ブレグジットへアクセスする最良の道

売ってるものも含め、ここ数か月で読んだ中で一番面白い読み物だった。

EU離脱というマクロなテーマと毎日のメシというミクロなテーマ。なんという魅力的な題材か。考えてみれば、多くの日本人にとってEUというのはなかなかに身近にならない地域だ。日本に住んでいてまず気になるのは中国と韓国とアメリカの動向だ。EUが直接的に日本へ影響をもたらすと感じている人はどのくらいいるだろうか。あいまいなゆえの憧れが少々あるくらいで、観光旅行のイメージで終わっている人も多いはずだ。それゆえに、本当はどうなのかという関心は眠らせたまま終わっているのではないか。

こうした人々に情報を与えてくれるのが移住者である。移住者はリアルを教えてくれるというより、リアルそのものだ。制度に振り回され、医療や教育などを常日頃から気にしなければならないし、ヴィザや口座なども頭痛の種だ。そうした日常を過ごしている人が持つ知識とそこから生まれる知恵は、ドメスティックな立場からの調べもので得られるそれとは比べ物にならない。これを決して堅苦しくなく、しかし丁寧に描き、普段目にするニュースとはもう一つ違う軸の視点を与えてくれるのがこの作品だ。

これは現地にただ住んでるだけの人が、新聞とテレビを見ながら食事をとるだけで編み出せるようなチャチなエッセイじゃない。さらりと読みやすい文章の中に、多くの複雑なハードルをクリアしなければ生み出せない様々な宝石が眠っている。これを見通す鋭い洞察と高度に洗練された表現はなかなかに両立できないはずだ。身近で、詳細で、ぐぐっと引き込まれた。

間違いなく価値がある内容だ。
出会えた幸運に感謝。

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