第四話 キミノココロ

 ***

「メロ、大丈夫か!?」

「うっ・・・、だい、じょうぶです・・・。多分・・・」

「ケガしたとか、どっか痛いとこねえか?」

「な、ない、です!」

 管理棟へ向かおうと食堂を出た瞬間、天井が落ちてきた。通っていた道は一階。でもなんとか生き埋めは避けられた。食堂のスタッフは先に避難誘導をして間一髪助けられたにしても、瓦礫によって通路は塞がれた。

「あーくっそ。出れねえ」

「ど、どうしましょう・・・」

「とにかく、ここの棟が襲撃されても、今は敵機の音は聞こえない。あーでも外に出たらそれなりにリスク背負うから回り込むぞ!目標は管理棟だ!」

「ら、了解ラジャ―!!」

 流石の身のこなしで瓦礫を避けて先を急ぐ。ここの基地に来た初日に叩き込まれた脳内マップでぐんぐん進む。敵機襲来の予感はなく、ただの威嚇でここを襲撃したのかと推測するが、気を散らさんと走りを緩まない。

「メロ、大丈夫か?」

「はいっ」

 毎日特訓を受けているとはいえ、不安に押しつぶされそうになっているのは表情で分かる。さっき返事と共にした敬礼は隊長直々の指導がゆえ、こんな緊急事態でも綺麗だったが、内心は相当焦っているであろう。マロウ自身、そうであるが故の推測だ。

「あーーーここもダメかよっ」

「だい、じょうぶですか・・・っ?」

 マイナス発言に後悔する。現場でもよく隊長に叱られていた。

「ああ、大丈夫だ。あと数か所手段はある。行くぞ!」

「はいっ」

 長い廊下の先は、管理棟へ続く大広場だ。ここを出れば、一気に目的地に向かう選択肢が増える。一筋の光が見え始めた、その瞬間。

「ひっ・・・・!!」

 2人の顔色が一気に引いた。

「たすけて・・、たすけて・・!」

「誰か・・・・・」

「!!!」

 地獄の如く、状況は最悪だった。血が飛び交い、あちこち体の部位が欠けた人間らしき物体が、うごうごと助けを求めていた。

「行く、ぞ」

「マロウ先輩・・・!」

 行くしか、ないんだ。それしか、道は。

「ああ、あ・・・・」

 ゾンビが一番近い表現だ。けど一つ違って、体の部位が欠けた非人間の物体の数々は、もう召されている。

「っ、ううう・・・」

 後ろからメロがシャツを掴んで離さない。刺激が強かったのか。

「ごめん、ごめんなさい・・!!」

 ああ。違う。

 この子はそういう子じゃない。

「メロ」

「はいっ・・・」

「お前のせいじゃ、ないからな」

「・・~~~っ」

 皺つけんなよ。そう言ってゆっくり歩きだした。

 手遅れなのだ。この人たちは。もう何をしても生きていられない。それに、今ここでかろうじて生きていける人間を担いでも、治療はままならないだろう。さっきいた食堂の奥に介護室はある。きっと、管理棟で力尽きるだろう。

「ううう・・・・」

「!」

 目の前に体を引きづりながら現れたのは、さっき逃がした食堂のスタッフだった。

「あ・・・!」

 金縛りにあったように動かなくなる。マロも不審に思い、シャツから頭を離した。

「なん、でもない。見んな」

「え、あ・・・!」

 手遅れだった。マロは、そのまま黙り込んだ。

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キミトボク廻ルセカイ まみむめも。 @mamimumermo223

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