第7話

 それからの僕の毎日には、必ず青い目をした猫の姿がある。


 彼女は変わらずソファを独り占めしたがったり、味付け海苔をねだったり麦茶をねだったりする。勉強をしていれば邪魔しに来るし、寄っていけば嫌な顔をする。新聞を読んでいればその上に登ってくるので父は居間でまともに新聞が読めなくなったという。ワクチンを打ちに動物病院へ連れて行こうとすると、今まで聴いたことのないような声で威嚇をし、結局海苔につられてケージに入れられ、凄い顔をする。僕が風呂に入っていると意気揚々と風呂の蓋に乗っかって暖を取り、時々湯船に落下して、この世の終わりのような声を上げる。父は、メルがネズミやスズメを捕ってくるたび悲鳴を上げる。それを笑っていた僕の枕元には、翌日、巨大ネズミが置いてあって、メルが得意そうにこちらを見ている。

 そして変わらず僕のベッドに潜り込んで、彼女は眠る。


 僕はもう夜中にひとりで泣くことはなくなっていたけれど、そのかわり時々、あの青い目の女の子のことを思い出した。

 メーは、僕が生み出した存在だ。だから、彼女は概ね、僕の都合の良いように振る舞って、僕がしてほしいように動いてくれていた。僕が子猫を人間の少女だと思っていたのは、きっと、彼女の口を通して、僕の欲しい言葉をもらうためだったのだと思う。


――いつも一緒にいるよ。


 あのときの、あの言葉もきっとそうだ。大切なものが欠けた僕の世界を、補うための言葉。

「ね、メーちゃん」

 僕の腕に体重を預けて眠るメルの眉間を撫でる。彼女は耳を少し動かしたけれど、眠気が勝るのか、目を開けずにしっぽだけで応えた。

 彼女の言葉が、彼女のものでなかったにしろ、僕の側にいてくれることは変わらなかった。彼女が何を考えているのか、実際のところはよくわからない。僕のことを、ご飯とあたたかい住処を与えてくれる都合の良い存在だと思っているのかもしれない。それでも、彼女の体温に僕は何度も救われてきた。

 名前を呼ぶような甘えた鳴き声も、露骨に浮かべる不機嫌な顔も、ときどき枕元に置かれる獲物たちも、やわらかな毛並みも、じっと僕の顔を見つめるその青い目も。

 ずっと、僕の側にあったのだ。

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