 ジョンの犬小屋の周りには、七匹の野犬がたむろしていた。

 和佳子は、野犬を気にせずにジョンの餌皿にばあちゃんの特製メニューを移し変えてやる。

 すると、ジョンが食べる前に野犬が餌を食べてしまうではないか。

 ジョンは、それを寂しそうに見ている。

 和佳子はそういえば、と思い出した。

 初めに見た時は群れの先頭を走っていたジョンが、最近は群れの後方を付いて走っていた。序列が下がったということか……。

 少しだけ思い悩んだ和佳子は、考えがまとまると庭に立て掛けてあった竹の棒を手にとって、握りしめる。

「お前ら、それはジョンの餌やし。どきぃや!」

 和佳子は、竹の棒を振り上げて野犬をしばく。

 キャイン!

 ウゥ~。

 ジョン以外の野犬が、一斉に和佳子の方を向いて唸り始める。

「あ゛ぁ? 何?」

 野犬と和佳子のにらみ合いになった。

 しばらくして、一番体格の大きい野犬がクゥンと甘えた声を出して腹を見せた。

 それをきっかけに、野犬たちが次々と腹を見せる。

 ジョンは、ハッハッと息をして、和佳子をつぶらな瞳で見つめている。

「ほら、ジョン食べなよ」

 気がすんだ和佳子は、竹の棒を投げ捨てると、空のボウルを持って家の中へと引き返していく。

 ダイニングテーブルに空のボウルを置いた和佳子は、台所で夕食の支度をしているばあちゃんに向かって言う。

「ばあちゃん、野犬が庭にいっぱいおったんやけどあれ何?」

「ジョンの餌が取られとるみたいやなあ」

「えー、何それ。むかつく。ジョンの餌やのに」

「庭の門扉を閉めても野良が入るから、しゃあないわな」

「むかつく~」

 それから、和佳子はなるべく餌やりの役目を自分がするようになり、その度に複数匹の野犬に腹を見せられて「私を怖がっとるみたいやん」と気を悪くした。

 和佳子が睨みをきかせて餌やりをするうちに野犬は次第に数を減らしていって、やがて野犬の姿を見なくなった。

 ジョンは、再び自分のものになった餌をがつがつとほうばって食べるようになった。

「ばあちゃん。野犬おらんようになったわ。明日からまたよろしく」

「ほうなん?」

「うん」

 和佳子は、ばあちゃんの手作りご飯が出来上がるまで宿題をして待つことにした。

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