数年が過ぎた。
和佳子がジョンを放し飼いにし始めてから数年が過ぎた。
中学生になった和佳子は、相変わらずジョンを放し飼いにしたまま、勉強にスポーツに励む日々を送っていた。青春である。
和佳子が通う中学校までは少し距離があって、和佳子はもっぱら自転車通学をしている。
帰り道、自転車をこぐ和佳子の耳に聞こえてきたのは、先の方で何匹もの犬が吠えている……喧嘩でもしているのだろうか?
夕暮れ時の薄暗い中で目を凝らすと、遠くに野犬の群れがいた。
「あちゃー、めんどくさ」
和佳子にとって、野犬の群れは怖いというよりは面倒さが先立った。
何せ、野犬というものは特別にしつこい。
集団で自転車を取り囲み、狩りで獲物を追い込みをするようにして自転車と並行して走ろうとするのだ。
「でも、遠回りもめんどくさい……」
和佳子は、いつものように野犬の群れに自転車で突っ込んだ。
キャイン!
ウォン!
ウゥ~。
野犬たちが派手に抗議の声をあげる。
「あー、あー、聞こえんわ。お前らが道を塞いどるんが悪いんじゃ。文句があるなら避けとけ」
和佳子は、前輪で器用に野犬をかき分けて自転車を走らせる。
時折、生意気にも噛みつこうとする野犬に対しては、爪先キックで鼻っ柱を蹴りつける。
「……んん?」
和佳子はふと、見覚えがある気がしてそれを見た。
「うわ、ジョンやん。お前何しよるん」
ウォン!
「いや、ウォンじゃなくて……」
自分ちの飼い犬が、野犬に混じっている……びっくりだった。
しかし和佳子は、毎朝庭の犬小屋から顔を覗かせているジョンを見ている……ということは、ジョンは通いで野犬生活をしていることになる。
「もー、自分で家まで帰りよ?」
ウォン!
意味が通じたのかそうでないのか、ジョンは群れの先頭を走って遠ざかって行く。
その様子は、まるで群れのボスだ。
「犬にも青春てあるんかな?」
客観的に見て、野犬の群れに襲われた女子中学生の図であったはずであったのに、和佳子の様子に動揺は微塵もない。
それで良いのか女子中学生。
和佳子はそれからも、何度となく颯爽と田んぼを駆け抜けるジョン&野犬の群れを見かけることになるのだ。
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