もっと歩けや!




 もっと歩けや!

 と、和佳子はリードをぐいぐい引っ張ってジョンを引き摺っていく。

 もちろんそれが、子供特有の容赦のなさだと和佳子自身は気がついていない。じいちゃんの「散歩に連れて行ってやれよ」という教育を無邪気に信じきって、ジョンが犠牲になったという図が……。

 ちなみに、初日に一回だけ犬の散歩に参加したじいちゃんは、以降「仕事が忙しい」と言って散歩から逃げた。

 だが、それも仕方がないのだ。

 なにせジョンは庭でなら元気に駆け回っているくせに、庭から出そうとすると足を踏ん張って出ようとしない頑固者ときている。

 ジョンの散歩……初日は本当に酷くて、プルプルと茶色い毛並みを震わせて足を突っ張って、一歩も動かなかったほどだ。つまりは0歩だ。0歩で散歩とは、これ如何に。

 それでも和佳子は田舎の野生児として、力任せにリードを引っ張ってジョンを先導し続けた。

 ジョンがキャインキャインと悲鳴を上げても子供は容赦しない。

「うぉらあ! 動けや!」

 大人の目がないのを良いことに、和佳子の腕力とジョンの脚力は自然とたくましくなっていくのである。

 成長期怖い。





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