【0話】『平成が連れて行った』




「また、平成が、連れて行ったねぇ……」



テレビからは今日も、人気俳優の訃報が聞こえていた。


平成の終わり。


その日が伝えられたあとから、著名人の訃報を聞く機会が増えたと、誰もが漠然と感じていた。

もちろんそんなことはない。例年通りに人は生まれ、死んでいく。

ただ、平成という時代に輝いた彼ら彼女らの死は、平成の終わりを象徴するかのように、人々の心に影を落としていた。


そんなとき、誰かが言った。


「平成が連れて行ったんだ」と。


誰がその言葉を発したのかは、分かっていない。

けれどその言葉は、救いの言葉だった。

好きな人を、憧れた人を、愛した人を喪った人を救う、祈りの言葉だった。


平成だってさみしいのだ。一人でいなくなるのはさみしい。だから、連れて行くのだ。平成に生きた人を、一緒に。


それ以降、人々は少し明るくなった。

身近な人の死にも、著名人の死にも、意味がついた。


平成が連れて行った。


その言葉も、残り一ヶ月の命だ。


テレビからは、今日も誰かの訃報が流れている。


平成が連れて行った。


テレビを見ていた老婆は小さく微笑むと、静かにまぶたを閉じた。

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