第9話 豚喧嘩する

 ふぁぁーっ。よく寝たわ。千代はまだ寝てるわね。もう、可愛らしい寝顔しちゃって!デブだけど!


 豚は、ふと気になった。千代が寝るときに抱きしめているボロボロの人形。


 いくらなんでも、ボロボロ過ぎよねー。いいわ!あたしが直してあげる!裁縫レベル1になったんだから!


 ちくちく…。ちくちく…。


 「…ぶーちゃん、おはよー。」


 「ブヒ。」

 おはよー。もう、直し終えてから、驚かそうと思ったのに…。


 「ぶーちゃん!!!わたしの人形に触らないで!あー!!どうして!どうして!こんな酷いことするの!!」


 「ブヒ?!」

 ちょっ!ちょっと何よ!あたしが親切にボロボロの人形直してあげてたのに、何が文句あるわけ?!


 「ぶーちゃんのバカ!バカ!バカ!」


 「ブヒ!ブヒ!」

 あんたみたいな、デブながきんちょにバカ呼ばわりされるいわれはないわよ!あたしの親切がわからないなんて!本当に可愛くない子!!


 「ぶーちゃんなんて!大キライ!!」


 「ブヒ!」

 あたしだって、大キライよ!


 「ぶーちゃんなんて!いらない!もう!どっかいって!」


 ――越後屋千代の私物最適活用スキルの対象外になったため、脳が非活性化されました。


 「ブヒ。」

 ぶひぶひ?ぶぶぶー。


 ぶひ。


 ぶひひ。


 千代から本当に嫌われた。あれ以来、目も合わせてくれない。豚の意識ながらに傷つく。うっすらとした豚の意識で認識できたのは、あの人形は母の形見だったらしい。

 さらに、あたしが豚の意識で何日か過ぎたある日、見切りをつけた藤兵衛とうべえに養豚場に出荷された。


 ガタゴト…ガタゴト…。

 荷車にちょこんと乗せられ、城とは反対方向に進んで行く。

 うっすらとした豚の意識で、あやまりたいと涙が伝う。


 ガタゴト…ガタゴト…。


 ――越後屋千代の私物最適活用スキルの対象になったため、脳が活性化されました。私物最適活用スキルがLV2に上がったため、30分範囲外行動が行えます。


 「ブヒ!」

 あやまりたいの!


 荷車を飛び降り、道をひた走る。短い足でひた走る。荷車のおじさんが、荷車を引っ張りながら追いかけてくるが、ひた走る。


 「ブヒ!」

 会いたい!


 何度も転び、何度も捕まりそうになりながら、ひた走る。


 「ブヒ!!」

 会いたい!!


 ――越後屋千代の私物最適活用スキルの範囲内に戻りました。


 二人は抱きしめ合い、そして、大泣きした。


 「ごめんなさい!」「ブヒ!」

 ごめんね!ごめんねー!


 越後屋を飛び出した千代を追いかけて出てきた政の計らいで、豚は越後屋に買い戻されることになった。


 てってれー♪

 ――あいてをおもい。きずつき。ゆるしゆるされ。愛情ポイント10を獲得した。




 その後…


 「ぶーちゃん!わたしの人形に変な服着せないで!」


 「ブヒィィィ!」

 変な服とは失礼ね!お詫びに着せたオシャレなロングカーディガンじゃない!あたしは服装のセンスだけでナンパされたこともあるのよ!


 「ぶーちゃんなんて!だ…ちょっとキライ!」


 「ブ、ブヒ!」

 あ、あたしもちょっとキライよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

豚。それがあたしだよ。転生だけど豚なのよ! 酔玉 火種 @yoidama-hidane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ