ジョンはたぶんもう老犬で、




 和佳子は高校生になった。

 ジョンはたぶんもう老犬で、近頃は犬小屋から出ている姿を滅多に見なくなった。

 和佳子は、おとなしいならもういいかと首輪にリードを繋げて、庭木に括りつけている。

 ある日、高校から帰るとジョンの犬小屋に何かがいた。

 いた、というか。

「え、子供!?」

 青色のズボンを履いた人間の子供だった。幼稚園くらいの男の子のようだ。

「いやいやいや……」

 ジョンは人間を咬むような犬ではない。たぶん温厚で気立てが良い。人間を咬んではいけないと、教えなくても知っている頭の良さがある。

 しかしそれは、これからも絶対そうだとは言えないのだ。

 高校生になった和佳子は、さすがにもうリードを外して放し飼いにしてはいけない世の中なのだと知っている。

「ほら、どこの子? 出てきい!」

「いや!」

「嫌じゃなくて……」

 汚いでしょ。

 あまりにも子供が犬小屋から出てこないものだから、和佳子は諦めた。

 家に入って、一番始めに見かけた家族に報告する。

「ばあちゃん、犬小屋に子供がおったんやけど」

「あれな、隣の子らしいわ。ジョンは咬まんと思うけど、ちょっとなあ」

「ほうなんよな」

 二人して、困った顔をして黙る。

 解決策は見つかりそうもない。

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