第三話 カガヤクタイヨウ

『総員!!聞こえるか!!』

 隊長の声だ。いつも冷静なのに、切羽詰まっている。レシーバーからはたくさんの人たちの声が聞こえていて、きっと避難誘導に努めていると伺えた。

「こちらケール!!今っ、二棟にいます!アヤを迎えに行きます!!」

了解ラジャ―!!メロ、マロウ、聞こえるか!!』

『こちらマロウ!!メロと一緒にいます!無事でっ・・うわぁっ!!』

 マロウの悲鳴とともに、瓦礫の崩れる音がした。

「マロウ・・・!!」

 いや、今は気にしている場合じゃない。一刻も早く、アヤを迎えに行かなければ。生存確認ではない。きっと生きていてくれている。そう信じる。

『ケール!アヤを頼む。俺は二人を!』

了解ラジャ―!!」

 寮の棟に行くと、騒然とした。宿泊用の簡易の基地だとしても、こんなに簡単に敵機の襲撃で粉々と砕け散るものか。辺りはガラクタの山と化していた。

「たす・・・けて・・・」

「!!」

 か細い、女性の声が聞こえた。

「ど、どこですか・・・!?い、今!!」

「もうダメだよ」

「!!!」

 瓦礫の影から、アヤが出てきた。彼の足元には、苦痛に叫ぶ女性がいた。粉々になったアスファルトに押し潰され、下半身が無くなっている。見た瞬間、ああ助からないと無慈悲に終焉を思った。

「・・・・っ!」

 あまりの残酷な姿に、息を飲んだ瞬間、女性は小さく息を漏らし、動かなくなった。

「・・・あ、だ、ダメだ、生きて・・・!!ダメだよ、死んだらダメだ!!」

 転がるように駆け寄る。けれど、美しい横顔はもう助けを求めてこなかった。

「あ、あ・・・・!」

「・・・・大丈夫?」

 アヤが声をかけたのは、女性ではなくケールだった。顔色一つ変えず、ケールに手を差し伸べた。

「顔色、悪いよ」

「あ・・・っ」

「大丈夫?」

「ああ・・・・」

 必死に取り繕って、大丈夫だと言おうとした瞬間、嘔吐した。女性にかからぬよう、後ろを向いて汚物を出す。アヤは、ゆっくり背中をさすってくれた。そのうち、レシーバーから雑音がした。

『ケール!!ケール、大丈夫か!?』

 隊長の声だ。応えなければ。

「こちらアヤ。ケールと合流しました。異常なしです。今そっちに向かいます」

了解ラジャ―気をつけろよ』

了解ラジャ―

 アヤは、怖いくらい冷静に応え、ケールにレシーバーを渡した。

「勝手に借りてごめん。行こう。立てる?」

「・・・・・・ああ」

 さっき何か食べなくてよかった。吐き気は引いて、足取りも大丈夫だ。もう一度、女性を眼中に入れる。見えている体には、多くの傷が付いていた。きっと、最後まで抗い続けたのだろうか。悲鳴が、耳から離れない。

「・・・・ごめんなさい。助けられなくて」

 どうか、来世は。

 そう言って、瓦礫を後にした。

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